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 僕は揺れる鞍の上に座って手綱を操るヴィッキーにしがみつきなから、改めて、シアのクラフトマスターの技能というのはスゴいなぁ、と思いました。


 うっぷ……気持ち悪くなってきた。

 乗り物酔いになったかも……久し振りですね。


 ヴィッキーの腕をタップして、走らせていた()()()()を止めてもらいました。

 ()()()()()()()はゆっくりと止まると、足を折り曲げて座り込みます。


 急いで降りて、兜を外しながら離れた場所まで駆け込むと、しゃがみこんで胃の中のものを吐き出しました。


「ぴゅぴゅっ!?」


 うぇ……自分で車を運転するようになったら乗り物酔いってしなくなったから、てっきり治ったかと思っていたけど、全然そんなことはありませんでしたね。

 シアが近付いてきて背中を(さす)ってくれていますが……鎧越しなので、効果があるのやら……。

 まぁ、それでも、吐ききったので、かなりスッキリしました。


──『アクアクリエイト』──


 魔法で水を生み出し、口の中をゆすぎます。


「大丈夫ぅ……?」


「ぴゅ〜?」


 はぁ……。

 参りました……。


 シアにはなんとか頷きましたが、ちょっとキツいです。マシロにも心配させてしまいましたし……。

 どうしよう……?

 少し休憩して回復してから、再び移動を始めますか……回復?


 あっ!?

 回復魔法を使えば良いじゃないか!

 二日酔いも治るくらいだし。


 思い付いたら吉日。

 早速、試してみましょう。


──『キュアオール』──


 状態異常・疲労回復の魔法を使うと、吐き気やらムカムカしていた胃の中やらが、スッカリなくなりました。


 スゴいなぁ、魔法って……。


 うーん、と僕が感慨に耽っていると、シアが腕を組んで何やら考え込んでブツブツと呟いています。


「あんなに揺れるのなら、馬型の方が良いかしらぁ……?

 でも、そうすると、折角の戦闘能力がもったいないのよね……」


「いや、馬でも同じだと思います。

 そのままで大丈夫ですよ」


「本当に……?」


「はい。それに魔法を使えば治るので、とりあえずはそれで対処します。

 そのうちに、慣れるはずですし」


「ぴゅっ!」


 そう言いながら、ヴィッキーのところに戻ります。

 彼女は何故かゴーレムの背中を撫でていますが、意味あるのかな、それ?


「あ、大丈夫なの?」


「はい、ご心配をお掛けしました」


「それは良いけど……もう少しスピードを落とした方が良い?」


「そうですね……時間はあるし、できればお願いします」


「ヴィッキーちゃんて、スピード狂だったのね……。

 知らなかったわぁ……」


「いえ、叔母……げふん、お姉様。

 この子が賢くて、素晴らしいからです。

 自ら走りたいと言うので、あたしはなにもしていません」


 革鎧越しでもわかる大きな胸を張って、ヴィッキーは言いますが……。


「本当になにもしなかったら、スピードはおろか、走ることさえしないわぁ……」


 呆れたように、シアは言います。


 うん。

 僕もこのゴーレムの運転方法を聞きましたが、基本的には車と一緒です。

 アクセルとブレーキですから。


 だから、速度を出しているのは、歴としたヴィッキーの意思です。

 なにもしないで速度を上げ続けて走る車は、故障車ですよ。


 僕はシアに説教されているヴィッキーを横目に、座り込んでいるゴーレムを見遣ります。


 この丸まって座り込んでいる地竜型ゴーレムは、シアが作ったものです。

 こんなのも作れるのだから、クラフトマスターとはつくづく恐れ入ります。


 地竜というのは、竜と言っていますが、実際は、恐竜のティラノサウルスみたいな、後ろ脚の発達した大きめの蜥蜴のような姿をしています。

 飛竜と同じで、亜竜──竜ではないけど、その眷族──の一種です。

 翼がなく、地を走るのですが、その脚力は強力で、蹴られると人なんて簡単にバラバラになってしまうほどだそうです。


 立った状態だと3mくらいあるので、その上に跨がると、高くて結構怖かったです。


 僕は乗馬経験すらないので、操作はヴィッキーに任せましたが、失敗したかもしれません。

 まさか、スピード狂とは思わなかったです……。


 ヴィッキーはこのゴーレムのことを賢くて、意思があるようなこと言っていますが、実際にはそんなものはなく、スピードを出したのは完全に操縦していたヴィッキーのせいです。


