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呆然としている僕を、兄だと言うエルフは嘲笑しながら、掌をこちらに向けました。
「『ウィンドボール』!」
ゴゥッ!
その掌から放たれた何かが、物凄い速度で飛んできて、僕の身体を打ち据えました。
単語の意味からして、風の弾丸のようなものを放つ魔術なのでしょう。
めちゃめちゃ痛いです。
みぞおちに当たったのですが、ヘビー級ボクサーにホディブローを喰らわされたかのようです。
ただ、声は出さないように我慢します。
それは、連中を喜ばすだけですからね。
尤も、蹲っている僕を見てケタケタと笑っているのだから、あまり意味はないかもしれませんけど。
「無様だな」
「おいおい、あんまり痛めつけんなよ。
使えなくなるだろう?」
「顔にしたらー? どうせ、見えなくすんだしー」
「殺すなよお。死体としたくないぜえ」
「調教すんなら、俺にもヤらせろ!」
コイツら……。
マジで、下衆の極みエルフですね……。
なんて考えていると、コツコツと足音がして、僕の側で立ち止まりました。
見上げてみると、兄エルフです。
「……ふん」
痛っ!?
兄エルフに、僕は髪を掴まれ持ち上げられました。
その細腕に関わらず、軽々と僕を持ち上げるのは、これも魔術でしょうか?
なるほど。
魔術が使えるというだけで、大きな顔ができるのも頷ける話です。
こんなことされたら、魔術が使えないヒトは、抵抗なんてできないでしょうね。
「無能な妹の使い途を考えてやったんだ。感謝しろ」
今までのイー君なら、抵抗らしい抵抗をすることなんてなかったでしょうね。
でも──。
「……余計なお世話、です」
僕はペッと、兄エルフの綺麗な顔に唾を吐いてやりました。
あ……一部の人には、ご褒美かもしれないですね、これ。
尤も、彼には信じられないことのようで、愕然としていますけど。
なんせ、今まで魔術が使えず無能だの、醜いだのと心底蔑んでいた妹に、唾を吐きかけられたのですからね。
プライドの高いエルフ様には、屈辱の行為でしょう。
今、どんな気持ちですか、プークスクス。
「……き、貴様……殺してやる! 『ウィンドボール』!」
ゴゥッ!
「がっ!?」
ドガンッ!
僕の挑発に、顔をどす黒くさせた兄エルフによって至近距離から放たれた魔術に僕は吹き飛ばされ、壁に叩き付けられました。
……メッチャ痛いです。
そういえば、僕──というかイー君の身体は、パッシブで魔術が使われているんじゃなかったでしょうか?
えーと、『自動治癒』と『身体強化』?
でも、魔術を喰らって痛いし、その痛みもなかなか治らないんですけど……これ、骨、折れてますよ?
それとも、魔術の効果があったから痛いと思う程度、骨折程度で済んでいる……ということ?
実際は内蔵破裂して、死んでてもおかしくないくらいの魔術なのですか、『ウィンドボール』って?
「オーイ、そんなにマジになるなよ……。ひくわー」
「本当だぜ、死んだらつまんないだろうが……」
「そうだよ。殺すなら、せめて俺たちがヤったあとにしてくれる?」
「だな。お前の『ウィンドボール』、けっこうシャレにならん威力があんだからよ。
痛め付けるなら、もっと弱いのにしろよ。
つか、それくらいなら俺たちにヤらせろ」
やっぱりです。
意外にも、『ウィンドボール』は強い魔術みたいですね。
いや、話を聞いていると、兄エルフが使うから強力なのかもですが。
いくら下衆でも、エルフはエルフ、ということなんですかね?
ふぅ……。
思ったより煽り耐性のない兄エルフが僕を殺そうとするのを、周囲の下衆エルフが止めている間に、すぅっと痛みが引きました。
これが『自動治癒』の効果ですか……?
ふむ。
なんとも不自然に回復しましたが……まぁ、今はありがたいと思いましょう。
今までのイー君にとっては絶望に叩き込んだ呪いのような魔術ですけど……今の僕にとっては、ここにいるクソエルフどもをクソミソにしてやることができる切っ掛けになる祝福の魔術なんですからね。
今、クソエルフどもは、僕がダメージが大きくて動けないと思って、油断しているでしょう。
そうでなくても、魔術が使えない欠陥エルフだと思っているでしょう。
だから、何もできないと思っているし、何があっても対応できると思っているでしょう。
──違いますよ。
お前らクソエルフの前にいるのは、魔術の使えないイー君じゃないんです。
神様に準じる力を持った管理人さんから、魔法を使うチートをもらった僕なんですよ。
だから。
僕をとっとと殺さなかったクソエルフたち。
これからは僕の番です。
後悔しながら死んでいってください。
慈悲なんてないですよ!