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「はじめまして、なのです。シータ」
鈴を鳴らしたような澄んだ声が、僕の脳に浸透してきました。
それがあまりにも心地好く、我を忘れてしまいそうです。
「ぴゅっぴゅー!」
マシロの声にハッと気付き、ごほんと咳払い。
僕も返事をしなければ!
「はじめまして……ええと?」
「ルーナリア・ハートフォレスト、なのです。
是非、ルナと呼んで欲しいのです。
それと、マシロ? よろしくなのです」
「ぴゅっ!」
ずっとこの声を聞いていたいけど、そうもいきません。
いくつか疑問があります。
「あの中にいても意識はあったから、声は聞こえていたのです。
だから、父様とあなたたちの会話から大体の事情を把握しているのです」
あ、そうですか。
話が早くて助かります。
ちなみに、父様とは……。
「シータがFDさんと呼ぶ、あのドラゴンなのです。
参考のために言うと、もう1人の方は、パパ様、と呼んでいるです」
……ありがとう。
別に聞きたくなかったけど……。
「それはそれとして。
シータにお願いがあるです」
「なんでしょう?
僕にできることなら、何なりと」
僕の言葉に、ルナは微笑みます。
海を思わせる瑠璃色の瞳は、艶やかに濡れていました。
背中にぞくりとした何かが走り、僕の身体を震わせます。
「私と契約して欲しいのです」
「契約」
それはなんのために?
「私はホムンクルスなので、生きるために魔力が必要です。
しかし、ヒトのように外的魔力を取り込むことはできず。
契約者から直接、内的魔力を取り込まなければならないのです」
んー?
その理由は?
「私──ホムンクルスにとって、外的魔力は毒のようなもので、それを除去して内的魔力にしてもらわないとダメなのです」
ふむ?
「契約をするのは、そうすることで専用にチューニングされた魔力を得られるので、効率がずっと良くなるから、なのです」
よくわからないけど、そうする必要があるのですね?
そうしないと貴女が生きられない、ということなら、僕に否はありません。
FDさんから貴女を預かるという覚悟したときから、そのために必要なことはなんでもやろうと決めました。
なので、契約でもなんでもバッチコイです!
「ありがとう……なのです」
近付いてきたルナはポツリと呟きます。
目の前に立たれると、身長はそんなに変わらないですね。
若干、僕の方が高いです。
……僅か数cmですけどね。
ルナは僕の手を取ると、その人差し指を自らの口に含みました。
彼女がガリ、と歯を立てると、指から僅かですが出血したのがわかりました。特に、痛みはありません。
ルナは、出てきた血をこくりと嚥下し、そして傷を癒すように舌で舐めます。
口内の熱が僕の指を伝わり、全身を熱くしていきました。
うん、スゴいエロチックですよ、これ。
今更ですけど、ルナは裸だし、これは端から見たら、ちょっとした事案ですよね?
急いで〈道具〉から、替えの外套を取り出して、ルナに被せました。
ゆっくりとルナが口から僕の指を出します。
つぅっと、唾液の糸が引きました。
それを舌で舐めとる仕草も、いちいちエロいです。
「これで、契約完了?」
「はい。
シータの血液から、魔力を解析したのです。
今後は、シータの魔力以外、摂取できません」
え?
それって、僕が死んだら、ルナはどうなるのですか?
また、新たに契約者が必要になる?
「いえ、そのときは私も共に死ぬ、です。
それが、ホムンクルスというものです」
…………。
うわぁ、責任重大ですよ、これは!
迂闊なことはできなくなりました。
「気にしないで欲しいのです。
どうせ、1度はこの命を諦めたのです。
それをシータのために役立てられるのなら、本望なのです」
それは嘘偽りのないことです、とルナが言います。
このことについては、あとでしっかりと考えましょう。
僕だけでなくルナの命を背負ったなら、2人でキチンと話し合う必要がありますからね。
「じゃあ、次の問題は、と……。
僕は貴女にどうやって、魔力をあげれば良いですか?
今みたいに、血を吸わせれば良い?」
ふるふるとルナは首を横に振りました。
……ちゃんと外套を纏ってください。
隙間からチラチラと見えちゃいます。
おかしなもので、全く何も着ていないときよりも、今の方が気になります。
これが、チラリズムというものですね……。
でも、ルナはあまり頓着しない様子なので、僕が整えました。
話が済んだら、服を渡すとしましょう。
「血は契約のときだけ、なのです。
あんなものを常時飲んでいたら、気持ち悪くなります」
ごめんなさい。
「もっと別のものです」
「具体的には?」
「体液、なのです」
……は?
