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コボルト退治の依頼を終えて、僕たちは街まで戻ってきました。
そのまま冒険者ギルドに報告に向かい、依頼料を受け取ると、エマーソン家のお屋敷に帰ります。
「おかえりなさい、なのです」
使わせてもらっている部屋に、ルナが寛ぎながら出迎えてくれました。
何か食べているみたいだけど……この匂いはカレー?
「これです? かれーです」
ああ、やっぱり。
「寒いときには、辛くて温かいものが最高なのです!」
「ぴゅっー!」
マシロがルナに飛び掛かり、口を開いて待ち構えます。
そんなマシロに、ルナはスプーンに山盛り掬い、食べさせました。
実は、カレーは昔からある食べ物で、過去に遠いところからやって来た旅人がもたらしたものなのだそう。
その旅人とは──何を隠そう日本人です。
そういえば、以前にフォレストドラゴンのFDさんと話したときに、この異世界に日本人がよく召喚されたり、転移したりしてきた、と言っていました。
そういった人たちが、様々なものを放出したのでしょう。
いわゆる、知識チートというやつです。
その日本人たちが集まってできた国もあるというので、いつか行ってみたいですね。
ちなみに、このアーガスト王国でも、過去に日本人を召喚していたことがあったそうですが、今では禁術となっていて、調べるだけでも問題になるのだとか。
……ちょっと気になりますが、いろいろと面倒なことになりそうなので、止めておきましょう。
まぁ、その恩恵……というとアレですけど、この国は美味しいものが多いので嬉しいです。
お米を栽培していて、日本食っぽいものが食べられるので、正直、このままこの国に永住しても良いかも……とか考えています。
ああ、でも、その前に他の国にも観光してみたいから、落ち着くのはそのあとですかね。
それはさておき。
「食べるのは良いけど……こんな時間だと、夕食が食べられなくなるんじゃない?」
確かに、ヴィッキーの言う通り、今は午後4時です。
おやつには若干遅いし、どうしたのでしょうかね?
「おじーちゃんと遊んでたら、おやつを食べ損ねて、お腹が空いたのです。
晩ごはんはちゃんと食べられるので、問題なしです」
「ぴゅっぴゅ」
ルナが言うおじーちゃんとは、この家の元当主であるヴィルヘルムさんです。
ヴィッキーのお祖父様ですね。
なんでか、ルナと気が合い、よく一緒にいますが……。
「お父様……身体は大丈夫なのかしらぁ……」
シアの言う通り、ヴィルヘルムさんは体調を崩し、シアのお兄様に家督を譲ったのですけど……。
「でも、お祖父様、ピンピンしてますよね?
あたしが連れ戻されるくらいだから、かなり危ないと思っていたけど……」
「おじーちゃん、元気です。
今は、馬に乗って外を駆け回っているはずです。
暗くなるまえに帰るとは言ってたです」
「なにやってるのぉ……お祖父様……」
確かに、夜な夜なお酒を飲んでいますし、アレでは体調不良とは言い難い……。
「……まぁ、お祖父様のことは良いわ。元気ならそれで。
ところで、ルナ。
どうして、今回の依頼に、一緒に来なかったの?」
「ぴゅ〜?」
ヴィッキーがカレーを食べているルナに尋ねました。
ルナと仲の良いマシロも、どうして、と首を傾げています。
僕たちは、今は一緒のパーティーを組んで、行動しています。
さすがに無職として、恋人の実家に逗留するのはいろいろと僕の心がキツかったので、お金を稼ぐ必要があったのです。
尤も、エマーソン家の方々は、絶対に僕から滞在費なんかを受け取らない(受け取れない、だって、貴族だから)ので、狩ってきた魔物などの食材を渡すようにしています。
あるいは、エマーソン家の住まう都市の冒険者ギルドに貢献することで、滞在費の代わりとしています。
特に、今は寒い冬の季節で、外に出たくない冒険者たちが多く、ギルドの依頼が滞っているので、僕たちがちょいちょいそれらの依頼を受けているのです。
僕たちは魔法などのお陰で、寒さの影響はほとんど受けないというアドバンテージを活かし、周辺の薬草を採取したり、都市に寄ってくる魔物を退治したりしているのでした。
ルナも最初のうちは、よく一緒に行動していたのですが……最近、彼女は別行動を取ることが多くなってきています。
「寒いから」とか言っていますが……さて、何かあったのかな?
