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僕は魔法を使えるのは、ひとえにマシロがいるからです。
正確に言うと、魔法を使っているのはマシロで、僕は何の魔法を使うかを選択しているに過ぎないのです。
その魔法の数は、膨大です。
正直、メニュー画面にある〈魔法〉のリストを見たときは、目眩がしました。
攻撃用の魔法は禁じられているため使えないのですが、その分もリストから消されておらずグレーアウトしてあるだけなので、なおさら量が多くなっています。
並び替えできれば良いのですが、五十音だったり、『下級』『中級』『上級』などのランク毎だったりと、微妙に使い辛いのです。
検索もできますが、魔法名にはどういうわけか英単語が多く(ラテン語もそこそこある)、学生時代に英語の成績が残念だった僕としては、非常に苦労しています。
そんなこんなで、実は僕は、(マシロが)魔法がどれだけ使えるのか把握していません──把握できない、といった方が正しいでしょうか。
どれだけ便利なものでも、使いこなせないのでは宝の持ち腐れです。
例えて言うなら、超高性能コンピュータを与えられた幼稚園児、みたいなものでしょう。
キーボードの平仮名や片仮名をなんとなく理解して、ポチポチと叩いて、画面に文字や絵が出てきて喜んでいる。
今の僕は、そんな程度のものです。
まぁ、それでも絶大な効果を発揮しているわけですが。
特に、『サモンソイル』と『メイクメタル』の魔法の組み合わせの効果は素晴らしいです。
よくぞこんな魔法を見付けたものだと、自画自賛したくなりました。
『サモンソイル』の魔法で土砂を出して、『メイクメタル』で望む金属を抽出、精製する。
魔力を多く込めれば、『サモンソイル』で出す土砂に金属成分を多く含ませることが可能なので、これだけで鉄などの金属をいくらでも作れるのです。
……いや、いくらでもは言い過ぎですが。
尤も、誤算もあります。
今、僕がいるこの場所が地球ではなく、異世界であることを忘れていました。
そうです。
地球にはない、謎の金属があったのです。
僕はただの鉄を作りたかったのですが(いずれ玉鋼にも手を出すつもりだった)、何故か魔力を宿した鉄──魔鉄ができてしまいました。
ここで僕は、マシロの魔法が先程の例で言うところの超高性能コンピュータであることに気が付きました。
使用者である僕の思惑を超えたものが作られてしまったのです。
もちろん今回のケースは例外の偶然の産物なのでしょうが、こういったことが起こり得てしまうとなると、様々な金属を作るのに、とても苦労しそうです。
逆に考えれば、ファンタジー金属──アダマンタイトやオリハルコンなども魔法で作れる可能性もある、ということなのですが。
……まぁ、それができるまで、スゴい時間の試行錯誤が必要になるのでしょうね。
とりあえずは、代表的なファンタジー金属であるミスリルを作るのを試してみたいと思います。
そうやって、段階的に難易度を上げていきましょう。
今は試すことすら無理ですが、いずれはオリハルコンにも挑戦したいです。
超高性能コンピュータを与えられた幼稚園児だって、いつかはそれを使いこなせる日が来るのですからね。
魔鉄をシアに渡したら、製作意欲が刺激されたのか、工房にすっ飛んで行きました。
これから徹夜で、みんなの武具を拵えるのでしょう──ヴィッキーの剣以外。
あとで、食べるものを持っていくとしましょうか。
さて、ちょっと実験を。
──『サモンソイル』──
──『メイクメタル』──
意識して鉄を作ろうとしたら……できました。
敢えて魔力を抑えないと、魔鉄になってしまうみたいです。
ふむ?
魔鉄を大量に売るのはシアに禁止されてしまいましたが、鉄なら構わないでしょう──あまりやると値崩れしてしまうから、ほどほどにですけど……。
でも、まぁ、これでこれからお金に困ることはなさそうです。
はっ!?
ピンときましたよ!
僕の灰色の頭脳が閃きましたよ!
確か宝石って、岩とか鉱物が熱せられたり冷えたりして結晶化したもの……ではなかったですか?
自然にできるものなのだとしたら、魔法でもなんとかできるのでは……?
いやいや、待て。落ち着け。
ここは冷静になりましょう。
今はまだ無理ですが、いずれはできるようになりましょう。
そうなれば……くくく、億万長者ですよ!
お金があれば、大抵のことは可能になります。
そうなれば、恋人の家で居候をするなどという情けないことからも、脱却できるのです。
ふふふ、ははは、ふはははは!
夢が広がるのです!
「ああ、魔宝石ね。
結構、流通しているわよ」
「はい?」
僕の灰色の頭脳が繰り出した、『魔法で宝石を量産、一気に億万長者大作戦』のアイディアを、ヴィッキーに話しました。
シアにも自慢したかったのですが、忙しそうにしていた(魔鉄を触ってニヤニヤしていました)ので、ティータイム中のヴィッキーを見付けて、自慢したのですが……。
「魔術で作れることが、どれくらい前だったかしら……数百年とかだと思ったけど、かなり前に発見されてね。
それ以降、天然物の宝石と、魔術製の宝石──魔宝石とが区別されたわ」
…………。
「見た目はほとんど一緒だけど、魔宝石はその名の通り、魔力を帯びているから、すぐにわかるの。
最初の頃は、詐欺があったとか習ったけど、今はもう全くないわね。簡単に比較できるし。
まぁ、そんなことやったら重罪だけど……」
…………。
「魔宝石は、いろいろなことに使えるから、便利なのよ。
魔術の行使に補完したり、魔力を貯めておけるのがあるから、それを使えば魔術の使えない人でも使えるようになったり……ああ、魔道具にも使われたりするわね」
…………。
「だから……そんなに大儲けはできないわよ」
「ぴゅっ……」
……ノォォォォッ!?
なんてことですか!?
既に同じことを考えた人がいたなんて!
ぐはぁっ!?
恥ずかしい!?
ドヤ顔で自慢しておいて、この様なんて!?
テーブルに突っ伏して、頭を抱えてプルプルと震えている僕を見て、ヴィッキーはどんな表情をしているのでしょう?
プークスクス、と笑っているのか。
はぁ、と溜息を吐いて呆れているのか。
どちらにせよ、恥ずかしさのあまり、表を歩けません。
頬の熱が引かないまま僕が悶えていると、頭をポンポンと撫でられました。
チラリと見ると、慈愛の表情をしたヴィッキーが僕の頭に手を伸ばしています。
「ふふ、別に居候でも良いじゃない。気にすることないわよ」
「ぴゅぴゅぴゅ」
……くっ、殺せ!
ひと思いに、僕のことを殺してください!
エルフだけど、男である僕の『クッコロ』なんて誰得なんですか、と現実逃避した頭の片隅で考えつつ、僕はイヤンイヤンと悶え続けるのでした……。




