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空間転移魔術。
遠く離れた場所に、一瞬で移動する魔術。
その利便性は、もはや口にするまでもありません。
僕は今まで、そんな魔術があるとは思いませんでした。
存在を考えたことがありません。
……いや、あったら良いな、とは思いましたけど、それは青い猫型ロボットがいたら良いな、とか、異世界に行けたら良いな、の空想の類いに近いもので──
ん?
……僕の今の状況は、それらの空想と変わりませんでしたね。
ははは。
あー……もう、自分でなにを考えているのかよくわからなくなりましたが、つまり、その、なんだ。
ようするに、空間転移魔術はあるのだ、ということです。
うん。
本当に、混乱してます。
思考が支離滅裂ですが……ちょっと落ち着こう。
ふむ。
空間転移魔術は存在する。
それは、目の前で確認しました。
ならば、マシロが魔法として使えるはず、という結論になります。
それを僕は今まで気付けなかった、というだけのことでした。
では、これからどうするか?
膨大な魔法のリストから、なんとかして探すのです。
空間転移魔術の利便性は言うまでもありません。
あるとなしとでは大違いです。
使えないなら諦めますが、見付からない、見付けられない、というのは容認できません。
なんとしてでも、見付けて使えるようにならなければ!
僕は、メニュー画面から〈魔法〉の一覧を出しました。
相変わらず、うんざりするほど大量に魔法名が並んでいます。
それらはいずれも、キチンと扱えば僕の助けになるとてもありがたいものなのですが、こうもたくさんありすぎると、なかなかどうして、ありがたみも薄れます。
そうですね。
書棚にズラリと並ぶ、百科事典を思い出しました。
1冊数白ページの事典が30冊以上もあれば、うんざりするのもむべなるかな、です。
調べ方を知らないと、ムダに時間を使うわけですよ。
同様に、魔法の一覧を手当たり次第に眺めても時間のムダです。
検索することにします。
それっぽい単語を入力していきました。
こればかりは手当たり次第にならざるを得ませんが、仕方ありません。
そもそも、どういう魔法名なのか、わかりませんからね。
とりあえず、『空間』とか『次元』とか調べたかったのですが、あいにくそれらしい英単語を思い出せません(僕の英語の成績は残念でした)ので、『転送』とか、『跳躍』とか、『移動』など、いくつか調べてみました。
空間転移とは違う有用そうな魔法を見付けましたが、それは別の機会に試すとして。
……あった。
ありました!
『次元』でした!
まずは、『ディメンションリープ』です。
どうやら、短距離転移みたいですが、使ってみないとなんともわかりません。
次に、『ディメンションゲート』です。
こちらは、長距離転移ですね。
扉が開くイメージでしょうか。
ふむ?
やるか?
いや、待とう。いきなりは怖すぎる。『石の中にいる』なんてことにはなりたくないです。
なので、実験ですね。
──『ディメンションゲート』──
扉──縦が2m、横が1mほどの虹色の光がうにょうにょと煌めく空間──が出現しました。
少し離れた場所に同様のものがあります。
恐らく、入口と出口なのでしょう。
一旦、解除すると、扉が消えました。
──『ディメンションゲート』──
もう一度魔法を発動させ、今度は先ほどとは違う場所に扉を出現させました。
うん。
ちゃんと、任意の場所に扉が出てきます。
次に。
入口側の扉(Aとする)に雪玉を投げ入れました。
全く抵抗する様子もなく雪玉は扉を通り、出口側の扉(Bとする)から出てきます。
今度は逆に、Bの扉から雪玉を投げ入れると、同じようにAの扉から出てきました。
ふむ。
不可逆ではないようです。
良かった。
物体は大丈夫だったので、次は、生物で試したいですが……いや、その前に死骸で試しますか。
ゴブリンの死骸を〈道具〉から出して、AとBの両方から同様に試しました。
結果も変わりません。
……まぁ、これは念のためというか、なんというか。
ではでは、大本命の実験です。
生物を転移させます。
でも、僕やマシロがいきなり飛び込む気はさらさらないので、空を飛んでいる鳥を捕まえて、それで試そうと思います。
──『スタン』──
視界に入った数羽の鳥を魔法で痺れさせ、気絶して落ちてきた鳥を手にして、扉の前へ。
ドキドキします──なんてこともなく、ポイと鳥を放り投げました。
Aを経由して、Bから出てきます。
僕は鳥の元まで歩いて、それの状態を確認しました。
──『メディカルチェック』──
念のために魔法も使いますけど、全く異常はありません(痺れて気絶はしているけれど、それはそれとして)。
何度か試しましたが特に問題はないようで、これは無事に生物実験が成功したと言えるでしょう。
ふむ……。
よし。これ以上試すことはできないし、そろそろ、僕自身で試してみますか!
「ぴゅっ?」
なにかあったときのために、マシロには離れていてもらって……と。
僕は扉の前へと歩を進めます。
ちょっと……緊張しますね、これは。
恐る恐る、人指し指を扉に近付けていきます。
指だけ扉に入りました。
次に、手首まで入れていきます。
そして、腕を入れて……引き抜きました。
むぅ……。
なんら違和感はありません。
ただ、腕を入れても、出口側に突き抜けたりはしていませんでした。
ということは、全身を通り抜けさせないと、転移できないのかな?
首だけ入れて、反対側の様子の確認とかできないのか……。
……事故とかありそうですね、なんらかの対処を考えないと危険かもしれない。
まぁ、それはあとで良いとして。
よし。
次こそは、転移してみましょう。
男は度胸!
ふぅっと息を吐いて……そりゃ!
特に何事もなく、出口側の扉から出られました。
振り返って、もう一度通り抜けます。
変わらずに、元の場所に戻れました。
うん。
おかしなところはなにもなし。
体調も違和感なし。
──『メディカルチェック』──
魔法での診断も、特に異常なし。
よっしゃ!
転移魔法の成功です!
「ぴゅぴゅぴゅっ!」
マシロが飛び付いてきたので、撫で回します。
なんと言っても、この仔の存在があっての魔法ですからね。
ちゃんとご褒美をあげましょう。
オークを丸ごと1体ですよー。
「ぴゅっ!」
マシロがオークを食べている間に、何度か扉を出したり消したりしていろいろ試した結果、大体わかりました。
入口側の扉は、目の前に出てきます。
出口側の扉は、任意の場所に出すことができます。
といっても、僕の知っている場所になります。
『マップ』の魔法に連動させることができるので、1度でも行ったことがあれば、『マップ』から扉を設置することができます。
ただし、壁の中であるとか、なにかの物のあるような場所には、そもそも扉が開きません。
なので、『石の中にいる』状態にはならないかと思います。
また、通行中は、扉を閉じることはできないようです。
よって、左半身がこっちで、右半身が向こう側という、グロテスク展開はないので安心しました。
この際なので、短距離転移魔法の『ディメンションリープ』も試してみました。
これは、視界内の任意の場所に転移できる魔法のようです。
ポンポン、と連続では跳べませんけど、かなり便利そうですね。
ただ、この魔法は注意が必要です。
気を付けないと、事故になる危険性があります。
人や物の多い場所では、多用しない方が良いかもしれません。
なんにせよ、とても良い魔法を見付けました。
正しい用法で、キチンと使いこなしたいと思います。




