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 間に合ったー!

 焦ったー!

 ビビったー!


 暗い夜道を全力で走り続けたからシンドイですし、頭の中が熱くて痛いし、それなのに指先の方が冷たく感じます。


 これは、あまり良くない兆候です。


 ビークール、ビークールです。

 少し落ち着きましょう。


 すー、はー、と息を吸って吐く。


 僕の腕にすがり付いて身体を震わせて涙ぐんでいるアナスタシアさんを見ると、また頭の中が沸騰しそうになるけれど。

 羽織った外套の襟元から見えそうな鎖骨とか、近くに落ちている服の残骸を見ると、感情を爆発させてしまいたくなるけれど。


 敢えて僕は、それらを忘れる。


 そして、魔法を選択、使用します。

 マシロ、お願いします。


「ぴゅっ!」


──『封魔結界』──


──『防護結界』──


──『エリミネイト』──


 アナスタシアさんを中心に、結界を張りました。

 『封魔結界』は、魔術を使えなくするもの。

 『防護結界』は、その名の通り、防護するものです。

 ちょっと変わった魔法ですが、『エリミネイト』は指定した範囲内から指定した存在を強制的に排除するものです。


「……ぐおっ!?」


 今回は結界内から、目の前にいる男とワーウルフの死体を排除しました。

 具体的に言うと、僕たちの足元に結界が張られると同時に、男と死体が吹っ飛びます。

 これでもう、アナスタシアさんと近くで倒れている町長のお孫さんに近寄ることはできないし、魔術によって傷付けられることもありません。


 ふぅ……。

 これでひとまず、安心……できますかね。

 まぁ、男からは目を逸らさないようにしないといけませんが。


「……どうして、ここに?」


 アナスタシアさんが呆然自失したように、聞いてきました。

 恐らく、感情が追い付いていないのでしょう。

 ここは彼女を落ち着かせるために、僕の行動を簡単に説明しますか。






 冒険者ギルドで諸々の用事を済ませると、僕は宿屋に向かいました。

 その途中、未だに行方のわからない町長の孫娘の捜索が続けられています。


 ふむ?

 さすがに心配ですね。

 ……探すのを手伝うか? できるかな?


 魔法なら可能かもしれない、と考えた僕は、試してみようと思ったけれど、マシロを宿屋に置いてきたことを思い出しました。


 先ずは、マシロとの合流からですね。

 そう考え、宿屋に足を向けました。


 この時点で、僕はまだ他人事というか、迷子の女の子を心配だなとは思いましたが、必死になって探すつもりはありませんでした。


 探すのを手伝うのも、魔法でどれだけのことができるのかを確かめる、くらいの気持ちでいたのです。

 もしかしたら、いずれ行方のわからなくなった同行者を探す機会があるかもしれないから、そのためのテストみたいな。

 なので、そこまで急ぐことなく、宿屋に行きました。


 ところで、僕は常時『マップ』の魔法を使用しています。

 正確に言うと、この魔法を途切らせないように、その都度使用しているわけです。

 大体、1回使うと半日程度は保つので、非常に便利なのです。


 で、『マップ』は周辺の地図が視界の片隅に表示され、レーダーっぽくなっているのですが、人探しにこの魔法を利用できないだろうか、と考えたのです。


 『サーチエネミー』という魔法は、魔物や僕に危険な存在を『マップ』上に赤とか白の光点として報せてくれるので、似たようなことができないかと思ったのですが……。


 同系統の魔法があったので、使ってみました。


──『サーチフレンド』──


 字面からすると、友達を探す魔法でしょうか?

 ……ボッチのための魔法じゃないでしょうね?


 ちょっと疑念がありましたが、使うとすぐに反応が出ました。

 今いる宿屋に、反応が3つあります。


 んー?

 これは……たぶん、知っている人、それもそれなりに親密な人に反応するようです。

 ただの知り合い程度ではダメなのでしょう。

 冒険者ギルドのギルドマスターさんには、反応してないですし。


 そうなると、全く知らない町長のお孫さんには無効です。

 違う魔法を試す……あれ?


 ()()()宿()()()()()()()()


 僕は首を傾げます。

 ……おかしい……のか?