「言ったです。寒いから、なのです」
「でも、シータの魔法で緩和できるわ」
「そうよぉ……。それに私の作った『ポカリポカッシュ』もあるわぁ……。2つ組み合わせたら、上着なんか要らないくらいよぉ……」
『ポカリポカッシュ』、通称『ポカポカ』とは、ポーションの1種で、飲むととても暖かくなる飲み物です。
名前は……きっと過去にやって来た日本人が名付けたのでしょう。
今のような寒い季節には重宝するのですが、そこそこ値段がするので、稼ぎの少ない冒険者には手を出し難いアイテムとかなっています。
僕たちは湯水のよう(そのままの意味で)に使用していますが、それはクラフトマスターであるシアがいるからです。
彼女は少ない材料でたくさん『ポカポカ』が作れるので、逆に在庫が余り気味ですらあります。
売ってしまいたいのですが、シアの作ったものを売り出すと、確実に市場が荒れるので、止められているほどです。
そんなわけで、ルナが別行動を取る理由として、「寒いから」は変なのですが……。
はぁ、とルナが溜息を吐きました。
「仕方ないです。
本当の理由を話すです」
……うわ、なんだろう?
なんかやたらと鬱々としているけど……。
「私が一緒に行かないのは……出番がないから、なのです!」
ルナはぐっと拳を握って、立ち上がって言いましたが……。
…………。
……は?
「私の持ち味は、高火力で遠距離攻撃のできる、ということです。
なのに……」
1度言葉を止めて、きゅっと唇を噛み締めるルナ。
「なのに、シータが弓を持ったら、ほとんど同じことができるようになったです!
この辺りの魔物は弱いから、ほとんど一撃で仕留めるし、滅多に外さないし、矢が尽きることはないし……。
しかも、私よりも速射性があって、しかも取り回しも良いだなんて……。
一緒に行っても私の出番がないなら、私の行く意味がないのです!」
……ああ、なるほど。
考えてみたら、僕の役割とルナは被っているなぁ。
まぁ、僕の場合、それに加えて、防御や支援魔法なんかを使ったりしていますが……。
そういったのも、予め使っておけば、戦闘中に途切れることはほとんどない。
なので、手が空いたらバシバシと矢を射っていました。
確かにそうしたら、ルナの出番がなくなりますよね……。
しかも、ルナは魔力が尽きないようにセーブしながら魔術を使うので、乱射するわけにもいかないし。
「うーん……でもぉ、わたしも出番なんかないわぁ……」
「シアは武器やアイテムを作ることで、貢献してるです」
「あたしも大したことはしていないけど……」
「ヴィッキーは、斥候したり、シータにアドバイスしたりしてるです」
「ぴゅっぴゅ〜?」
「マシロは言わずもがな、なのです」
おずおずと話すシアとヴィッキーに、バッサリと反論するルナ。
ちなみに、僕とマシロの関係については、既にみんなに話してあります。
でないと、いろいろと困ることがありますからね。
また、僕の前世(という言い方にしました)についても話しました。
隠し事もなんだかな……と思ったので話したのですが、特にリアクションはありませんでした。
それはそれで寂しいのですが……。
閑話休題。
「良いのです。
シータは魔法で皆を支援しつつ、後衛から弓で魔物を射殺すです。
私は新たな力を得るために、今は雌伏のときです」
ルナは服の上からでもわかる、形の良い胸を張りました。
たゆん、という揺れ具合から、下着は着けてないみたいです。
……いや、そんなことはどうでも良くて。
「新たな力?」
「そうです!
今、おじーちゃんに槍術を教えてもらっているです。
これができれば、中間距離から槍で攻撃をしつつ、魔術をブッパすることができるです!」
……何をしてくれているのかな、ヴィルヘルムさんは?
「お父様ぁ……」
「全く、お祖父様は……」
ガックリと項垂れるシアとヴィッキー。
「いきなり槍なんか、扱えるのですか?」
「私をなんだと思っているですか?
ホムンクルスなのです。
最低限の武芸の腕前はあるですよ」
なんと!
「でも、近距離はさすがに危険なので、先ずは、リーチもあって強力な槍にしたです。
おじーちゃんの得意な武器、というのもあったですけど」
ふむ。
確かに、槍は戦場において、かなり有利な得物だと聞きます。
日本でも、戦国時代においての主力の武器で、刀なんかギリギリまで使うことはなかったみたいですし。
「ヴィッキーはどう思いますか?」
ちょっと判断ができないので、ベテランに聞きます。
「そうね……。
悪くない組み合わせだわ。
ただ、前に出るなら、魔力が無くなって動けなくなったときの危険度が高いから、それに気を付ければ……」
まぁ、そこは僕が目を離さないようにしなければ良いですかね。
「じゃあ、お父様から腕前について問題ない、という許可があれば、大丈夫かしらぁ……」
「ええ。
あと、槍だから懐に入られると危険だし、狭いダンジョンの場合、槍は扱えないことがあるから、近接用のサブウェポンが必要ね」
「そこら辺は、おじーちゃんと相談するです」
ふむ。
なら、良いかな。
近距離では、ヴィッキーこと、ヴィクトリア・エマーソン。
中距離では、ルナこと、ルーナリア・ハートフォレスト。
遠距離では、僕こと、シータ。
バックアップとして、シアこと、アナスタシア・エマーソン。
まあまあ良いパーティーになった……かもしれないですね。




