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 ルナは食事(・・)を終えると、満足と言わんばかりに、眠りにつきました。

 その顔はあどけなく、少し前までの艶やかな表情は全く見受けられません。

 ……本当に、同一人物だったのでしょうかね。


「……うぅん、すーすー」


 先程までのことが、夢だったら良いのになぁ……というのは、僕の勝手な感傷なのですが、しかし、女性は慎ましくいて欲しいというのが正直なところでして、あまり女性からグイグイと迫られると、どうして良いのかわからないのです。


「……すぅ、ぅん……もっと……すぅ」


 この先もルナは食事(・・)が必要なわけで、僕もそれを拒否できないのだから、こんな感傷はさっさとポイ捨てしなくてはならない、というのは頭では理解しているのですが、感情が追い付いてきません。

 ……今夜中になんとかしましょう──悩ましい寝息をたてているルナは、努めて無視しながら。


 さて。


 僕らは今、フォレストドラゴンのFDさんがいた場所から少し離れたところにあった洞穴にいます。


 アレ(・・)が済んでからしばらく呆然としていると、辺りが暗くなってきていたので、下山せずに野宿しようと準備し始めたときに、どこかに行っていたマシロがここまで案内してくれたのです。


 よくも見捨ててくれたな、と睨み付けましたけど、素知らぬ顔で安全そうな洞穴まで案内してくれたので、どうにも怒ることはできませんでした。


 ……仕返しに、マシロのゴハンはしばらくゴブリンの肉にしてやりたいと思います。


 洞穴の中はそこまで広くはなかったですが、特に何かがいた様子もなかったので、朝までここにいようと思います。

 水も食料もそれなりにあるので、問題はありません。


 日が暮れて気温が下がってきたので、マシロに頼んで『エアコンディション』の魔法を使ってもらい、空調をしました。

 ただ、これは周りの空気が暖かくなっただけなので、火も起こします。

 ……ケムいので、煙は外へ出しましょう。

 これも魔法で、『ストリームコントロール』を使います。

 気流を操作するのですが、ついでに酸欠にもならずに済みそうですね。

 ただ、外の冷たい空気が入ってくるので、その度に『エアコンディション』の魔法で調節しなければならないのが難点です。

 尤も、命には替えられないので、仕方ないですが……。


 今日は身体を動かし続けたので、お腹が空きました。

 ……別に他意はないですよ。

 調理する気力はないので、携帯食を食べます。


 しっかり、どっしりとしたクッキーという感じで、干した果物も練り込まれているので、見た目よりも食べ応えがあり、1つ食べただけで十分に満足できます。

 口の中の水分が全てなくなるのが、欠点でしょうか。

 水を飲みながらでなければ、食べられません。


 マシロも食べたそうな目をしていたので、余っていたゴブリンの肉を渡しました。


「ぴゅ〜」


 さっきルナからドラゴンの肉をもらったのだから、良いでしょう?

 贅沢ばかりしてはいけませんよ。


「……ぴゅ」


 モソモソとゴブリンの肉を食べるマシロ。

 ……僕をルナに売った仕返しです。

 まぁ、それが最後のゴブリンの肉なので、今後は滅多なことがない限りもう出さないと思いますから、我慢しなさい。


 マシロのもふもふな背中を撫でてあげると、その都度うっとりとした表情をするのですが、ゴブリンの肉を飲み込むときはしかめ面をするので、カワイイなぁと思いながら、撫で続けます。


 そうしてボンヤリとしていると、ルナが目を覚ましました。

 知らないうちに移動していたから、現状を認識するのに時間がかかるでしょうね。


「ここは山にあった洞穴です。

 日が暮れたので、移動しました」


 そう言いながら僕は、〈道具〉(アイテム)から着替えを探します。

 僕の服しかないですが、背丈はそこまで変わらないので、緩めのものなら大丈夫でしょう。

 寝間着にしようとした服を取り出して、ルナに渡しました。

 っと、その前に……。


──『クリーン』──


 魔法でルナの身体を綺麗にします。

 一応拭いてはありましたが、これで完璧です。


「……着替えてください。

 そうしたら、食べ物を用意するので……?」


 あれ?

 そういえば、ルナって食事するのかな?

 生命維持には魔力が必要とは言われたけど、食事には言及されなかったです。


「食事は必要です。

 魔力とは別に、生命維持に不可欠、なのです」


 ふむ、では、この携帯食を食べてください。

 美味しいですよ。


「ありがとうです」


 んー?

 なんだかなぁ?


