71
今日、僕たちはエマーソン辺境伯領に3つあるダンジョン──新たに発見されたものを含めれば4つ──のうちの1つ、最も初心者向けの、通称『草原のダンジョン』に行くことにしました。
これは、街から1時間ほど歩いた場所にある草原の真ん中にあるから、そう呼ばれています。
街から近いだけあって、領の騎士団や街の警備隊が訓練のために頻繁に入るため、内部の魔物が増えることがなくそれほど危険がないことから、冒険者ギルドでは初心者冒険者にダンジョンの潜り方を学んでもらうように、行くことを推奨しているのです。
新たに発見されたダンジョン──仮称『紅の森のダンジョン』は、僕たちが見付けたのですが、まだ確認のための調査は済んでいないため、入ることはできません。
そのため、予行練習……とは違うかもしれませんが、まずはダンジョンとはどのようなものか、それを知るために『草原のダンジョン』に潜ることにしたのです。
『草原のダンジョン』は初心者向けというだけあって、そこまで広くないようです。
深さも、地下5階までとあって、慣れたら日帰りも可能だそうです。
なので僕たちも朝早くから潜って、地下5階に到達し、日暮れまでには帰ろうということにしました。
まぁ、僕たちには、1度最奥まで行ったことのあるヴィッキーがいるので、そこまで苦労しないと思っているので、このような計画になったのです。
そんなわけで、夜が明ける前に起きて、身支度を調え出発、太陽が昇り始めた頃、ダンジョンの入口に到着したのでした。
「……なんで、ダンジョンの周りだけ、雪がないんだろう?」
思わず、口から疑問が漏れてしまいました。
そうなのです。
雪の積もった雪原をえっちらおっちら歩いていたら、前方にぽっかりと雪がなく泥だらけの地面が見えてきて、その中央に穴が空いていたのです。
近寄ってみたら雪が溶けていて、その中央の穴を覗くと、地下へと続く階段が見えました。
「これが、『草原のダンジョン』よ」
後ろからヴィッキーが言いました。
僕は振り向いて、首を傾げます。
「ぴゅっ?」
「入るとわかるけど、中の温度は一定なのよ。
だから、その熱が周囲の雪を溶かしたのね、きっと。
あたしが入ったときは暑い時期だったから、中は涼しく感じられたわ。
それもあって、何度も潜ったのよね……」
なるほど……地下ならそれもおかしくありませんね。
天然のエアコン?
ただ、地熱で雪を溶かすほどだと、結構暑くないかな?
そうでもないのか?
「なんでも良いけど、早く入るです。
暖かいなら、尚更です!」
寒さに弱いルナは、震えながら言います。
「うぅん?
中が暖かいなら、『ポカリポカッシュ』の効果は邪魔になるかもしれないわぁ……?
『アクヒエリアス』は持ってたかしらぁ……?」
シアは、自分の『アイテムポーチ』の中を探しています。
ちなみに、『ポカリポカッシュ』は飲むとポカポカと暖かくなるもので、『アクヒエリアス』は逆にヒンヤリと涼しくなる飲み物です。
……僕はこのネーミングに、絶対に日本人が関係していると、確信しています。
「一応、冷たい水は魔法で出せますので、あまりキツいようだったら撤退しましょう。
では、入りますよ」
「おー!」
「はいです」
「はぁい……」
「ぴゅぴゅっ!」
ダンジョンの中は、いかにもよくありそうな洞窟になっていました。
思っていたほど内部は暑くも寒くもなく、快適に過ごせそうです。
通路はそこそこ広く感じられますが、気を付けないと横で戦う味方に振るった武器を当ててしまうかもしれません。
大振りにはせずに、コンパクトに振るうことを意識すること……ですかね?
そうなると……。
「ゴーレムはどうします?」
今は、僕の〈道具〉に収納している(歩いてここまで来たので、必要なかったのです)のですが、どうしたものかな?
「そうね……。
ここの魔物はそんなに強くないし、いらないかな。
知らない場所なら、盾役として出しておきたいけど、そんなこともないしね」
確かにヴィッキーの言う通り、調べた限りここに出てくる魔物は、グリーンスライムにジャイアントバット、ゴブリン、コボルト、オーク、スケルトン、ゾンビなので、そこまで苦戦するとは思えません。
念のために地図も購入してあって、奇襲されやすい場所などは頭に入っているから、ゴーレムによる囮も必要なさそうです。
「じゃあ、今回はなしで……」
「んー、待ったぁ……」
と言いかけた僕を遮って、シアが声をあげました。
「今日は予行練習ってことで来たのだから、あくまでも本番のつもりの方が良いわぁ……。
ゴーレムを前に出してどういう風になるか、キチンと確認しましょう……」
ふむ?
言われてみれば確かに……。
もしかしたら、なんらかの不具合が見付かるかもしれませんしね。
「さんせーです。
視界が塞がれるとか、射線が確保できないとか、いろいろ問題が出てくるかもです。
やっておいて、損はないです」
なるほど、尤もです。
「……そうね、そうしましょう。
シータ、お願い」
「はい」
僕は〈道具〉から、ウィルフレッドを取り出します。
ゴーレムは無機物なので、こういう持ち運びができるのは、便利ですよね。
まだ移動モードだったので、戦闘モードにします。
こうなると、そこそこ広いと思ったダンジョン内も、少し狭く感じられます。
なんせ身長が250cmはあって、それ相応に横幅もある上、大きな盾と金砕棒を持っているので、かなりの体躯なのです。
「んー、まぁ、盾役なんだし、このくらいの方が良いのかな?」
「どうかしら……?
あたしは1人だったし、パーティーでここに入ったことがないから、なんとも言えないわ」
「ぴゅ〜」
「とりあえず、進んでみましょう……。
おかしなところがあれば、その都度、対処すれば良いわぁ……」
「そうです、行くです!」
じゃあ、ウィルフレッドを少し前方に置いて、ヴィッキーとルナが並んで、シアを中間に挟んで、僕が最後尾という順で行きましょうか。
「それでは、作戦は『命を大事に!』で。
出発します!」
初めてのダンジョン探索。
どうなることやら。
一応、僕も男なので、こういうのはワクワクしています。
ちょっとの不安と、大きな期待。
それを胸に秘めて、僕は足を前に踏み出すのでした。