「全く……。

 仕方ないわぁ……自動操縦(オート)モードにしましょう……。

 方向指示だけヴィッキーちゃんがしてね……」


「そ、そんなぁ……スピードは抑えますから、ちょっとだけ、ちょっとだけでも!」


「だぁめ……」


 シアの言葉に、ガックリと項垂れるヴィッキー。

 ……自業自得ですね。

 3人乗りなのにあんなにスピード出したら、事故のときにどうなることやら。


「そもそもぉ……まだできたばかりで、どんな不具合があるかわからないのだから、加減して走らせてって言ったでしょぉ……。

 それなのに、ヴィッキーちゃんたらぁ……」


「うう……ごめんなさい。

 お姉様の作ったものだから、つい安心して……」


「そう言ってくれるのは嬉しいけどぉ……自分の使う道具は、ちゃんと習熟しないとダメよぉ……」


「それは違います、お姉様。この子は──ウィルフレッドは道具なんかじゃありません!」


「……どうして貴女は、ゴーレムにご先祖様の名前をつけるのかしらぁ……?」


 …………。

 まぁ、たまにいますけどね、自分の使う道具とか、乗り物に名前をつける人……。

 でも、まさか、先祖の名前を使うとは……。


「はっ!? 言われてみれば……。

 まさか、この子はご先祖様の生まれ変わり……?」


「……絶対に違います」


 ……っと、そんなコントをしている場合ではありませんでした。

 魔物が迫ってきています。

 1匹だけなので、弓でとっとと射殺しましょう。


「あらぁ……魔物ぉ……?」


「はい」


「じゃあ、ちょっと待って……。

 ゴーレム、戦闘モードに移行」


 シアがそう言うと、音声に従って、ゴーレムが変型(・・)し始めました。

 ヴィッキーが小声で、「ウィルフレッドです、お姉様」と言っていますが、完全に無視しています。


 僅かな時間で、地竜型だったゴーレムは、人型──というよりは、蜥蜴人(リザードマン)になりました。

 身長が250cmほどで、大きな盾と金砕棒(いわゆる鬼が持っているようなアレ)を持っています。


 うわぁ……なにこのロマン機構。

 戦闘能力を持たせた、とは聞きましたが、まさか、変型するとは思わなかったです。


 準備運動なのか、ゴーレムはブンブンと金砕棒を振り回し、大盾を構えて、突撃したり(シールドバッシュ)しています。


「うん……まあまあ、スムーズね……。

 これなら、盾役もキチンとこなせるかしらぁ……?

 どう思う、シータはぁ……?」


 うーむ……?

 中の人(・・・)はいないのですよね?

 だとすると、瞬間的な判断とか、どうしているのでしょうか?


「ゴーレムは、作るときにスキルを付与できるのぉ……。

 これには盾役に必要そうなスキルが付与されているから、十分に動ける……はずよぉ……」


 はずって……まぁ良いですけど。

 前衛に立って、敵の攻撃を引き受けてくれるのなら、十分ですかね。


 それにしても……。

 なんと言うか……もうそれなら、冒険者なんか不必要じゃありませんか?

 全部、ゴーレムに任せてしまえば、それで済んじゃいそうです。


「うふふ……自分で言うのもなんだけどぉ……これだけのゴーレムを作れるのは、一握りの職人だけよぉ。

 それに、スゴい値段がするから、そうそう数は揃えられないわぁ……」


 そうですか……。

 仕事がなくならないようで、安心しました。

 それに、シアはスゴいのですね。

 ところで……そんなスゴいシアに聞きたいことが。


「うふふ、誉められたわぁ……。

 なぁに……?」


「その、スゴい値段のゴーレムを、どうやって賄ったのですか?」


「うん。保管しておいたヨツデグマの毛皮を売って……あ?」


「ほほぅ……?」


 あれは、(なめ)してみんなの防具にするのではなかったのですか?

 そのために保管しておいたと思っていたのですが……?


「ち、違うのよ。

 毛皮を強化する別のアイテムを手に入れようとお店を巡っていたのだけど、そんなときに、移動用と戦闘用のゴーレム、アイデアを思い付いたの。そのための材料が目の前に揃っていたの。でも、それを買うのにお金が足りなくて……。

 だ、だから、つい……ね……。

 毛皮を売っちゃったの、ごめんなさい!」


 ガバッと頭を下げるシア。


 少し離れたら場所では、ヴィッキーが大声で、


「がんばれ、ウィルフレッド!

 そこよ! 盾で受けて、反撃するの!」

 そうよ、スゴいわ、ウィルフレッド!」


 1匹のオークをボコボコにしているゴーレム──もうウィルフレッドで良いかな──を応援しているのが聞こえます。


 はぁ……。

 上目遣いで恐る恐る僕を見つめるシアを、これ以上怒ることなんかできないですね。


「まぁ、ゴーレム(ウィルフレッド)は役に立っていますし、今更言っても仕方ないですね。

 でも、2度目は駄目ですよ。

 次に横領したら、罰がありますからね」


「うぅ……本当にごめんなさい……。

 でも、あれがウィルフレッドという名前になったことが、一番の罰かもぉ……」


 まぁ、そんなに悪い名前ではないし、気にすることはない……ごめんなさい、やっぱり少し気にした方が良いかも。


「ウィルフレッド、よくやったわ!

 あたしたちの身の安全は、あなたに任せるわね!

 本当にスゴい、ウィルフレッド!」


 ……聞こえてくるヴィッキーのはしゃいだ声に、僕とシアは大きく溜息を吐いたのでした。






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