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「オーガ……ですか?」
「ええ、『紅の森』で目撃されたようよ』
「『紅の森』……」
まさか、豚はいないですよね……?
「……どこから聞きましょう?
えと……まず『紅の森』というのは……?」
こくり、とコーヒーを一口飲んで、ヴィッキーは話し出します。
僕は、イチゴのショートケーキを切り分け、口に運びました。
うん、美味しい。
酸っぱさのあるイチゴが良いアクセントです。
今日は久し振りに良い天気なので、エマーソン家にお世話になっているお礼に、お屋敷の周囲の雪掻きをしていました。
まぁ、パッと魔法で済ませたので、そこまでは手間も時間もかかってないのですけどね。
ヴィッキーはその間に冒険者ギルドに行って、良さそうな依頼がないかを見てきてくれていました。
その報告を、ティータイムと称して、庭に面したテラスで聞いてきます。
寒さは魔法で防げるので、なかなか快適で優雅な時間を過ごせています。
「ここから南にある森よ。
『紅樹』という赤い木たくさん生えているから、そう呼ばれるようになったわ。
特に今の季節は、とても綺麗なの、白い雪と赤い木が」
へー。
珍しいものがあるのですね。
いや、異世界なら珍しくないのかな?
「『紅樹』は樹液まで赤いから、昔は血を流す不吉な木として、恐れられてたのよぉ……。
今ではその樹液は、薬の材料になるから、重宝されているけどぉ……」
ふーん。
さすがはシア。そういった知識は強いですね。
もぐもぐとおはぎを食べているけど、シアは洋菓子より和菓子の方が好きなのかな?
「そこで、オーガが目撃された……と」
「そう。
この辺りにオーガはいなかったから、ダンジョンが新たに発生したんじゃないか? って、調査のために……」
んん?
「ちょっと待って。
話が飛んでません?
なんでダンジョン?」
「え? ……ああ、そうね。知らないのか。
んー。どこから話そうかしら?」
ヴィッキーは視線を宙に向けて、しばし考えています。
僕はその間にコーヒーを飲み干しました。
シアがお代わりを淹れてくれます。
「まず、オーガはこの辺りにはいない。
だけど、オーガが目撃されたということは、どこからかやって来たということ。
そこまでは良い?」
「はい」
「うん。
で、じゃあ、そのオーガがどこからかやって来たのか?
山でも海の方からでも良いのだけど、その場合、移動している途中で目撃証言がないとならない。
でも。そういった報告はなし。
ならば、『紅の森』に唐突に出現した、ということになる」
ふむ? そうかな?
目撃されずに移動するのも、不可能ではないと思いますけど。
「この季節だからね。
雪が積もっているから足跡は残るし、食べ物を得るのだって難しいから、なんかしらの痕跡は残るの。
もし、そういったのがあったら、周辺の村は警戒するから、隠密できないオーガはすぐに見付かるのよ」
……なるほど。
聞けばオーガは、体長2mを越える立派な体格の持ち主だそうで、こそこそ行動できないから、発見は難しくないのだそう。
実際に、『紅の森』ではすぐに見付かっているし。
「で、『紅の森』で見付かったオーガは、じゃあ、なんなの? ってことになると、こういう場合のセオリーとして、ダンジョンが疑われるってわけ」
「次に、ダンジョンってなに? という疑問に答えるとぉ……」
長く喋って疲れたヴィッキーに代わって、シアが話を引き継ぎました。
「ダンジョンは魔物なのではないか? というのが、定説になっているわぁ……。
ダンジョンコアという、人でいうところの心臓があって、それが周囲の魔力を吸収して成長するのぉ……。
人とかの魔力は吸収率が良いから、人を内部に誘き寄せるために、洞窟とかを模している、と考えられているわぁ……」
んー。
そういえば、先日ダンジョンの話になったとき、あまり研究が進んでいない、みたいなことを聞いたような……?
「そうなのよぉ……。
個体差が大きいみたいで、生態がはっきりしないのよぉ……」
ふんふん。
「わかっているのは、突然出現して、魔物を生み出し、ダンジョンコアを破壊すると倒せる、ということなのぉ……。
時間が経ち過ぎると、魔物が溢れて、ダンジョンから出てしまって、周囲の人が集まる場所を襲撃するから、危険なのよぉ……」
むぅ。
では、見付けたら、即座になんとかしないとダメなのですね。
「そういうことぉ……。
でも、良い面もあって、アイテムが自然発生することがあるのぉ。
あとは、鉱物とか薬草とか。
採っても、時間が経てばまた回復するから、キチンと管理できれば、その恩恵は計り知れないのよぉ……」
ああ、そんなことを以前にも言ってましたね。
つまり、なんだかよくわからないけどダンジョンとはそういうもので、よくわからないけど有為なもの、と理解されているのですね。
まぁ、日本でもありましたね、そういうこと……。
「魔物がいくらでも出てくるから、新兵の訓練とかにも使われているわ。
もちろん、冒険者の良い稼ぎになるから、ダンジョンに潜るのは人気があるのよね」
確かに、RPGにおいて、ダンジョンといえば、素材を手に入れてレベリングができる場所、というイメージですね。
「ただ、危険なことに変わりはないから、そのダンジョンを使うかどうかは、慎重に判断されるのぉ……」
「そこで、そのためには、調査が重要になる……というわけ」
ふぅ。
ようやく、話が元に戻りました。
「では、今回の依頼は、オーガを探して、ダンジョンを見付けて、その調査をする、ということ……ですか?」
「調査まではしないかな。
ダンジョンを見付けられたら、ボーナス。
あたしたちがするのは、オーガを倒すこと」
……?
じゃあ、ダンジョンは?
「もっと、上級の、実力のある冒険者がやるのよ。
とれだけ危険かもわからないから」
…………。
つまり、面倒な探し物はぺーぺーがやって、美味しいところは、別の方々がやるわけですね。
「そういうこと。
仕方ないわ、だって、初めて入るダンジョンは本当に危険なんだから。
少なくとも、あたしでもやったことないし」
ほう?
そこまで、ですか?
「そうよ。
だから、拗ねないでね」
す、拗ねてなんかないですし!
ずずず、とコーヒーを啜ります。
なんか、シアとヴィッキーの視線が変な感じですが、気にしないです。
……ええ、気にしません──ニヤニヤしないで!
「確認します。
今回の依頼は、オーガ討伐。
可能ならば、ダンジョンを見付けること。
ということですね?」
「そういうこと。
ダンジョンの場所を発見できたら、ボーナスが出るから、是非とも見付けるわよ!」
それで、あたしの装備を充実させるわ! と、気合いの入った様子のヴィッキー。
でも……。
「先にわたしの武器の研究に使うから、ヴィッキーちゃんの装備はまだお預けよぉ……」
「なんでよ!?」
ヴィッキーの悲痛な叫びが、部屋の中に響いたのでした。




