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 ざっくりとあったことをアナスタシアさんに話しました。

 そうしているうちに、彼女も落ち着き始めたので、結界の中から出ないように言います。


 すると、アナスタシアさんは倒れていた女の子に駆け寄り、介抱をし始めました。

 どうやら気を失っているだけのようなので、ホッと一安心です。

 あとで、町長さんの家に届けましょう。


 さて。

 尻餅を付いて、こちらを呆然と見上げている男を見遣ります。

 視線が合う──といっても、僕はフルフェイスヘルムを被っていて相手からは僕の目は見えないので、たぶん偶然ですが──と、ビクッと身体が震えて、後退りしています。


 まぁ、突然目の前に全身鎧が現れたら、そうなる……かな?

 しかも、訳もわからずに、吹っ飛ばされた上に、仲間のワーウルフが死んでいるんだし。

 ……そりゃ、ビビりますよね。


「な、なんなんだ、貴様は!?

 一体、何が……起きたんだ!」


 ふむ?

 少し黙っていましょう。

 こういう(やから)と会話をすると、こっちの体力気力が削られていきそうですからね。


 あ、そうだ!


──『マギマテリアライズアームズ』──


──『マリオネットアーム』──


 ちょっと考えていたことがありました。

 この場で、この男で試してみましょう。


 魔力で短剣を作ります。

 先ほどは1本でしたが、複数作れないかな?

 よくよく考えれば、この魔法は『マギマテリアライズアーム()』と複数形です。

 なので、できるはずです!


 ……って、やってみると意外に簡単にできました。

 先ずは4本くらいですかね。


 では、次に。

 『マリオネットアーム』ですが、こちらはアーム=腕なので、2本の魔力の腕が作られます。

 が、しかし──、


──『マリオネットアーム』──


 もう1度、魔法を使います。

 すると、もう2本の魔力の腕が作られました。


 うむ。

 目論見通りです。


 4本の魔力の短剣を、4本の魔力の腕に持たせます。

 むむむ。

 ……思ったよりも難しい。


 考えてみれば、元々僕は腕を2本しか持っていません。

 それなのに、4本の腕を同時に扱うなんて、訳がわからなくなって当たり前でしたね。


 まぁ、訓練すれば、もしかしたらできるようになるかもですが。


 ……仕方ありません。

 今はできることをやりましょう。


──『マギマテリアライズアームズ』──


 さらに、たくさんの魔力の短剣を作り出し、並べておきました。

 これを──、


 ドスッ!


「……ひいっ!?」


 僕のしていることを呆然と見ていた男の身体の横に、投げます。

 当てるつもりはありませんよ。

 これは実験なので、簡単に終わっては困ります。

 

 ドスッ! ドスッ! ドスッ! ドスッ!


 4本の腕があるので、順番に操って、どんどんと短剣を投げました。

 こういうのを、釣瓶打ちと言うのでしたっけ?


 ドスッ!


「ぎゃっ!?」


 あ、失敗した。

 男の太股に当たってしまいました。


 ドスッ! ドスッ! ドスッ! ドスッ!


 ……うーん?

 なんか微妙です。


 考えてみれば、『マリオネットアーム』で腕を伸ばせるのだから、このくらいの距離なら、投げる必要はないか。

 練習して、複数の腕を同時に操れるようにしましょう。

 投げるだけなら、自分の腕でできますし、その方がコントロールが良いです。

 あ、でも、一遍にたくさん投げられたら、効果的なのかな?

 それもいずれ試してみましょう。


 うむ!

 良い実験でした!


 身体に沿って10本ほどの短剣を投げられた男は、目を見開いて、僕の方を見ています。

 映画で、マシンガンを連射されるシーンを思い出してやってみましたが、あれほどの劇的なモノではなかったですね。

 まぁ、10本くらいだし、当然か。


「さて……」


 僕が声を出すと、男はビクッと身体を震わせました。

 全身鎧がどこからともなくたくさんの短剣を作り出し、自分に向かってバンバン投げ付けられたのだから、それはなかなか怖いでしょうね。


「あなたがアナスタシアさんに付き纏い、ワーウルフをけしかけ、町の女の子を(さら)ってアナスタシアを脅して、連れていこうとした。

 間違いないですか?」


 しかし、僕の問いに答えずに、ただ口を開けて間抜け面を晒している男。

 ……まぁ、僕も答えは求めていませんが。


 本命は次です。


「さらに、とある場所から、ホムンクルスの少女を転移させて、フォレストドラゴンをその場から引き離し、そこの研究者から研究成果を盗んだ。

 間違いないですか?」


 ピクリ、と男の瞼が痙攣しました。


 マジか……。

 こいつが本当にやったのでしょうか?

 そんな偶然あり得るのでしょうか?


 現実は小説よりも奇なり、とはよく言いますが、それにしても……。


「ひ、ひはは!

 そうだ、俺がやったんだ!

 それもこれも、全部俺がやったんだ!

 あのホムンクルスの研究は、俺が使った方がより有効に役立てる。

 だから、俺のもんなんだ!」


 ……いや、何を言っているのでしょうか?

 狂った?


「その女だってそうだ!

