表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/193

58

 僕が、アーガスト王国エマーソン領にやって来てから、3ヶ月が過ぎました。


 冬になり、気温がドンドンと下がって、雪が降ることが多いため、移動が困難になり、アナスタシアさんとヴィッキーさんの実家にお世話になっております。


 エマーソン領ということからもわかる通り、彼女たちは貴族です。

 それも、辺境伯令嬢という、ちょー大貴族なのです。


 少し前までは、ヴィルヘルム・エマーソン氏──アナスタシアさんの父でヴィッキーさんの祖父──が辺境伯として辣腕を振るっていたそうですが、体調を崩したことで息子であるウィリアム・エマーソン氏──つまり、アナスタシアさんの兄でヴィッキーさんの父──が跡を継いだのです。


 ……貴族だろうなぁとは思っていましたが、まさか辺境伯だなんて考えもしませんでした。

 はっきり言って、上から数えた方が圧倒的に早いくらい高位の爵位なので、初めて聞いたときは驚いたものです。

 確か、王族がいて、公爵がいて、その下くらいだったと記憶しています(国によって違うかもしれないですけど)。


 そんな大貴族の家に行って、「お嬢さんとお付き合いしています」とか言いに行くなんて、どんな苦行だろうかと、到着するまで生きた心地がしませんでした。

 しかも、既にお嬢さんをキズモノにしていましただなんて知られたら、殺されるかもしれないと、ガクブルしてました。


 しかし、実際に会ってみますと、とても気さくな方々で、大歓迎してくれたので、とても拍子抜けしました。


 話を聞きますと、どうやら、事前にアナスタシアさんとヴィッキーさんが根回しをしていてくれていたようです。

 こういうときに母親を味方にする、というのは、全世界共通の必須のパターンのようです。


 それに加えて、エルフであることと、アナスタシアさんたちの危機を救ったこと、それと彼女たちの年齢のことが、僕が認められた要因になったようです。


 この辺り一帯──もっと言うと、国境である連峰の周辺全て──では、エルフというのは、崇拝に近い感情の対象としてあるみたいです。

 詳しくはわかりませんでしたが、過去に何やらスゴいことをしたらしいです。

 なので、エルフというだけで、優良物件なのだとか。


 アナスタシアさんとヴィッキーさんを救ったことに関しては、ご家族全員から感謝されました。

 特にアナスタシアさんの場合、あの変態ストーカー男は、この国にいるときから付き纏っていたようで、ご家族も周知のことだったらしく、あの男との経緯を話しますと、随分と憤っていました。


 最後に、彼女たちの年齢についてですが、貴族の子女は基本的に、成人(16歳らしい)したら婚約するなり結婚するなりしているみたいです。

 ところが、ヴィッキーさんはそんなの関係ない、とばかりに家出をしてしまい音信不通に。

 アナスタシアさんに至っては、20歳を過ぎても、見合い話を断るので、家族としてもとても困っていたそうで。


 ちなみに、なんで結婚しないのかアナスタシアさんに聞いたら、


「相手が、40過ぎで後妻を求めてたり、元王族の妾としてだったりで、イヤだったのよぉ……」


 とのこと。

 辺境伯家の令嬢なのに、そんなのばかりがやって来るのでウンザリしたんだそうな。

 もちろん、まともな縁談もあったそうだけど、会ってデートなどをすると、無理矢理迫ってきたり、おかしな性癖があったりと、上手くいかなかったそうです。


 ……うん、アナスタシアさんは変態ホイホイなのかも知れません。


 ただ、エマーソン家の女性は多かれ少なかれ、そういう経験があるそうなので、どうやら血筋なんですかね。


 それはさておき。


 なんやかんやありまして、僕はアナスタシアさんとヴィッキーさんとの交際がエマーソン家公認となり、暖かくなるまでお屋敷に逗留することになったのでした。


 まぁ、夜中にヴィルヘルム氏とウィリアム氏に呼び出され、お酒の相手をさせられ、散々愚痴を言われるくらいは、許容するしかありませんね。

 男親の気持ちは、想像するくらいはできますから、殴られるのは覚悟していたので、お酒の席での愚痴なんか楽勝なのですよ。

 もちろんそれだけでなく、他のいろいろな話を聞けるので、楽しく過ごせています。


 特にエマーソン家の始まりについては、とても興味深かったです。




 エマーソン家はそれほど古い家系ではなく、200年ほど前、始祖は平民だったそうです。

 それも、鍛冶職人だったとか。

 名前は、ウィルフレッドという。


 腕の良い鍛冶職人だったウィルフレッドは、とある貴族に召し抱えられ、武具を拵えていました。

 あるとき、魔物がその貴族の領地に大量に溢れたのだけど、ウィルフレッドの武具を持った兵たちが奮戦し、奇跡的に被害が少なかったのです。

 それを知った当時の王様は、貴族を褒め称え、その貴族はウィルフレッドを貴族に推薦したのだとか。

 それが認められ、ウィルフレッドは一代限りの名誉貴族をなったのでした。


 ウィルフレッドはさらに武具を拵え、その素晴らしい出来から、鍛冶爵と呼ばれるようになり、さらに、彼が自ら最高傑作だという剣は、王族の手に渡り、国宝とまでになりました。


 さて、しかしその鍛冶の腕は、彼の子や弟子には受け継がれませんでした。

 そこでウィルフレッドの息子は、最高の品を1つ造るのではなく、最良の品をたくさん造り、それらをできるだけ多くの人の手に渡らせることを選びました。


 そういうわけで、武具を造っては売り、造っては売りを繰り返していくうちに、いつしかその名声は他国にまで届くようになりました。


 ウィルフレッドは一代限りの名誉貴族だったので、彼の息子は貴族ではありません。

 なので、他国に武具を売ることにさほどの抵抗はありませんでした。

 逆に、魔物に困っている人々の助けになるなら、とドンドン売り出す始末です。


 これに困った王様は、しかし、賢明な方でした。

 抑え付け止めさせるのではなく、その商いを認めたのです。

 ただ、エマーソンという名字を与えて貴族にして、それも商爵という特別な爵位を用意しました。

 こうすることで、先ず国のことを優先的にさせるようにしたのです。


 商爵の武具は飛ぶように売れて、国としても関税など税金が支払われるために儲かります。

 貴族なので、他国からの干渉も最小限にできるということで、商爵を守ることもできます。

 皆が幸せになりました。


 それからもエマーソン家は、始祖のウィルフレッドの血なのか、たまに鍛冶などの生産系の能力に秀でた子供が産まれるようになります。

 商売だけでなく。そういった技術が国に利益をもたらしていくので、今から50年ほど前に、とうとうエマーソン家は辺境の一帯を封ずられ辺境伯となり、今に至るのでした。




 こういった話は、日本では滅多に聞かなかった(僕にそういう知り合いがいなかった)ので、とてもおもしろかったです。

 国の歴史とは違って、個人の、それも自身の能力で成り上がる話というのは、やっぱり良いですね。


 と、同時に、アナスタシアさんについての謎も解けました。


 辺境伯家の令嬢にしては結構自由だなぁ、と思っていたのです。


 結婚に関しても、いくら本人が嫌でも、貴族なのだからそうそう断り続けることは難しいのだと思いますが、それが(まか)り通るということから、何か理由があるのだと感じていました(変態ばかりが集まるというのもあるでしょうけど)。


 それは──アナスタシアさんは生産系の能力にとても優れた才能がある、ということです。


「そうよぉ……」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