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 ……なんとか誤魔化せました。


 というか、正確には、僕が話し終わってから町長さんたちがそれを反芻しているときに、部屋に飛び込んできた人がいたからです。


 それは、隣室で町長のお孫さんを診察していたお医者さんでした。


「大変です、町長!」


「どうした……あの子に何かあったのか!?」


 椅子に座っていた町長さんが慌てて立ち上がったので、ガタンと椅子が音を立てて転がりました。


「え!? 本当ですか、先生!

 何があったのですか?」


 町長の息子さんがお医者さんに掴み掛かります。


 ……気持ちはわかりますが、少し落ち着きましょう。

 強く掴み過ぎて、お医者さんの首が絞まってますよ。


 仕方ないので、僕は息子さんを羽交い締めにして、お医者さんから引き離しました。

 ああ、暴れないでください。


「先生、すまない。取り乱してしまったようだ。

 それで、何かあったかな?

 先ほどは、孫の命に別状はないと言っていたが……」


 ケホケホ、とむせていた初老のお医者さんも、ベテランらしくこういった反応は想定していたようで、特に怒ることもなく、話し始めました。


「いや、お気になさらず。

 それよりも、お嬢さんのことですが……。

 確かに、命がどうこういう状態ではありません」


「ならば……」


「聞いてください。

 見た限りでは眠っているようなのですが、それはどうやら薬によってもたらされたものだと思います。

 問題はその薬です……」


 詳しく聞くと、それは強力な薬のようで、用量用法を間違えると危険なものらしいです。

 ところによっては、安楽死するために使われることもあるとか。


「さらに、別の薬物と併用していて、もはや毒物と変わらないものになっています。

 このままだと、目を覚まさない可能性も……」


「そ、そんな……」


 町長さんの息子さんの力が抜けて、座り込んでしまいました。

 僕は彼をもう一度羽交い締めにして、椅子に座らせます。


「回復魔術は駄目なのか、先生?」


「解毒の魔術はありますが、それは何の毒物を使われているか、認識する必要があります。

 しかし、2種類の薬物が体内で混ざり、もうどういったものか判断できません。

 これでは、解毒の魔術は効果がないでしょう。

 汎用の、あらゆる毒物に効果がある魔術もありますが、それは毒を弱めるものです。

 あくまで弱めるだけなので、大人ならば患者自身の体力次第では回復を見込めますが、お嬢さんはまだ子供ですし難しいかと……」


 へー。

 解毒の魔術は、毒物の特定が必要なのですか?

 あるいは、毒なら何でも効くけど、弱めるだけで、完全には癒せないものもあるわけですね。


 ふむ?

 魔法ならどうなのでしょう?

 探してみますか。


「どうしても、治せないのか?」


「時間をかければ、あるいは。

 しかし、その間は、お嬢さんは寝たきりになってしまいます……」


「おお……。なんということだ……」


「使われた薬がなんなのか、具体的にわかれば良いのですが。

 犯人ならば知っているので、聞いて……」


「……もう、犯人は死んでいるらしい」


「なんと、そうでしたか……」


 恐らく、あの変態男は、捕まることも想定していた可能性があります。

 何故かと言えば、今の状況で、あの変態男が生きて捕まっていたら、町長さんはお孫さんを救うために何の薬が使われているか聞きに行ったことでしょう。

 あらゆる手段を使って。

 それこそ──司法取引なども考えられます。

 減刑どころか、釈放の可能性もあり得ますので、そうなったらあの変態男は大手を振って出歩くこともできます。


 そこまで考えて、お孫さんに薬を使った──のかもしれません。

 そうだとしたら……ブルブルと背筋が震えます。

 やっぱりあの変態男を町に突き出さないで、FDさんに引き渡しておいて良かったです。


 全く……どこまでも、迷惑な変態男ですね!


 ……と、そんなことよりも、解毒の魔法です。


「えっと、ちょっとよろしいですか?

 実は、僕は解毒の魔術が使えます。

 エルフの魔術なので、もしかしたらお嬢さんに効果があるかも……?」


 と言いかけたところで、町長さんと息子さんの2人が物凄い速度で僕の手を掴み、引っ張ります。


「「急いでお願いする!」」


 痛い痛い!?

 そんなに引っ張らなくても……!


 グイグイとお孫さんが寝ている部屋に連れていかれました。

 肩が抜けるかと思いましたよ……。


「どうか娘を……!」


 懇願するように手を合わせる息子さんですけど……そんなに期待されるとプレッシャーが半端ないです。

 ヤバい、緊張してきました……!


