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数m先も見えない猛吹雪。
昼のはずだけれど、とても暗く、移動は正気の沙汰ではないように思えます。
かと言って、ここでじっとしているわけにもいかないし……。
みんなの顔を見ていると、とても不安そうだし、寒そうにしています……ん? 寒そう?
魔法で空気を調節していたはずだけど……あ、『マップ』なんかの魔法の効果が全部なくなっている?
おかしいな……。
1度使えば、数時間は持続するはずなんだけどなぁ?
いや、ここでは、何故かわからないけど、転移魔法が使えない。
ならば、最悪の場合、魔法自体全く使えない可能性もある。
……確かめよう。
──『マップ』──
──『サーチエネミー』──
──『ストリームコントロール』──
──『エアコンディション』──
ほっ……良かった。使えた……。
……となると、転移魔法だけが使えないのかな?
そういえば、街中だと魔避けの結界があって、空間転移などの魔術に制限がかかるとかなんとか言ってたっけ……。
街に魔物が入り込まないようにしてあって、その結果、魔術の効果が薄れる……とかなんとか。
もしかしたら、ここもそうなのかもしれない。
そうなると、ここら辺から離れれば、転移魔法が使えるようになるかな?
よし。
どうして、こんな場所に来てしまったのか疑問はあるけど、それは後回しにするとして。
とりあえず、移動しましょう。
『マップ』で現在地を確認……確認できないぞ?
中央に僕自身を示す光点があるだけで、あとは真っ暗です。
こんなはずでは……。
拡大してみても、変化ありません。
知っている場所ならば、表示されるのに……。
少なくとも、エマーソン領は街の周辺のみならず、それなりに歩き回りましたからね。
だとすると……ここはエマーソン領ではない?
どういうわけか、転移魔法が暴発して、全く知らない場所に飛ばされた?
しかも、飛ばされた先が結界で覆われ、再度の転移魔法が封じられていて、元の場所に戻れない?
……そんなことがあるのでしょうか?
いや、実際に僕たちの身に起こっていることではありますけど……。
偶然にしては、おかしすぎますね……。
ならば、何者かの作為……?
いやいや、先走ってはいけません。
このような状況だと、どんどん悪い方に考えてしまいます。
推論に推論を重ねても、意味ないのです。
前提がまちがっていることもありますからね。
「ふーーーーっ!」
大きく深呼吸をします。
冷たい空気が、熱くなった頭の中を冷やしてくれました。
「シータ?
このままなにもしない、というのが一番良くないわ。
すぐに移動するか、一旦ここに留まるか。
どうする?」
……こういうとき、ヴィッキーは頼りになりますね。
長く冒険者をしていると、突発的な異常事態に陥ることがままあるのか、非常に落ち着いています。
「移動した方が良いわぁ……。
このままだと、じり貧になると思うのぉ……」
「や、です。
寒いのです。
風を防げるようにして、ここでじっとしていれば、そのうちこの吹雪も止むです」
「ぴゅっ!」
ふむ?
どっちも一長一短ありますね……。
どうしようか?
「そうですね……。
では、ここでカマクラを作って少し休みます。
1時間くらいかな?
そのあと、移動します」
さっきまでランナバードと戦闘していたから、消耗している体力を回復させます。
ついでに、簡単に食事にしましょう。
ただ、その状態でいてもなにも解決しないので、移動はします。
今の時間は……午前11時30分。
ならば、午後1時になったら動き始めれば、日が暮れるまで数時間はあるから、そのあとのことはそのときに考えましょう。
……無謀かもしれないけど、じっとしていれば良くなるとも限らないので、なんとかしてこの状況を打開しないとなりませんからね。
「じゃあ、行動開始です」
「わかったわ」
「はぁい……」
「おー、です」
「ぴゅー」
生きるために、頑張りましょう!
なんやかんやあって、カマクラができました。
早速、中に入ります。
……ふぃー、暖かいです。
魔法でも空気を調節して風を防ぐことはできますが、それでもあの猛吹雪となると、心許ないのですよ。
恐らく、視角による影響もあるんじゃないかな、と思います。
こうやって、目に見える形で風雪が遮られると、それだけで安心感が増しますよね。
僕は〈道具〉から薪を取り出して、火を着けました。
まずは……お湯を沸かしましょう。
──『アクアクリエイト』──
鍋に水を張り、火にかけます。
すぐには沸きませんけど、その間に肉に串を刺して、火の側に置いておいて……と。
「『ファイア』」
ヴィッキーが魔術を使います。
なにをするのかと思ったら、掌に火の玉を出現させ、それを鍋の水にぶちこみました。
水は瞬く間に沸騰します。
…………。
強引なことを……。
まぁ、良いか。
僕は沸いたお湯でお茶を淹れて、みんなに渡しました。
ずず、と啜ると、冷えた身体が温まるのがわかります。
……はぁ、生き返る。
みんなの顔に安堵が広がるのを見て、やっぱり休憩して良かった、と思いました。
午前中は、ランナバードを探して歩き回ったし、それが見付かったらすぐに戦闘になったし、その直後におかしな場所に来てしまったし。
僕もそうだけど、思ったよりも疲労していたようでした。
あとは、簡単にだけど食事して甘いものでも食べれば、問題はないでしょう。
──『アクアクリエイト』──
僕はもう1つ鍋を用意して、水を張りました。
またヴィッキーに魔術で沸騰させてもらます。
そこに茹でてあるジャガイモとニンジンなどの野菜を入れて、火にかけました。
〈道具〉の中に入れておけば、時間経過による劣化はないので、予め火を通した野菜を準備しておいても腐ることはなく、むしろ料理の時間短縮になるのです(本当に時間がなければ、そのまま食べても良いし)。
肉を入れておくと出汁になって美味しいのだけど、それだと時間がかかるので、今はやりません。
野菜と同じように、既に火を通してある薄切りのオーク肉(タレを加えて焼くだけで生姜焼きになる)を鍋に投入、さらに別に取ってあったフォンドボー(カッコよく言いましたが、実はただの肉の茹で汁)を加えます。
適当に、ローリエっぽい香草をパラパラ入れて、少ししたらカレー粉を取り出しました。
味見をしながら、カレー粉を入れていきます。
日本にいた頃なら、市販されている固形のカレールウを入れるだけで良いのですが、カレー粉となるとそうはいきません。
なんせ香辛料なので、入れすぎると、途端に不味くなるのですから。
用量には気を遣います。
ちょうど良いかな、というところで止めて、塩を加えて味付けの調整します。
ご飯を炊かず、パンと一緒に食べるつもりなので、あまりトロミはなくてサラサラのスープ状態です。
まぁ、寒いのだから、この方が良いと思いました。
さて、串に刺した肉にも火が通って、よく焼けました。
深皿にカレースープを盛って、焼きたてのパンを〈道具〉から取り出して配ります。
マシロ用にオーク肉の丸焼きも出しました。
準備は完了です。
「では、いただきましょう」
「「「いただきます(です)」」」
「ぴゅっぴゅっ!」
うん。
美味しくできました!
これからどうなるかわからないけど、美味しい食べ物を美味しく食べられるうちは、全く問題はないと思います。
やっぱり、美味しい食べ物は偉大だよなぁ、と思うのでした。




