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 僕が一歩前に出たルナを襲い掛かってくるオルトロスから庇おうとしたとき。


「『■○◆□●◇』」


 ポツリ、とルナが呟きました。

 全く聞いたことのない音の連なり。


 なんだろう、とルナの方を見ようとしたら、突然光が迸り、夜の闇を貫きました。


「……え?」


 その光はすぐに消えていきましたが、同時にとても静かになったことで、僕は違和感を覚えました。

 その原因は割に早く判明します。


 オルトロスが消失していたからです。


 いつの間にか上半身が無くなり──もっと正確にいうなら、4本の脚しか残っていませんでした。


 はて?

 何が起きたのかな?


「ぶい、なのです」


 横を見ると、ルナがドヤ顔をしていました。

 絵に描いたようなドヤ顔です。


「ルナがやったの……アレ?」


「はいです。

 竜言語魔術の『熱光線』なのです。

 コスパが良い中級魔術ですが……想定していたよりも、威力があったです。

 恐らく、相性が良かったようなのです」


「相性?」


「はいです。

 シータの魔力が、私にはピッタリだったです。

 シータがハイエルフ? だからかもです」


 ふむ?

 そういうこともあるのか?

 なら、まぁ、良かったです。


 と、話していると、ルナがフラリと身体を揺らしました。

 僕は慌てて支えます。


「どうしました!?」


「今の魔術で、体内の魔力が半分ほどなくなったです。

 急激に減ったから、立ち眩みがしたです。

 ……中級魔術でこれだと、上級魔術は全く使えないか、使えても倒れて、気絶してしまうようです。

 竜言語魔術を使うなら、下級までみたいです」


 ……なんだ、ビックリした。

 何らかの持病でもあるのかと思いました。


 んー。

 それにしても、竜言語魔術……ですか。

 威力は文句なしですが、のべつ幕なしに使うのは、危険のようです。

 戦闘中に倒れられたら、危ない。


 補給の手段は……なくはないです。

 ルナによれば僕の唾液──つまりディープなキスでも多少なら賄えるらしいですし。


 ただ、戦闘中にキスするなんて、それどんなラノベ? と言いたくなるシチュエーションですよね。


 まぁ、人工呼吸とか思えば、救急の応急措置みたいなものだから、本当に危険なときは躊躇わないでやるつもりですけど……。


 しかし、接触を要するのは、少々迂遠(うえん)です。

 何か、別の手段を見付けておいた方が良さそうに思います。


 魔法でないかな……あった。

 探してみるものです。

 ちょうど良いので、試してみましょう。


──『ディバイドマギパワー』──


 …………。

 ふむ。

 使ってみてわかりましたが、僕の中を絶えず循環している魔力が、ルナにも流れていきました。

 ただ、内的魔力(オド)が一度外的魔力(マナ)になり、再び内的魔力(オド)へと変換されたので、滅茶苦茶効率が悪いです。

 それに、これは魔法なので、その前段階で外的魔力(マナ)を使用しているから、尚更です。

 マナ→オド→マナ→オドの順番です。

 その度に15〜20%が消耗するので、実質は使った魔力の半分以上は失われているのですから、無駄だらけですね。


 しかし、一度は僕の魔力に変換しないとルナが吸収できないので、仕方ありません。


 恐らくですが、ルナの性交による魔力吸収というのは、こういった無駄を極限までなくした結果なのではないか、と愚考します。


 少し顔色の悪かったルナに、血色が戻りました。

 この方法でも魔力譲渡ができるのなら、それで良いかな?


「今、何したですか?」


 だけど、僕の腕の中のルナは、どこか不機嫌です。

 無理矢理僕の兜を外しにかかりました。

 そこまでするなんて、何か気に入らないことでも?

 兜を外すなんて、もしかして殴られる?


「今、私に魔力が注ぎ込まれたです。

 でも、無味無臭で、とても、とっても味気ないです。

 例えるなら、食事の代わりに、栄養剤といってマズイ薬を飲まされたみたい、なのです!

 やり直しを要求するです!」


 えー?

 言いたいことはわかりますけど、今後のことを考えるなら、この手段は必須だと思います。

 情状酌量を願います。


「仕方ないです。

 これで、勘弁してやる、です!」


 そう言うと、ルナは首を伸ばして──


「むぐっ!?」


 僕にキスをしてきました。

 思わず頭と腰を引いてしまいましたが、ルナは腕を回して、僕を抱えるようにしてきます。

 そうすると、あまり身長差はないので、ルナが僕に伸し掛かるような体勢になり。

 ただ、僕は倒れるわけにはいかないので、仰け反った姿勢でいることを余儀なくされました。


 …………。

 ……。


「ごちそうさま、なのです」


 ルナによって口内を蹂躙され、いろいろと吸い取られている感覚に、頭がぼぅっとしてきたところで、やっと解放されます。


 ……クラクラするけど、これ、ただの酸欠なのかなぁ?


