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夜が明けて、現在午前6時です。
暗いうちに山に魔物が戻ってきて、僕たちのいる洞穴周辺をウロウロするようになりました。
気付かれているわけではないですが、周囲に魔物がいるのは落ち着かないし、入り口付近に陣取られると、帰るときに面倒になりそうなので、ある程度近くまでやって来た魔物は倒すことにしました。
それに、僕たちのいた洞穴は、少し進むと奥が行き止まりになっているため、いわゆる袋のネズミ状態になりかねないので、即座に対応しないと詰んでしまいそうになるのです。
引き付けて一網打尽にする、という案もありましたが、相手が何をしてくるのかわからないこともあり、安全策をとることになったのです。
「それにしても、エンカウント率が高い……」
今までの反動なのか、魔物が異様に集まっています。
ここはそこそこ標高が高い場所なのですが、どういうわけか、猿やら鼠、猪、犬、猫といった類いの魔物が続々と現れたのです。
もうちょっと頑張れば、十二支の全てが揃ったのではないでしょうか?
……少し前にはドラゴンもいたし、あながちあり得ないことではなさそうです。
そして、明るくなったので、下山することにしたのですが、その途中でもドンドン魔物が追加されていきます。
魔物のわんこそば状態になっています。
「普段から、このような状態なのです?」
「ぴゅ?」
ルナの疑問に、僕は無言で首を横に振ります。
少なくとも、麓の町の冒険者ギルドのマスターからは、聞いていません。
まぁ、聞きもしませんでしたが……。
でも、普段からこんなに魔物が多かったら、この山、危険すぎやしませんかね?
それとも、山にこれだけの魔物がいるのが普通のことなのか?
だとしたら、冒険者という職業は、本当に大変なのですね。
そんなことを話しながら、僕たちは山を下りていました。
「また、魔物発見です」
「また、ですか……」
「また、ですねぇ」
「ぴゅ〜……」
マシロが情けない声を出すのを聞きつつ、視線は前方に固定しています。
『サーチエネミー』の魔法は、範囲内の魔物の居場所はわかるのですが、それがどのような魔物なのかまではわかりません。
なので、目視の必要があります。
すぐに僕は『ホークアイ』の魔法を使い、鳥瞰からの視点を確保します。
……んー?
見た目は、オランウータンのようですが……木でできた棍棒を持っています。
魔物が武器を持っているのは、かなり危険な相手だと、これまでの経験で理解しています。
ここはさっさと始末しましょう。
「ルナ、武器を持った人と同じくらいの大きさの猿が近付いて来ています。
魔術で倒しちゃってください」
「了解、なのです」
僕の要請に、聞き返すことなくすぐに頷くルナ。
いやー、遠距離攻撃手段があるのは、楽ですねー。
僕が戦う場合だと、大剣を『マリオネットアーム』で遠隔操作する方法がありますけど、そこまで遠くまで延ばせないし、結局武器を振り回すことには違いないので、避けられたり、受けられたりすることが多々あるのです。
たまに、奇襲しても避けられるので、野生の本能というのは侮れないものだな、と戦々恐々しています。
それに比べたら、ルナの攻撃魔術は、とっても優秀です。
速度も速いですし、誘導することもできるので、ほぼ百発百中なのです。
問題点は、魔力の消費が厳しいことですが、下級魔術なら10〜15回は使えるし、減ってきたら僕が魔力を譲渡するので、今のところは何とかなっています。
ルナは、魔法での魔力譲渡を嫌がっています(本人曰く、無味無臭で不味いから、なのだそう)が、さすがに魔術を使う度にいちいちキスだのなんだのしていられないので、我慢してもらっています。
……休憩すると、口直しを強要されるので、勘弁してほしいのですが。
もし、こんな話を友人連中にしたら、「氏ね、リア充め!」と罵られそうですねぇ。
僕も聞かされたら、罵詈雑言浴びせていると思います。
……そのうちに、慣れて何とも思わなくなるんですかね?
