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空間転移魔法のテストを終わらせて、帰ることにします。
せっかくなので、覚えたての転移魔法を使うことにしました。
直接、エマーソンのお屋敷に戻ることも可能なのですが、一旦街の外へと転移することになります。
その理由は、街に出入りする際に検問があるからです。
商人などから税金を取ったり、不審者を入れないようにするためなど様々な役割があり、僕も街から出入りする際に確認されています。
なので、コッソリと転移魔法で街中に入ると、不法侵入者になってしまうのです。
僕は領主であるエマーソン家の客分という扱いのため、顔を覚えられています。
それなのに、入った記録のない僕が街中にいるというおかしな事態になり、エマーソン家に多大な迷惑をかけてしまうので、大人しく正面から、というわけです。
さて。
転移魔法を使うのですが、なるべくなら人前で使うのは避けたいところです。
なんて言ったって、転移魔法です。
その利用方法は計り知れません。
ちょっと便利な乗り物扱いならばマシな方で、要人暗殺とかに使われたらたまったものではないからです。
なんせ、1度でも行ったことがあれば転移できるのです。
お城などの重要な設備でも簡単に入り込め、アッサリと出ることができる。
それがどんなに恐ろしいことか、想像は難くありません。
もちろん、僕はそんなことはしません。
いや、そもそも、僕はやらないなどと言っても、それを信じられる人はそうそういないでしょう。
騙されて、やってしまうかもしれません。
人質を取られて、脅されたりするかもしれません。
人は疑うイキモノなのですから。
それを思えば、僕が転移魔法など使えることなど、知られない方が良いのです。
そのためならば、どんなことも厭いません。
それは労力や苦労などではなく、必要な努力なのです!
まぁ、そんなわけで。
──『ディメンションゲート』──
転移するための扉を開きます。
まず、魔法が完成したことで、出口側の扉は無事に開いたことがわかります。
そこにはおかしな障害物などがなく、あとは出るだけです。
──今のところは。
ただ、それは人や魔物がいないというわけではないのです。
扉が開いたあとで、近くまでやって来ることはあり得ますので。
そうなったら、出てきた僕と正面衝突してしまうでしょう。
……というか、その程度で済めば良い方で。
それ以上に、最悪の事態はいくらでも考えられるので、転移先の確認は必須でしょう。
でも、顔だけ入れて覗き込むことはできないので、別の手段が必要です。
──『ピーピングホール』──
覗き穴を作る魔法です。
これによって、出口側の確認ができるのです。
実はこの魔法、結構前から見付けていたのですが、使うことができなかった、よくわからないものでした。
いくらやっても発動しないので、犯罪に使える魔法だから、使用制限があるのかな、なんて思っていましたが。
なんのことはない。
空間に作用する必要があるため、空間魔法系と組み合わせないと使えなかった、というわけなのでした。
それはさておき。
『覗き穴』を覗くと、街を囲う壁がすぐ近くに見えます。
街の出入り口となる門からは死角となる場所に扉を開いたので、簡単には見付からないと思いますが、念のためにしっかりと確認します。
──誰もいないし、魔物みたいのもいないですね。
よし、行こう!
ささっと扉を通って、転移完了です。
手早く魔法を解除して、何事もなかったかのように街に向かうとしましょう。
ふむ。
この魔法、本当に便利です。
もう、これなしには生きていけないほどですね。
……あ。
こうなると、移動用のゴーレムが用無しになってしまうかも……。
せっかく作られたのに……。
「ぴゅ〜……」
いや、マシロのせいじゃないし。
こうなったのも、運命なんだ。
成仏できるように、お祈りしましょう……南無。
「ふーん……あたしたちが二日酔いで苦しんでたのに……」
「カワイイ女の子と楽しいデートかしらぁ……?」
「浮気、なのです」
…………。
どうして、こうなった……?
夕食の席で、今日あったことを話していたら、3人の機嫌がみるみる悪くなっていきました。
……まだ、アルコールが残っているのですかね?
「……(ぎろり)」
「……(じとっ)」
「……(どすっ)」
……ごめんなさい。
ウソです、冗談です、イッツアジョーク!?
だから、ルナさん?
フォークで脇腹を突かないで。地味に痛い。
メイドさんがなにも言わずにルナのフォークを交換しますけど……その前にマナー的にどうなのかな、誰か注意してあげて?
うぅ……。
メイドさんたちの視線まで冷たいなんて……。
いつの間に、彼女たちは敵に回ってたんでしょう?
……いや、最初からか。
そもそもはエマーソン家のメイドだから、シアたちの味方に決まってる。
初めから僕に勝ち目はなかったんだ、ちくせう……。
僕はオーク肉のロールキャベツをモソモソと口に運ぶけど、ちょっと塩味が強くないかな……あ、僕の涙のせいか。
「まぁ……冗談はさておき。
女の子が1人だなんて、おかしくない?
夢じゃなかったの?」
ヴィッキーの言う通り、確かにあんな場所に女の子が1人でいたなんて、僕も他人から聞いたら、ちょっと信じられません。
ちなみに、メイドさんたちの目があったので、空間転移魔術については話していません。
知らない方が良いこともありますからね。
まぁ、だからでしょうね。
肝心なことを話さなかったから、おかしな展開になっているのですわけで……浮気だなんだ、みたいな言われ方をされるとは思わなかったですけど。
「あらぁ……でもぉ……ヴィッキーちゃんもそのくらいの年の頃には、1人で雪の中を走り回っていたわぁ…。
大丈夫、おかしくないわよぉ……」
…………。
うん、顔を真っ赤にしているヴィッキーはさておいて。
カワイイけどね!
「マシロも見たので、夢ではないですよ」
「ぴゅっ!」
ウソじゃないよ、とマシロが声の出します。
「マシロが言うなら、本当なのです」
……いや、まぁ、その言い方にはいろいろ言いたいことがありますけど、それはあとにするとして。
全情報を開示してない以上、話はこれまでにしましょう。
3人にそう目配せすると、頷いてくれました。
うん。
以心伝心というのは、ありがたいことですねぇ……。
アイコンタクトのみで伝わるというのは、パーティーとして強みになるのではないか……そう思います。
「夢ではないなら……もう少し、その女の子のことについて聞きたいかな?」
「そうね……シータがそんな風に言うのだから、よっぽどカワイイ女の子なのかしらぁ……?」
「気になるです」
……はて?
おかしいな……?
3人とも確かに微笑んでいるのに、この背中に走る悪寒はなんなのでしょうね?
奥歯がカッチカチなって、背筋がゾックゾクします。
とにかく。
食事をとっとと終わらせて、事情を説明しましょう。
でないと……。
「あらあらぁ……シータったら、もっとゆっくりと食べないとぉ……。
せっかく作ってくれた料理人に失礼よぉ……」
あれれー?
ご飯の味がしなくなったよー。
おかしいなー?
「ぴゅ?」
そうだ!
僕にはマシロがいる。
助けて、マシロ!
「ぴゅっ!」
僕と目が合うと、マシロはしゅるしゅると身体を動かして──台所へと行きます。
よくよく見ると、マシロのお皿は空です。
ま、まさか、お代わりをもらいに行くと見せ掛けて、逃亡を図ったのですか!?
なんてことだ……。
「まだ、食事の途中だし、じっくりと話が聞けるわ。
楽しい食事には、楽しい会話が必要なのよ」
「期待してるです」
…………。
今宵は長くなりそうですね……。
はふぅ……。




