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宿屋を出て、冒険者ギルドに行きます。
その途中、いろいろな人が何かを探すように歩き回っていました。
……そういえば、町長の孫娘の行方がわからなくなった、と言っていましたね。
──そこのお姉さん、細い路地の奥の方を確認するのはわかりますが、小さな箱の中にはいないと思います。
そろそろ暗くなってくる時間です。
一向に見付からないので、かなり大事になってきてますね。
そんなこんなを横目に、僕は冒険者ギルドに入りました。
ここでも少し騒がしくなっています。
受付に並びながら聞き耳をたてると、山から下りてきていた魔物が町の周辺から少なくなってきているので、明日からどうするか相談している集団と、子供が行方不明になっていることに憂慮している集団が、いるみたいです。
ふむ?
周辺の魔物が減っているのは、良いニュースです。
子供を関しては、町から依頼が出るかもしれないけど、拘束時間や報酬額についてどうなるかわからないから受けないかも、という冒険者に罵詈雑言を浴びせている人たちがいて、かなりピリピリしているこの雰囲気は良くないですね。
まぁ、冒険者もボランティアではないから、正義感だけで首を突っ込むわけにはいかないのでしょうね。
だからといって、なにもしないのも如何なものか、というのも正論だし、難しいものです。
混雑のために受付のお姉さんの元にたどり着くまでに時間がかったので、それらの情報を聞けました。
かなり周囲はうるさいのですが、このエルフの耳が高性能なのか、兜のままでも意外にすんなりと聞き取れるとわかったのは良かったです。
さて、ようやく僕の番です。
「お待たせしました。どういったご用件です?」
「依頼の報告に参りました」
そう言って、僕はギルドカードを渡します。
お姉さんは何らかの操作をすると、1つ頷いて、席から立ち上がりました。
「ギルドマスターが待っています。
こちらへどうぞ」
おお。話が早い。
日本の役所とは大違いですね。
そんなことを考えながら、お姉さんについていきました。
その先は、先日も行ったギルドマスターの部屋です。
お姉さんがノックをすると、中から「入れ」という声が聞こえたので、扉を開けて入りました。
「失礼します」
中では、ギルドマスターさんが椅子に座り机に足を載せている、という姿で寛いでいました。
行儀が悪いな、と思いましたが、お姉さんは何も言わずに出ていったので、これはいつものことなのでしょう。
「おう! どうだった?」
ツルツルのハゲ頭に、もさもさの髭、60過ぎの老人に見えないマッチョなボディのギルドマスターさんは、見た目通りに(偏見です)単刀直入に聞いてきました。
……まぁ、話が早くて良いのですけどね。
僕もそれに乗っかって、かくがくしかじかと報告しました。
ルナのことに関しては黙ってますよ、もちろん。
「そうか、ドラゴンがいたのか……。
ちっ、俺様も行けば良かった。
1度、戦ってみたかったぜ」
首を振りながらそんなことをのたまうギルドマスターさん。
顔が凶悪にギラギラとしていますし、これ、子供が見たら泣くんじゃないかな?
それにしても今の言い方ですと、ドラゴンに出会うのは相当珍しいことみたいですね。
運が良いのか、悪いのかは、わからないですけど。
「それが山から出ていったから、昨夜から魔物がこの辺りから減っていったんだな。
よし! お疲れさんだ!
もう少し時間がかかると思っていたが、すんなりと済んで助かった。
これは報酬だ、受け取れ!」
そう言って、ギルドマスターさんは机の中から包まれた袋を投げ付けてきました。
受け取ったそれは、じゃらりとたくさんの硬貨が入っていて、結構重いです。
確認するべきか迷いましたが、ギルドマスターさんに促され、中を改めました。
どうやらこういうときは、目の前で確認しないと逆に良くないらしいです。
中には、大金貨が2枚と金貨が5枚ありました。
えーと、この間アナスタシアさんと雑談したときに、貨幣について話しましたっけ?
小鉄貨= 1エギル
半鉄貨= 5エギル
鉄貨= 10エギル
半銅貨= 50エギル
銅貨= 100エギル
半銀貨= 500エギル
銀貨= 1000エギル
半金貨= 5000エギル
金貨= 10000エギル
大金貨= 100000エギル
黄金貨=1000000エギル
となり、1エギル=1円です。
日本円での換算は、僕の大体の想像ですが、おおよそ間違ってはないと思います。
ちなみに、『半』と付く硬貨には穴が空いていて、『小』は小さめに、『大』は大きめになっているそうです。
また、黄金貨は普通には使われず、商取引などのみで使われる特別な通貨なのだそう。
紙幣がないだけで、なんとなく日本の貨幣に近いものを感じますが、どうなのでしょう?
それはさておき。
大金貨2枚と金貨が5枚なので、25万エギルで、日本円にすると約25万円くらいです。
2日ほどの労働だとしたら、なかなかの収入ですね。
「良いのですか、こんなに?」
「ドラゴンがいたんなら、少ないくらいだ」
……それもそうか。
まぁ、実際には戦ったわけではありませんが、ドラゴンと戦う危険性があったなら、このお金では無理ですね。
なら、遠慮なく頂きましょう。
っと、そうだ。
「お借りしていた登山道具は、どこでお返ししたら……?」
「あ?
ああ、あれな。いや、くれてやる。ちょっと古いが、まだまだ使えるだろ」
在庫処分だ、とギルドマスターさんは言いますけど……。
いや、テントとか登山に限らずいろいろ便利な道具がありますし、良いのでしょうか?
「構わん、持ってけ。
それと、ヨツデグマの解体が済んでいる。
作業部屋に行って、受け取ってこい」
ああ、そんなこともありましたか。
いろいろあって、忘れていました。
もう、10日以上前の出来事のようです、不思議ですねぇ。
「ありがとうございます。
えと、じゃあ、これで失礼します」
「おう」
一礼して、部屋から出ます。
ふぅ……。
豪放磊落を体現したようなお人でした。
気前も良いけど、組織の長としてはどうなんでしょうね?
僕が部下だったら、胃に穴が空くかもしれません。
そんなことを考えつつ、ヨツデグマの素材を受け取ってから冒険者ギルドを出たときには、外はもう暗くなっていました。
魔術の光が皓々と照らされ、少なくない人が出歩いています。
かなり気温が下がってきました。
まだ子供が見付かっていないようですし、ちょっと心配です。
魔法で探せないかと思いましたが……マシロを宿屋に置いてきていたのでした。
これでは魔法は使えません。
んー?
できるかどうか、くらいは試してみますか。
無視しても、精神衛生上、良くなさそうですし。
よし。
宿屋に戻って、マシロと一緒に捜索してみましょうか!