「語尾に、『です』をつけなくても良いのですよ。

 喋りにくいでしょう?」


 僕がそう言うと、ルナは首をこてん、と傾けて、


「……ヘン、なのです?」


「いや、ヘンというか……」


「言葉は、パパ様に習ったです。

 パパ様と同じように喋っているつもり、ですが……ヘンです?」


 うーん?


「いや、それなら構わないですよ。

 喋りやすい話し方で」


「良かった、です」


 ホッとしたように微笑むと、ルナはクッキーっぽい携帯食を啄むように食べ始めました。


 ……まぁ、話し方くらいどうでも良いですね。

 考えてみれば僕は今、何の言語を喋っているのでしょうか?

 自分では日本語を話しているつもりですが、それならどうして異世界の人に通じているのか?


 しかし、一方で、僕のこの身体は元からこの世界に住んでいたイー君にものです。

 ならば、自ずとその話す言葉は、現地の言語になるのでは? とも思えますが、そうなると、僕は現地の言語を口では喋りながら、耳に聞こえてくるのは、日本語ということになってしまいます。


 ……不思議です。


 まぁ、異世界ものの物語では、そこら辺はいろいろな設定が考えられているのが見受けられますから、僕の場合も何らかの仕組みが働いているのだろうと思います──最初に管理人さんが何かしたのでしょう。

 あまり深く考えずにいきましょう。

 今のところ、不具合はないのですから。


 それを踏まえれば、ルナの口調くらい気にすることはないですね。


 言葉については、もう考えないことにして……と。


「ぴゅぴゅっ!」


 僕が『マップ』に魔物に反応が映ったのに気付いたのと同時に、マシロが緊迫した声を出し、ルナは慌てて携帯食を飲み込もうとして、喉に詰まらせました。


 僕は急いで水を渡してから、


「それを飲んだら、急いで着替えて!

 先に表に出てます!」


 食事を先にするためまだ服を着ないで、外套のみ羽織っていたルナにそう言うと、僕は駆け出しました。


──『ドレスチェンジ』──


 魔法によって全身鎧を即座に纏うと、マシロが僕の首に巻き付きました。

 これで、準備は完了です。


 洞穴から出ると、魔物の反応があった方を確認します。


──『ホークアイ』──


 視覚が鳥瞰のものに変わりました。

 けど……。


 しまった。

 暗くて何も見えない!


 あー、何か魔法はないか?

 ……これだ!


──『ナイトビジョン』──


 明かりを点けても一部分しか見えないから、暗視の方が良いはず。

 これなら……よし、よく見えます。


 いた!

 アイツだ!


 ……なんだ、あれ?

 大きな犬なんだけど……首が2つあります。

 あ、知ってます。

 確か、あれは……。


「ケルベロス……」


「違います。オルトロス、なのです」


 …………。


 魔法の効果を解除して、振り向くと、着替えたルナが立っていました。


 あー、うん。

 早かったですね。


「急いで着替えたです。

 それにしても、何故こんなところにオルトロスがいるです?」


「それはおかしいことですか?」


「はい、なのです。

 高山にはいない、と学んだです」


 僕の疑問に、ルナは首を傾げつつ答えてくれました。


 ふむ。

 といっても、ここには少し前までドラゴンのFDさんがいましたが、そのために、周辺には魔物がほとんどいなくなっています。

 その間隙をついて、あのオルトロスとやらが、縄張りとして利用しようとしてもおかしくはないと思います。


「いや、そもそも、山にオルトロスはいないです」


 だから、登ってきたのでは?

 FDさんがいなくなったのはわかることなのだから、今なら簡単にこの場所を奪い取れると考えて……というのは、どうですか?


「むぅ……。そうかもしれない、です……けど」


 まぁ、そんなことはどうでも良いですが。


──『プロテクト』──


──『フィジカルアップ』──


──『シャープエッジ』──


──『マギマテリアライズアームズ』──


──『マリオネットアーム』──


──『フロートシールド』──


 支援魔法6点セットを使います。

 逃げるにせよ、戦うにせよ、これらの魔法は必要です。


「もう気付かれているです。

 逃げられないです」


 尤も、こんな暗い山の中を魔物から逃げられるとは思えません。

 選択肢は元から1つしかなかったですよ。


()るです!」


「ぴゅぴゅぴゅっ!」


 ……うん。

 2人ともやる気があるのは良いけど、できれば、僕の後ろに下がっていてほしい。


 ワオーン、というオルトロスの遠吠えとともに襲い掛かってくるのを見遣りながら、僕は気合いを入れ直して身構えるのでした。






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