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FDさんが男を連れて行ってから、しばらくして。
ようやく頭が働くようになりました。
いつまでもここでボンヤリしていても仕方ありません。
意識のない町長のお孫さんと、外套しか着ていないアナスタシアさんをこのままにしておくわけにはいきませんからね。
特に、アナスタシアさんはちょっとした拍子で外套が捲れ上がったりしたら、痴女としてみられる可能性があるので、彼女のためにも早く宿屋に戻った方が良いかと思われます。
FDさんとの念話は、アナスタシアさんには聞こえなかったようなので、男のことでいろいろと聞きたいことがあるでしょうが、あとにさせてもらいます。
アナスタシアさんも、自分の状況を理解しているので、とても聞き分けが良いのでした。
何事もなく、宿屋に到着しました。
ヴィッキーさんたちに出迎えられましたが、話は後回しです。
いろいろとやることがありますので。
先ずは、アナスタシアさんには着替えをしてもらうために、さっさと部屋に戻ってもらいます。
次に宿屋の従業員に、町長のお孫さんを見付けたことを伝えました。
「え!? 本当ですか!?」
「はい。でも、どこに連れていったら良いのかわからないので、とりあえずここに。
申し訳ないですが、誰か人をやって伝えてきてもらえませんか?」
「わかりました、ただちに!」
と言って、宿を飛び出していきました。
これでしばらくしたら、関係者がやってくるでしょう。
僕は、宿屋のご主人に町長のお孫さんを介抱してもらうために、部屋を用意してもらって、そこで寝かせてから、アナスタシアさんの部屋に行きました。
そこでは、着替えを終えたアナスタシアさんを説教しているヴィッキーさんの姿が。
どうやら、1人で宿屋を抜け出したことを怒っているようです。
思わず、部屋から出ていきたくなりました。
が、なんとかこらえて、ソファーに座っているルナの隣に行きます。
「FDさんのこと、ありがとう」
僕が声をかけると、眠たそうな顔をしたルナは、
「気にしないで良いのです。
結果的に、私と父様にとっても良かったですので」
「そう言ってもらえると、助かります。
ところで、ルナはどこまで知っているのです?」
「シータとそれほど変わらないです」
「そう……」
ふと見ると、いつの間にかアナスタシアさんと一緒に、護衛のゴーウェンさんまで説教されています。
……正座までしているけど、大丈夫かな?
ふむ?
ヴィッキーさんは、アナスタシアさんが変態に付き纏われていることを話さなかったことに怒っているみたいですね。
護衛さんもそのことを直前まで黙っていたから、同罪だと。
でも、雇い主のアナスタシアさんが話さなかったら、護衛さんも話せないですよね?
仕方なくないですか?
「わかっているけど、腹が立つわ!」
……左様ですか。
「そういえば、シータ……?
あなたはお姉様が部屋にいないことがわかるや否や、飛び出していったけど……何か知っていたの?」
ヴィッキーさんはジロリと、僕を物凄い眼光で睨み付けてきました。
……あまりの目力に、ジロリよりもギラリという感じです。
正直、コワイです──斬られるかと思ったのは内緒ですよ。
「いやいや、そんなことはありません。
ただ、魔術で探知してみたら1人足りないなと気付いて、それで念のために部屋を調べてもらったらやっぱりいないから、急いで探しに行ったのですよ。
方法は今言ったように、魔術による探知です。
焦っていたから、ヴィッキーさんたちのことは忘れてしまっていて、それは申し訳なかったですが……」
しおらしく聞こえるように、話します。
まぁ、実際に、あの時点では事情なんかわかってませんでした。
ほとんど、勘みたいなものです。
「まぁ良いわ……。
で、何がどうなっているの?
