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「確かにこの森、知らずに見たら、スゴい不気味ですね……」
僕たちは依頼を受けた翌日、早速オーガを探し倒すのと、ダンジョンを探しに『紅の森』にやって来ました。
ここに来るのに、移動モードの地竜型ゴーレムに馬車を繋いで走らせました。
御者は当然、ヴィッキーです。
お気に入りのウィルフレッドを操縦しているので、ご機嫌はMAXで、スゴいスピードで走らせます。
……もちろん、すぐにシアに怒られましたけど。
そのあとは、法定速度くらいで落ち着きました。
『紅の森』に到着したら、ウィルフレッドを戦闘モードにして、探索開始です。
彼(で良いのかな?)を全面に出して、ソロソロと進みます。
この赤い樹木というのは、思っていたのとだいぶ違いました。
もっと鮮やかな朱を想像してたのですが、ここに立ち並んでいるのは、薄茶色の木肌に赤い線がうねっているのです。
パッと思い浮かんだのは……血管でした。
その赤い線が無数にあるので、少し離れて見ると、全体的に赤い木に見えます。
そういえば、樹液が赤いと言っていましたね。
ならば、こういったのも想定しておくべきだったかな?
魔法を使って上空からこの森を見下ろしたら、周囲の雪の白と、森の木々の赤のコントラストは、なかなか綺麗でした。
……けど、やっぱり間近で木を見ると、少し不気味なのですが。
森の中は雪が薄く積もっていて、特有の足場の悪さもあり、かなり歩きにくいです。
……この雪だけでも、なんとかしようかな?
──『エリミネイト』──
魔法を使うと、僕の前方にある雪が吹き飛びました。
……結構ハデですね。
あまり探し物をしているときに使う魔法じゃないか……。
この『エリミネイト』という魔法は、指定した範囲の中にある指定したものを排除する、というものです。
今回は、僕の目の前の雪を排除するようにしたのですが……結果はよくありませんね。
雪掻きにもあまり使い勝手が良くなさそうですし、当分出番はなさそうです。
まぁ、雪掻きは諦めましょう。
ウィルフレッドの歩く跡を利用すれば、それなりには進めるし。
「うぅ……寒いのです……」
ガタガタと震えながら厚手の外套に包まり、ルナははーっと指に息を吹き掛け歩いています。
……おかしいな、なんでそんなに寒いのかな?
魔法で周囲の冷たい風を遮断した上に、飲むだけで暖まる『ポカリポカッシュ』──通称『ポカポカ』を服用しているのですが……。
少なくとも、他のみんなはそれほど寒そうにはしていません。
仕方ないな……。
──『エアコンディション』──
ルナに空調の魔法を使います。
彼女の身体の周りだけ空気の温度が調整されたはずなので、外套で覆われていれば、内部はかなり温かく感じられると思います。
「おおー。気持ち良いです!」
これで良し、と。
さて。
さくさくと雪を踏んで、慎重に進んでいますが、それなりに広いこの森のどこに、オーガがいるのですかね?
そして、ダンジョンはどこにあるのでしょうか?
「シータは探せないの?」
んー。
『サーチエネミー』の魔法を常時展開していますが、これでわかるのは魔物の有無です。
つまり、種類がなんなのかまではわからないので、反応があったら手当たり次第にそこまで行って、倒さなければなりません。
それでも、オーガの場合はまだ良いのです。
そもそもこの『紅の森』は、魔物の数が少ないらしいので、そこまで東奔西走しなくても良いらしいので。
ですが、ダンジョンは手がかりすらないので、最悪の場合しらみ潰しということになりかねません。
……想像すると、ちょっと──いや、かなりイヤですね。
なにか、良い手段はありませんか?
僕は魔法のリストから、なにか適した魔法がないか探します。
このリストには、膨大な魔法が並べられています。
一応、検索はできるのですが、なかなかピンポイントで見付けられないのですよ。
例えば……なにかを探すのは『サーチ○○』系なのですが、さすがに『サーチダンジョン』なんて魔法はありません。
となると、なにかダンジョンの目印になるものはないかな? と考えていって……うーむ?
……いや、待てよ?
ダンジョンって、魔物だって言ってなかったっけ?
だとしたら、『サーチエネミー』に反応するのでは?
うん。
しばらくは、オーガを見付けるのと平行して、ダンジョンを探しましょう。
運が良ければ、見付けることができるかもしれません。
見付からなかったら……そのときに別の手段を考えるとしましょうかね。
「ありました……」
「あった……」
「あったわぁ……」
「あったのです……」
「────」
『マップ』を拡大してみたら、中央付近に魔物の反応があったので、まずはそこに向かうことにしました。
そうしてその場所に辿り着いてみたら──少し盛り上がった地面にポッカリと開いた穴を発見できちゃいました。
所要時間は、およそ1時間ほど。
アッサリと依頼された内容の半分が達成です。
うん、まぁ、こんなこともあるよね!