「汗とか唾液とかですが、これらは効率があまりよくありません」
いやいや。
「汗の場合、裸で抱き合うですね。汗腺から吸収されますが、1日中そうしていなければならないので……」
いやいやいやいや。
「唾液は、ディープな口付けなら、そこそこ効率が良いです。緊急時ならこれを推奨するです。
ただ、あくまでもそこそこなので、普段からこれで維持しようとするなら、30分おきくらいに、頻繁にするです」
…………。
「でも、一番良いのは、なんと言っても精液、つまり性行為、なのです。
最も効率が良いです。
1日1回です。2日に1回でも大丈夫ですけど、何かあったら動けなくなる可能性があるので、やはり1日1回がベスト、なのです。
もちろん、2回でも3回でも良し、です」
……この子は何を言っているのでしょうか?
そうか、これが世に言う、ジェネレーションギャップというものですね!
ははは、最近の若い子ってやつは……。
「現実逃避、ダメなのです」
あ、やっぱり?
「ちなみにあの培養槽は、外的魔力を内的魔力に変換して液体化させる装置、なのです。
私はそれに浸かっていましたが、汗腺から吸収するので、1日中あの中にいなければならなかった、です」
なんというか、こういう言い方は悪いけど、ホムンクルスって欠陥品なんじゃないかな?
生命維持に苦労しすぎるでしょうに……。
「パパ様はそれをどうにかしようと研究していたです」
なるほど……。
「それと、性行為云々については、気にすることない、です。
理由があって、サキュバスの因子が私にはあるです。
ある意味、食事と変わらないです」
えー?
そういう問題なのかなぁ……?
「大丈夫なのです。
私は処女ですが、キチンと満足させられる、です!」
絶対にそういうことじゃない!
「なら、どういうことです?
それとも……私ではダメなのです?」
ぐぅ……。
そういう言い方は、ズルい。
しかも、上目遣いで言われると……。
チクショウ! かわいすぎる!
「というか、もう契約は交わされたし、そもそも、なんでもするって、シータは言ったです。
それを反故にするですか?」
ぐっはぁ……。
言質を取られてました。
過去の自分を殴りたい。
「男なら潔く据え膳を食え、です!」
そう言って、ルナは僕に飛び掛かってきました。
避けられずに、簡単にマウントポジションを取られます。
「イヤだー! こんなところでなんてー!」
こんな山の中はイヤだ!
「初めてじゃないのだから、別に構わないだろう、です。
私は初めてですが、全く気にしないです」
「そういう問題じゃない!」
あと、それは女性側から言う台詞じゃない!
なんとか拘束を外そうとしますけど……ナニコレ、ムリだ。
何でこんなに力強いの?
「ふっふっふっ。私にはフォレストドラゴンである父様の因子があります。さらに、サキュバスはこういった手管に通じているです。
簡単には、逃がさないです」
ニヤリ、と口の端を上げるルナ。
その唇を舐める仕草が……ああ、もう!
「鎧、邪魔です」
と、ポイポイと外されていく鎧。
こんなに簡単に脱がされて良いのか、全身鎧?
「これも、サキュバスの技術、なのです」
「きゃー! 助けて、マシロー!」
「ぴゅ?」
「マシロ。これをあげるです」
どこからともなく肉の塊を出したルナは、それをポンとマシロに渡しました。
「ぴゅっぴゅっぴゅっ!」
「ドラゴンの肉です。
それは前払いです。あとで、焼いたドラゴンステーキを一緒に食べるです」
「ぴゅー! ぴゅっぴゅっ!」
マシロが肉をくわえて、離れていきます。
なんてことでしょう、アッサリと買収されてしまいました。
さらに気を利かせたつもりか、魔法を使って結界を張っていきました。
防寒が施されているのは、風邪引くな、というメッセージでしょうか?
「む? 良い仕事するです、マシロ」
その間にも僕の服は脱がされていき、もはや風前の灯です。
なんか泣きたくなってきました。
「では、いただきます、なのです」
いやー、おーかーさーれーるー!
アーーーーーッ!?
──肉食系女子って、本当にコワイです……。