お姉様が変態に狙われていたのは、聞いたけど……」
どうやらそのことは、アナスタシアさんがいなくなった際に、護衛さんから聞き出していたみたいですね。
「えっとぉ……どこから話せば良いかしらぁ……?」
「最初からよ!」
というところで、部屋にノックがあったので出てみると、宿屋の従業員がいて、町長とそのご家族が到着したとのこと。
なので、ヴィッキーさんへの話はアナスタシアさんに任せることにして、町長は僕が対応することにしました。
補足が必要なら、ルナがいるので大丈夫でしょう。
ルナはあの場のことはFDさんを通じて知っているらしいので、補えると思います。
僕もわからないことは多いので、気になると言えば気になりますけど、もう決着の付いたことだし、まぁ良いかと思って、部屋から出ます。
何より、町長のお孫さんを誘拐したあの男は、FDさんが連れていってしまっていて、その判断は僕がしたので、他の人に任せるわけにはいかない、ということもあったのです。
言い訳をどうしようか考えながら、町長さんのいる部屋にトントンとノックして入ります。
部屋の中には、町長さんらしき初老の男性と、彼によく似た若い男性がベッドで寝ている女の子の側にいて、他に数人の男女がいました。
彼らは部屋に入ってきた僕を見て、ちょっと声を失っています。
あれ? どうかしました?
何かあったかな……と首を傾げかけて、気付きました。
僕、全身鎧姿でした!
いけないいけない。
さすがにこの姿は、失礼でしたね。
慌てて、兜を外しました。
すると、再び彼らは息を飲んだように、動きが止まりました。
今度はなんだ!?
「エ、エルフ……?」
…………。
あ、そうだった。
僕はエルフでした、忘れてた。
長い耳を触ってみて、思い出しました。
「初めまして、シータと申します。
外でそちらのお嬢様を見付けたので、ここまでお連れしました」
……ここは何事もなかったように、話をしましょう。
「あ、ああ、んっ、ごほん、失礼。
この度は、孫娘を保護していただき、大変感謝している。
私はこの町の町長をしている。
横にいるのは、私の息子だ」
あ、やっぱり。似ていると思いました。
その町長の息子さんは、つかつかと僕に近寄り、涙を流しながら、
「ありがとう! 本当にありがとう!」
と、僕の手を握りしめて、ブンブンと振りながらお礼を言ってきました。
さすがに振り払うわけにもいかないですが、なかなか離してくれないので、愛想笑いをしながら、町長さんに視線を向けると、苦笑いしつつ、止めてくれました。
そのあとは、周囲の人たちの紹介タイムです。
町長さんの部下と、念のためにお医者さんを連れてきていたようです。
先ほど軽く診察して、命に別状がないことは確認したあったので、これからもうちょっと詳しく診察するみたいですね。
なので、邪魔にならないように、宿屋の従業員に頼んで、お医者さんを残して隣の部屋に移動します。
そこで、どういった経緯でお孫さんを見付けたのか、聞かれました。
申し訳ないですが、正直に話すわけにはいかないので、
「えっと、たまたま外で倒れている女の子──お孫さんを見付けたので、介抱しました。
町では、お孫さんを探している人がたくさんいて、その話は伺っていたので、恐らく同一人物だろうと判断し、ご連絡いたしました」
「また、お孫さんの近くに、男性の遺体がありました。
誰だかはわかりません。
なにしろ、ほとんど顔形がわからないほど損傷していまして。
なので、その場に行っても、誰かもわからないと思われます」
「え?
お孫さんだけが無事だった理由ですか?
僕にはわかりかねますが……そこは争った痕があったので、もしかしたら、誰だかがお孫さんを拐った犯人を倒したのかもしれません」
「いや、これは僕の想像ですので……。
そうですね、お孫さんをそのまま放置していた理由でわかりませんけど……」
「これも僕の想像ですが、犯人は複数いて、何らかの理由で仲間割れした、とか?
それなら、お孫さんを置いていった理由もわからなくありません」
「いや、ノコノコとお孫さんを連れて戻ったりしたら、捕まっちゃうじゃないですか?
なに食わぬ顔でいたとしても、罪の意識があったら辛いですし。
……ああ、だから、仲間割れになったのかもしれませんね?」
「何度も言いますが、僕は本当にわかりませんよ。
今のは、ただの想像ですからね……僕が知っているのは、お孫さんが倒れていた、ということだけです」
…………。
……。
立て板に水、とばかりに、適当に喋りました。
……どうか、誤魔化されてくれませんかね?