なんとも拍子抜けなことですが、良しとしましょう。
ちょっと呆然としているみんなを置いて、ダンジョンの入り口に近付きます。
上から穴を見下ろすと……階段があります。
親切にも、ここを降りろ、ということなんですかね?
……ダンジョン側からすると、中に入ってもらわないと困るから、こうしているのでしょうね。
己の魔力で生み出した金銀財宝で釣って、ノコノコとやって来た人間を喰らって糧とする。
どうにも、食虫植物の類いを思い出します。
……いやはや、怖い怖い。
怖い……のですが、しかし、興味はあります。
この暗い穴の中に入ってみたい、という気持ちに抗えません。
僕はフラフラと階段に足を──
「ぴゅっ!」
ペチン、とマシロの声と共に、尾で頬を軽く叩かれます。
……あれ?
僕は今、なにを……?
「あー。
やっぱりそうなったわね……」
「みんな、一度はそうなるのよぉ……」
「はっ!? 私は今どうしたです?」
苦笑しているシアとヴィッキーに肩を押さえられたルナは、ブンブンと頭を振っています。
「え?
ナニコレ? なんか怪しいガスでも振り撒いているのですか、ダンジョンって?」
「ガスかどうかはわからないけれど、なんらかの理由で、魅了されちゃうのよぉ……。
そうやって近付いてきた人を、ダンジョンは誘い込むのぉ……」
うわ……こわぁ……。
マジで食虫植物じゃないですか……。
「まぁ、そんなに強力なものではないから、今みたいに軽く衝撃を与えるだけで簡単に治せるし。
それと、一度そうなると耐性が付いて次からはなんともなくなるから、初心者限定の罠なのよね」
へぇ。
そして、引っ掛かりやすい初心者を中に連れてきて、パクリといくのか……。
なんというか……良くできてますね。
「さて。無事にダンジョンが見付かったし、あとはオーガを探して倒すだけね。
……この近くにはいないのかしら?」
ヴィッキーが周りを見回しています。
けど、『マップ』によると、この辺りには反応がないし、どこかに行っているのでしょうか?
少ないながらも、少し離れた場所には魔物の反応があるから、そこに行ってみますかね。
そう思って、僕は1歩踏み出しますと──
「ぴゅぴゅぴゅっー!?」
「ん?」
マシロの滅多に出さない大声に、僕は後ろを振り向くと、そこには、ダンジョンの穴から顔を出した鬼の顔がありました。
乱れた髪から覗く2本の角と、大きく裂けた口を歪ませた凶相。
これは……。
「オーガよ!」
「シータ、離れるです!」
シアとルナの声に、僕は考えることなく鬼から離れるべくバックステップ。
だけど……間に合わない!?
鬼──オーガは手に持った錆びた大剣を振り下ろしました!
咄嗟に腕を交差させ、衝撃に備えます。避けられないなら、できるだけダメージを最小限に……!
ガギィン!
腕に取り付けていたミスリルの小盾に、オーガの大剣が当たり、不快な音が響きました。
避けようとして中途半端な体勢だったことと、オーガの膂力によって、僕は吹き飛ばされます。
「ぴゅっ!?」
でも、これは逆に良かったです。
下手にあの場に留まっていたら、追撃を受けて危険でした。
勢いに逆らわずに、ゴロゴロと転がるようにして、離れます。
「シータ!?」
慌ててシアが駆け寄ってくるのが、目の端に見えます。
バシャリ、と液体をかけられましたが、ポーションでしょうか?
……今更ですけど、鎧の上からでも効果をあるのかな、これ?
まぁ、腕の痺れは取れたようなので、ちゃんと効いているみたいですけど。
腕を掴んで起こそうとするシアを手で止めて、急いで立ち上がりました。
念のために、もう少し離れておきましょう。
少し距離を取って、ようやく一息。
身体には異常はないことを確認します。
「大丈夫かしら?」
シアの問いに頷くと、僕は戦闘の様子を見遣ります。
ウィルフレッドを中心に、ヴィッキーとルナの2人でオーガに攻撃を仕掛けています。
オーガの攻撃は危なげなくウィルフレッドが受けているので、ヴィッキーたちに攻撃が流れることはなさそうですね。
オーガは1体しかいなさそうですし、この様子ならさほど苦戦せずに倒せそうですね。
念のために、僕は戦闘に加わらず、周囲の警戒をしておきましょう。
特にダンジョンの入り口には注意したいです。
先ほどと同じようにあそこから魔物が出てきたら、危険ですからね。
まぁ、来るなら来てください。
間髪容れずに、僕の弓矢で射ち抜いてやりましょう!