 代わりにと言うわけではありませんが、ルナはやたらと顔がツヤツヤとしていますし、あまり魔力譲渡を頻繁にすると、僕は干からびてしまいそうです。


 ──できれば、ルナには自重してほしいところですね。


 なんてことを考えながら、僕は荒くなった呼吸を整えるのでした。






 なんやかんやあり、また洞穴に戻ってきました。


 フォレストドラゴンのFDさんがいなくなったので、山に魔物が戻りつつあるようですが、だからといって、今から僕たちが下山するわけにはいきません。


 まだ夜中の、午後11時です。

 真っ暗の山の中を歩くなんて、自殺行為と言えます。


 魔法を駆使すれば何とかなるのでは、と思えますが、そうできるほど僕は魔法に精通していません。

 何ができるのか、手探りでやっている状態なのですから。


 なので、当初の予定通り、この洞穴で夜明けまで待機します。


 魔物がやって来たら、迎撃することになるでしょう。


 それなりに離れた場所でも気付けるので、このやり方がベストだと思います。


 そんな感じで、僕が周囲の様子を警戒していると、肉の焼ける良い匂いがしてきました。


 なんだろう、とそちらに向かうと、そこには……。


「ぴゅっぴゅっぴゅ〜!」


 マシロが鼻歌(?)を歌う前には、ルナが焚き火の上に金串を刺した大きな肉を炙っていました。


「もうすぐ焼ける、です」


「ぴゅっ!」


「さっきマシロに渡したのは生肉ですけど、焼いたドラゴンの肉はまた格別、なのです!」


「ぴゅー!」


 はぁ……。

 ヨダレをダラダラと流すマシロを見て、僕は思わず溜息を吐いてしまいました。


「あ、シータも食べるです?」


 僕に気付いたルナが、焼いている肉に目を離さないまま聞いてきます。


「あまりマシロに贅沢を覚えさせないでほしいな」


「ぴゅ!?」


 なんで、とマシロがショックを受けたように鳴きました。


「ついでに言うと、餌付けして言うことを聞かすのも、今後はやめてほしい。

 さっきみたいなことが頻繁にやっていると、そのうち食べ物に釣られて、誰にでも付いていきそうです」


「ぴゅぴゅっ!?」


 そんなことない、と心外そうな顔をしているけど、マシロの様子を見ていると、あながちあり得ないことではなさそうなんです。

 

 あと、僕がちゃんとした食べ物を出してない、というように見えて、泣きたくなります。


 ルナとマシロ、これからはこの2人(1人と1匹)を養わないといけないので、しっかりと稼がないといけませんし、贅沢は敵になります。


「むぅ……仕方ないです。

 マシロ、ドラゴンステーキはこれを最後に、当分お預けなのです。

 まぁ、どっちにしろ、私が持っている分はこれで最後なのですけど」


「ぴゅ〜」


 項垂れるルナとマシロ。

 僕は焼き上がったドラゴンステーキを受け取り、3人分に切り分けました。

 僕の分をマシロに少し多目に分けます……最後ですからね。


「あのオルトロスを消滅させなければ良かったです。

 きっと食べたら、美味いはずです。

 術の加減を間違えたです」


「ぴゅ〜……」


 まぁ、加減をしてこっちが殺られたら、本末転倒ですからね。

 あれで良かったですよ。

 だから、マシロは残念そうな顔はしないこと。


 僕は意気消沈している2人を放って、モグモグとドラゴンステーキを頬張ります。


「うん、美味しい」


 しっとりとしていて、それでいてジューシーで、噛み応えはあるけど、少し歯に力を入れるだけで、噛みきれるという。

 塩をちょっと振っただけなのに、旨味がドンドン溢れてきて、もはや言うことなし、なのです。

 惜しむらくは、脂がちょっと強くて、僕にはキツいことです。

 大根おろしとポン酢で食べたいですねぇ。

 少量なら問題ないですが。


「よし、です!」


「ぴゅぴゅぴゅっー!」


 うん。

 魔物も当分やってこないですし、今はこの美味しい一時(ひととき)を楽しむとしましょうか!






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