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遅れました。
申し訳ありません。
ふはははは、僕は風だ!
風になっているのだ!
ウィルフレッドに乗って、雪原の中をひた走ります。
一面遮るもののないここは、なにも考えずに、ただ前へと進むことができるから、とても爽快です。
日本にいた頃は馬に乗ったことがなく、友人から乗馬は最高です、というのを聞いても全くピンと来ませんでしたが、実際にやってみると(乗っているのは馬ではないですが)、その気持ちはとてもよくわかりました。
初めて乗ったときはあまりの揺れに乗り物酔いしましたが、それは他人の後ろに乗っていたからで、今みたいに自分で操縦していると気持ち悪さなどなく、ただただ楽しいです。
そういえば、車の免許を取得したときもそうでした。
教習所の先生によると、加速や停止、曲がるときなどが自分のタイミングでわかるので、三半規管への影響が軽減されるとかなんとか。
なので、今もそうなのでしょう。
走らせる前は、酔ったら回復魔法を使えば良いか、と考えていたので、良い意味での誤算でしたね。
とても気分が最高なので、どんどんウィルフレッドを走らせます。
天気が良くて積もった雪が眩しいけれど、こういうときはフルフェイスの兜を被っていて助かるなぁ、とか思います。
魔法なんかの効果で、寒さはほとんど感じられないのもあって、グイグイと速度を上げていきました。
雪を蹴立てているので、パウダースノーが煙のように巻き上がっていきます。
端から見たら何事か、と思うような光景かもですね。
ここで、ピンと閃きました。
──『マリオネットアーム』──
〈道具〉から魔鉄の巨剣を取り出して、魔力の腕に持たせます。
それを、ウィルフレッドに乗ったまま、ブンブンと振り回しました。
両サイドで振ってみたり、あるいは、前方で薙ぎ払ってみたり。
ふむ?
これはなかなか良さそうですね。
大量に魔物が出てきた場合、今みたいに、魔物を殲滅しつつ移動できると、生存確率が大きく違いますからね。
そういう機会があるのかどうかわかりませんが、想定しておくのは、良いことでしょう。
備えあれば嬉しいな……ではなく、備えあれば憂いなし、と言いますからね。
うん。
やっぱりダンジョンみたいに狭いところでいるよりは、こうやって広い場所で開放的にいた方が楽しいです。
これからも、たまにはこうやって全力で広い場所を走るのも、アリかもしれないですね!
しばらくそうしていると、さすがに少々疲れたので、ウィルフレッドを止めて休憩することにしました。
「ぴゅっ!」
マシロには、丸々と焼けたオーク肉を食べさせ、僕は街で買い込んだ食べ物を取り出して食べます。
この〈道具〉の中に仕舞うと、温度やなんかは全く変化しないので、とても便利です。
寒空の下で熱々のものを食べるなんて、最高の贅沢ですなぁ……!
僕とマシロは黙々と食事をします。
僕は普段から食事のときはあまり喋らないし、マシロは言わずもがなです。
いつもワイワイと騒がしかったのはヴィッキーにシア、それとルナがいるからなのだな、と改めて気付きました。
と、ここで僕の視界の隅になにかが見えました。
はて……?
ここは一面遮るもののない雪原のど真ん中です。
そしてさらに、僕はウィルフレッドに乗ったままなので、その視点はかなり高いです。
移動モードの地竜型なので3mほどあり、その上に僕が座っているので、恐らく4mくらいに僕の目はあります。
にも拘わらず、それは唐突に僕の目に入りました。
白い白い雪の中に、ポツンと佇む黒いそれ。
僕との距離は結構離れているためハッキリとはわかりませんが、どうやら人のように見えます。
ただ……いくら目を凝らしても、足跡のようなものが見えません。僕の視力は相当良いので、それくらいなら見えると思うのですが……。
尤も、魔術のような不思議な力があるので、宙に浮いてそこまでやって来た、という可能性もなきにしもあらずですけど。
それでも、この開けた空間でフワフワと浮いていたら、視界に入りそうなものです。
それとも……?
と首を傾げて考えていたら、また新たな闖入者の姿が見えました。
その黒いそれのさらに奥から、ぞろぞろとオークの群れが現れました。
……つか、アイツらはどうして、こんな寒い中を群れて歩いているのでしょうか?
食べ物なんかはそう簡単に見つからないでしょうし、それを求めるなら森とかへ行けば良いのに。
なんだろうね?
僕みたいな冒険者がいるのを期待しているのかな?
だとしたら、かなり効率悪いと思うのですが……。
まぁ、良いか。
オークの考えることなんか、全くわかりません。
気にするだけ、ムダですね。
……って、そんなことはどうでも良いです。
あの黒いなにかに、オークの群れが向かっています。
あれって、人──それも女性っぽいし、助太刀した方が良いかな?
クッコロなんて展開になったら、イヤですしね。
でも、こんな場所に1人でいるくらいだから、それなりに腕に自信があるのかも。
だとしたら、「横殴りした」だなんて、文句を言われる可能性もあります。
んー?
どうしたものかな?
そうだなぁ……近付いて聞いてみましょうか?
助けを求められたらそのままオークを倒せば良いし、大丈夫だって言われたら離れて見ていれば良いし。
「よし、行こうか、マシロ」
「ぴゅぴゅっ!」
僕はマシロを一撫でしてから、横向きだったウィルフレッドを方向転換し走らせ──
「っ!?」
「ぴゅっ!?」
──るや否や、突然目の前に現れた黒いなにかにぶつかってしまったのでした。