「ぴゅ?」


 僕の真似をして、マシロも首を傾げました。

 なんか違和感があったので、マシロの頭を撫でながら考えます。


 はて?

 反応が3つ。

 マシロ、ヴィッキーさん、アナスタシアさん、護衛さん……それにルナ。


 5つないとおかしくないでしょうか?


 よしんば、マシロは魔法の使用者だし、僕と同体と考えるならなくても良いけど、それでも4つないとおかしい。


 ……イヤな予感がします。

 脳裏に、別れ際のアナスタシアさんの様子が思い出されました。


 何かを隠しているようなアナスタシアさん。


 思えば、出会ったときから様子がおかしいときがありました。

 ただ、それはエルフの僕を怪しんでいるのかな? くらいに考えていたのですが……あまり踏み込むのもどうかと思い、放置していたのです。


 ……いや、先ずは確認からです。

 アナスタシアさんの部屋に行って、確かめましょう。


 トントンと扉をノックします。

 青の光点が3つあるので、誰かいるはずですが……。


「……どうしたの?」


 カチャと扉が開いて、顔を出したのは、ヴィッキーさんでした。

 1つ。


 扉をから室内を覗くと、ルナと護衛さんがソファーに座っていました。

 2つ、3つ。


「……アナスタシアさんは?」


「? 寝室で寝てるわよ」


「確認を」


「え?」


「急いで確認を!」


 僕の切羽詰まったような声を聞いて、護衛さんが即座に立ち上がり、躊躇うことなく寝室の扉を開けました。


「いない……」


「は? どういうこと? 叔母様──じゃない、お姉様、寝てるんじゃないの?」


 それだけを聞いて、僕は踵を返します。

 走りつつ、『マップ』の表示を拡大しました。


 ──あった!


 かなり離れた場所ですが、青の光点があります。


 ……1人で宿屋から出た?

 何故?

 何があった?


 よくよく見ると、青の光点の側には、赤の光点が5つと、白の光点が1つありました。

 赤の光点は魔物ですけど、町の外れとはいえ、こんなところにいるなんて……。

 それに白の光点は、魔物ではないけど、僕にとって正体不明の危険な存在を示します。

 そんなのが、アナスタシアさんの近くに……。


 考えるのは、後回し。

 今は急いで、現場に向かうのが先です!






 そこは町の外れの、木々に囲まれた広い何もないスペースでした。

 すぐそこは塀があるとはいえ、町の外の森があります。

 こんなところ、魔物が来たりして、危険じゃないのかな?

 まぁ、そんなことはさておき。

 

 近くまで来ましたが……アナスタシアさんの前には、女の子を抱えた男が立っています。

 これでは不用意に近寄れません。

 アナスタシアさんも、行動に困っているようです。


 とりあえず、僕の存在がバレないように……と。


──『ハイド』──


──『サイレンス』──


 これで良し。

 近寄りすぎなければ、大丈夫でしょう。


 とかやっているうちに、事態が急激に進んでしまいました。

 アナスタシアさんが自らの喉にナイフを突き立てたかと思うと、男が笑いだして、横手からワーウルフが2匹飛び出してきたら、アナスタシアさんを拘束して、ナイフを落とさせたのです。


 あれよあれよという間に、アナスタシアさんの服は剥ぎ取られ、思わず飛び出そうとしたけれど、周囲にはまだ魔物──恐らくワーウルフ──の反応が3つあるし、町長のお孫さんに加えて、アナスタシアさんまで捕まっているので、下手な行動は危険だとなんとか自重します。


 ふー、と大きく息を吐き、無理矢理に頭を冷やしました。


 僕の高性能なエルフの耳で、微かに話し声が聞こえます。

 すぐにはアナスタシアさんに危害が加えられることはなさそうです。

 事実、服を剥かれた彼女に、外套が被せられました。


 ならば、僕のすることは、考えなしに飛び出すことではなく、機会を見付けて、反撃をすることです。


 そのためには、邪魔な連中から排除しましょう。


 そうです。

 周囲にいるワーウルフだと思われる魔物です。

 恐らく、あの男の配下だと思うので、コッソリと始末します。


 頭の中に某必殺のテーマソングを流しつつ、こそこそと近付きました。

 ……やったことないけど、意外にどうにかなるものですね。


──『マギマテリアライズアームズ』──


──『マリオネットアーム』──


 魔力の短剣を作り、魔物──ワーウルフの背後まで魔力の腕を伸ばします。

 そして──ザクッと首を掻き切りました。

 間、髪いれずに、残りの2匹も同様にします。

 声を出されないように素早くやりましたが、上手くいきました。


──『ストリームコントロール』──


 血の臭いが漂わないように、空気の流れを操作します。

 向こうには同じワーウルフがいるから、血の臭いでバレないようにするための小細工です。

 正直、どこまで効果があるか、わからないですが、やらないよりは良いでしょう。


 おや?