 すーはーと息を整えて、といっても、魔法使うのはマシロなんですけどね。

 では、参ります!


──『キュアオール』──


 様々な状態異常に加えて、疲労まで完全回復する魔法を使います。

 さあ、どうです?


「……ん、んっ……あれ、お父さん……それにおじいちゃん、どうかしたの? あれ? ここ、どこ? え、なんで泣いているの?」


 おお、成功した!

 はぁ……上手くいって良かったです。


 お嬢さんに抱きついている2人をなるべく見ないように、部屋からコッソリ出ました。

 (むせ)び泣いている姿をあまり見られたくないでしょうからね。


(ぴゅっ!)


 うん。

 マシロ、ありがとう。

 面倒事にならないように、マシロには黙って動かないようにしてもらっていたので、少し窮屈でしたね。

 もう少し、我慢してマフラーの振りをしててください。


 軽くマシロの頭を撫でてから、隣室に戻りました。


 お医者さんが興味深そうに見てきたので、頷きます。

 慌てて部屋から出ていって診に行こうしたので、止めました。

 今は少しだけ、家族だけにしてあげましょう。




 お医者さんに魔術について聞かれましたが、僕には答えられないので、エルフの秘技だと言ってウヤムヤにしました。

 少し追求されかけましたが、とにかく誤魔化します。


 しばらくそうこうしていたら、目を真っ赤にした町長さんたち2人がやって来ました。

 入れ替わるように、お医者さんが出ていきます。


 2人は僕の前まで来ると、深々と頭を下げました。


「この度は、2度も孫娘のことを救っていただき、誠に感謝する」


「本当にありがとうございました!」


「……いえ、お嬢さんが助かって良かったです。

 だから、もう頭を上げてください」


 というか、本来はこちらが頭を下げなくてはいけないのです。

 お子さんを巻き込んでしまったわけです。

 我々がここに来なかったら、こんなことにはならなかったのです。

 なので、この状況は胸がとても痛む……!


「本当に、お気になさらずに……」


「なんと謙虚な……」


「さすがは、エルフ様ですね!」


 …………。

 違う、違うのです。

 そんなにキラキラした目で見ないで……!

 罪悪感がスゴい……。


 ダメだ。これ以上ここにいたら、僕の心が潰れてしまって、いらんことを話してしまいそうだ。

 さっさと撤退しましょう。

 36計逃げるに如かず、です!


「あ、あの……僕はもうここで失礼します。

 申し訳ないですが、明日も早いので……」


「む? そうか、いやしかし……」


「確かにお疲れのところ、これ以上は申し訳ないですね。

 だから、お父さん、どうだろう?

 明日、妻たちに紹介するためにも晩餐に招待を……」


 ひぃっ!?

 そんな大袈裟な!

 勘弁してください!


「い、いえ、その……実は、僕は今は護衛の依頼を受けていまして。明日にはここを発つ、ということになっていますので……ははは。そのお気持ちだけで十分です。いや、本当に残念ですが」


 なんか、どんどん早口になってしまいます。

 背中の冷や汗が酷いことになっていますね。


「……そうでしたか。残念ですな」


「でしたら、これだけでもお受け取りください!」


 そう言って息子さんが胸元から、小さな袋を取り出しての僕の手に押し付けてきました。

 チャリ、という感触からして、お金っぽいです。


「100万エギルあります。

 些少ですが……」


「いえ! そういうわけには……!」


 ますますダメです!

 些少とか仰いますけど、100万なんてちょー大金ですよ!

 アカン、ダメ、ゼッタイ!


 だって、これをもらってしまっては、こちらの事情で女の子が拐われて、それを自ら助けて謝礼をもらうという、マッチポンプになってしまいます!


 絶対に良心が痛んで、血を吐いてしまいます!


「実はこれは、娘を助けるために、懸賞金として用意したものです。

 予算にも計上してしてしまったので、こちらとしても困るのですよ」


 懸賞金を支払わないなんて前例は作りたくないのです、というその顔は、父親から役人のそれになっています。


 くっ、ならば!


「でしたら、僕はそのお金を町に寄付します。

 それで、今回の件でお嬢さんを探し回っていた住民の皆さんに、何らかの形で還元してください。

 たとえば、お祭りをするとか……」


 という僕の手を掴み、町長さんたちはブンブンと上下に思いっきり振ります。


「なんという……なんという高潔な……!」


「町の住民のことまで考えるとは……!」


 目に涙まで浮かべて、2人は口々に僕を称えます。


 ……やめてください、心が痛い。


 ははは、と虚ろな笑い声を出すしか、僕にできることはなかったのでした。







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