 俺と一緒にいれば、未来永劫生きていられる!

 幸せでいられる!

 だから、俺といるべきなんだ!」


 …………。


「そうだ、俺は天才なんだ!

 くひひ。

 全部俺が仕組んだんだ!

 研究所を襲ったのも!

 その女をこの国にやってこさせたのも!

 子供を拐ったのも!

 女を逃がさないように、ドラゴンを山に追いやって、国境を封鎖させたのも!」


「全部。全部俺がやったんだ!

 俺はすごいんだ!

 そんな俺には、できないことなんてないんだ!

 だから、俺の横にお前はいるべきなんだ! すごい俺には極上の女がいるべきなんだ!」


「ひゃはは!

 すごくて天才の俺は、こんな状況も想定してたんだ!

 想定の範囲内だ!

 ここに来い、今すぐに来い、ワーウルフ!

 俺の前に立ちはだかる奴は、全て八つ裂きにしろ!

 はは、ははは、ははははは!」


 狂ったように捲し立てて、男は高笑いをあげました。

 しかし……。


「な、なんだ? なんで、来ないんだ?

 おい、聞こえないのか!?

 ワーウルフども! さっさとここに来て、こいつを殺せ!」


 …………。

 はぁ。


「無駄ですよ、彼らがここに来ることはありません」


「なんだと!?

 何を言っている!?」


「3匹のワーウルフは、あちらの方でお休みになってます。

 もう2度と目が覚めないですけどね」


「なっ!?」


 まぁ、尤も3匹くらいのワーウルフが正面から襲ってくる程度なら、そんなに怖くはありません。

 もっと数が多かったら、わかりませんが。


 今更、その程度でどうにかなると思ったのでしょうか、この自称天才さんは?


 僕の言葉に、男は(おこり)にかかったように全身を震わせ、口をパクパクとさせました。


 もう良いかな?


──『バインド』──


 僕が魔法を使うと、魔力でできた帯のようなものが、男をしゅるしゅると包んで締め付けました。

 これで拘束完了……ですけど、これからどうしましょう?


 ──と、そのとき。


『それは私に引き渡してくれないだろうか、シータよ。』


 頭の中に、重厚な声が響きました。


 ん?

 これは……FDさんの念話ですか?


「えっと、FDさん……ですか?

 あれ? どうして?」


 ただ、キョロキョロと見回しても、FDさんの姿は見えません。

 声だけが聞こえてきますが……何故?


『これは、ルーナリアを中継して、君に渡した加護を目印に念話を送っている。

 ああ、心配しなくても、君を監視していたわけではない。

 今回は、ルーナリアからの要請で、君を加護を通して見守っていたんだ。

 何か、君に危険があったなら介入してほしいと、娘に頼まれてはな……断りきれなかったんだ。

 許してほしい。』


 ……そういえば、ルナには何も言わずに飛び出したんだった。

 つか、ヴィッキーさんたちのこと、忘れていました。


 さぞかし、心配をさせてしまったようです。

 FDさんのことも、ルナの苦肉の策だったのかも。


『しかし、そのお陰で、我が伴侶を襲った主犯を見付けることができた。

 改めて、頼む。

 その男を、私に引き渡してくれないだろうか。』


「えっと、殺すのですか?」


『いや、殺すなど、生温い。

 生かして、未来永劫、苦しめる。』


 …………。

 それはまた、恐ろしい。

 背筋がゾッとしましたよ。

 ……ドラゴンにケンカを売るもんじゃないですね。


「逃げられたりしません?

 イヤですよ、それでまた付き纏われたりするのは……」


「もちろんだ。

 私に誓って、生涯、その男を君たちに近寄らせないようにしよう。』


 私に誓って……ですか。

 ドラゴンにそんなこと言われたら、疑えないです。


 ……んー。

 そういうことなら良いかな?


 こいつを町に突き出すと、なんかいろいろ面倒そうだし。

 そっちの方が、逃げられる可能性とかありそうだしなぁ……。


 仕方ありません、町には何か適当に言い訳しますか。


「じゃあ、お願いします。

 連れてってください」


『感謝する。』


 あれ?

 でも、どうやって?


『行くぞ。』


 はて?


 あ……なんかイヤな予感がします。


 魔法で拘束されている男から離れて、結界の中にいるアナスタシアさんに飛び付いて、強引に身体を伏せさせました。


「え!? なに、急に!?

 こんなところでダメよ!? ってわたしは何を言っているの!」


 ……パニックになったアナスタシアさんには、あとで謝りましょう。


 それよりも、何か空気がおかしいです。

 ビリビリと震えている感じがして、


「────ッ!?」


 何か巨大なものが、僕たちの頭上を通り過ぎていきました。


 不思議なことに、そういう感覚はあるのですが、周囲には全く影響はなさそうです。

 木々が薙ぎ倒されているわけでもなく、近くの町にもなんら異常はありません。


 ……どういうこと?


 見ると、男がいなくなっています。

 今のでFDさんが連れて行ったのでしょうか?


「なに、いまの……?」


 呆然とした様子のアナスタシアさんに、僕は答えることはできなかったのでした。






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