 倒れたワーウルフの姿が変わりました。

 毛皮を被った人の姿のようです。

 この間、こんなの見ましたっけ?

 ……そうそう、アナスタシアさんと初めてあったとき、彼女はコイツらに襲撃されていました。


 ふむ?


 あちらにいるアナスタシアさんと、男の会話からなんとなく想像ができました。


 どうやらアナスタシアさんは、あの男にストーキングされていたみたいです。

 ……それも、変質的な目的のよう。

 正直、聞いているだけでキモいですけど……。


 それに、ホムンクルス……ですか?

 ルナを思い出し、その連想で、フォレストドラゴンのFDさんとの会話が思い出されます。


 短絡的かもですが、もしかして、こいつがルナを転移させて、FDさんを追い出して、その隙にルナのパパ様を襲撃して、その研究成果を盗んだのでしょうか?


 ……いやいや、落ち着こう。

 今はそんなことよりも、アナスタシアさんの救出を先ずなんとかしなければ。


 幸いにも、あの男は人質にしていた女の子を、手放しています。

 アナスタシアさんを拘束しているワーウルフさえ倒せれば、あとは魔法でなんとかできる……と思います。


 でも、僕には、アナスタシアさんを傷付けずにワーウルフをどうにかできる手段が乏しい。

 どうしたものか……。

 ルナがいれば、攻撃魔術でワーウルフを狙撃したのに……ん?


 ……狙撃?


 ふむ。

 1つ思い付いたことがあります。


 準備は簡単。

 足元を探して……ありました。

 拾って、重さなどを確認します。


 そう、それは石です。

 僕が考えたのは、投石です。


 古来より、とっても優秀な遠距離攻撃手段なのです。

 もちろん、飛距離や威力などから、弓矢にその地位を奪われましたが、手軽さや入手のし易さから、長く使われた方法です。


 そして、実は僕は、特技がキャッチボールだったのです。

 身体が生まれつき弱かったので、走り回ったりする運動はできなかったですが、キャッチボールはそうでもないので、そればっかりやっていました。


 肩もそんなに強くないので、速度や球威はさほどでもないですが、コントロールには自信があります。


 10mくらいなら、掌くらいの大きさの的に、9割以上の確率で当てられると思います。


 そして、現在。

 僕は過去のようなひ弱な身体ではなく(文字どおり)別人の、それも魔力で強化された身体です。

 かなりの球速、球威が見込めると思います。


 さらに、魔法で気流などをコントロールすることもできるので、間違ってもアナスタシアさんに当てることなく、ワーウルフを狙撃できるでしょう。


 うん。

 なんでかわかりませんが、外す気がしません。

 もしかしたら、エルフとしてのこの身体が、狙撃に何らかの優位性を与えてくれるのかもしれませんね。


 さて。

 アナスタシアさんの背中が見える位置につきます。

 ワーウルフの後頭部をロックオン。


 距離は、50mほど。

 なんか男からは見えそうだけど、自分の話に夢中なのかなんなのか、アナスタシアさんしか見てないようです。


──『ストリームコントロール』──


 魔法で気流を操作。

 一直線にワーウルフの頭部を狙います。

 2匹いるから、手早くやらないと。


 では、参ります。


 振りかぶって、第一球……投げました!

 確認することなく、第二球も……投げました!


 狙いを誤ることなく、ワーウルフの頭部を直撃!

 スイカのように割れ、赤いものが破裂して、アナスタシアさんにバシャッと降りかかりました。


 うぇっ!?


 あんなになるとは思わなかった!


 でも、そんなことよりも、急いでアナスタシアさんの前に向かいました。


 ビビった!

 焦った!

 でも……間に合った!






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