それはそれでどうかと思いますが……。
と、そんなとりとめのないことを考えているうちに、オランウータンっぽい魔物がルナの魔術の攻撃可能範囲に近付いて来ました。
僕が無言でハンドサインで合図を出します。
「『●□●』」
ルナは呪文(?)を唱えました。
相変わらず、何を言っているのかわからないです。
竜言語魔術だと聞きましたが、言語というよりは、音の連なりといった感じですが。
何はともあれ、ルナの魔術が完成して射出されたのは、小さめ──野球のボールくらいの火炎球です。
『小炎弾』という魔術が高速で放たれ、オランウータンっぽい魔物に直撃、炎上します。
全身を焼かれ、オランウータンっぽい魔物は暴れ回りますけど、周囲に延焼することはありません。
何でも、この魔術の炎は定めた対象のみに効果があるそうなので、大丈夫らしいです。
……便利ですなぁ。
やがて、息絶えた魔物は動かなくなりました。
ルナがドヤ顔でこちらを見るので、誉めるために頭を撫でます。
……こうしないと拗ねるのです、この子。
恐らく、夜中の戦闘のときにマシロがそうしていたので、真似しているのだと思われます。
まぁ、サラサラした髪の毛を撫でるのは僕も嫌じゃないので、構わないのですけどね……。
おっと、レベルが上がりました。
どういうわけか、僕が倒したわけではないのに、レベルが上がるんですよね?
お陰様で、昨夜だけで2つ上がったし、今もまた上がったし。
……これって、ある意味、パワーレベリングですけど、良いのかな?
とりあえず、〈能力〉を確認します。
名前 :シータ
種族 :ハイエルフ
年齢 :21
レベル:11(+1)
クラス:冒険者LV.6(+1) 操蛇者LV.5
生命力:420(190+10)【+20】【+200】
魔力 :0
精神 :48(22+1)【+2】【+23】
敏捷 :63(28+2)【+3】【+30】
幸運 :29(13+1)【+1】【+14】
攻撃力:35(16+1)【+1】【+17】
防御力:35(16+1)【+1】【+17】
スキル:自動治癒 身体強化
劣悪環境耐性
全ダメージ軽減
全状態異常耐性
称号 :フォレストドラゴンの祝福
ふむ。
敏捷の数値が、30を越えましたか。
あまり実感はないですが……そういえば、最高値はいくつでしょうかね?
まさか、100? だとしたら、あと15レベルも上がればカンストしますけど。
そうでなく、1000くらいまであってほしいですね。
今のレベルの上がり方だと、すぐにカンストしそうですからね。
できれば、すぐに限界になった、ということは避けたいところです。
まぁ、それは僕にはどうしようもないので、そのときになったら考えるとして。
よく見ると、職業レベルに、差が出てきました。
『操蛇者』の方のレベルが上がっていません。
感じからすると、『操蛇者』の職業はレアっぽいので、もしかしたら、必要な経験値が多いのかもしれません。
ゲームでは、そういうパターンがよくありましたから、ゲームっぽいこの世界のシステムも同じなのかも。
尤も、職業のレベルが高いことがどの程度影響があるか今のところわからないので、どうでも良いですが。
こんなところですね。
〈能力〉の確認も終わったので、先に進みましょうか。
「さあ、行くです。
早く町に行って、美味しいものが食べたいです」
「ぴゅっ!」
賛成、というようにマシロは鳴きますけど、たぶんルナとマシロのそれぞれ考えている美味しいものは、かなり違うと思います。
……ふぅ。
こんなところに長々といたくないけど、さりとて早く町に到着したいかというと、そうでもないです。
屠殺場にドナドナされていく家畜は、こんな気持ちなんでしょうかね?
足取りの軽いルナと、白々と辺りを照らして昇っていく朝日を見ながら、僕はそんなことを考えていたのでした。




