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「えーと、一体、何のことでしょう?」
とりあえず、誤魔化してみます。
……無理でしょうけど。
「そんな駆け引きはいらん。
俺様にはわかるんだ、貴様がエルフだとな。
だから単刀直入に聞いている。
何しに来た、とな」
…………むぅ。
仕方ないですね。
ギルドマスターさんは、何故か確信がある様子。
見たところ、鎌を掛けているわけではなさそうですし……。
なんで、わかるのでしょうかね?
そういえば、アナスタシアさんも鎧兜を纏っているのに、その中の僕の顔がわかったみたいでした。
何かの技術なのかな、識別とか鑑定とか?
……まぁ、考えてもわからないですし、後回しです。
今は兜を外して、顔を晒しますか。
よいしょっと。
「失礼しました。
初めまして、エルフのシータです。
尤も……えと……そう、家出というか、森から出奔したので、あまり、その……大袈裟に考えないで頂きたいのです」
そうなのです。
ギルドマスターさんは、エルフが何をしに来たのかを気にしてましたが、今、僕がここにいるのは、特に理由があってのことではないので、変に構えられるとちょっと困ります。
ぷるぷる、僕は良いエルフだよ。
「ふぅむ。
そう言われてもな……では、この度の山の異変に何の関わりもないと?」
「はい。どちらかというと、僕らもちょっと困っています」
というか、何故エルフというだけで、ここまで警戒されているのです?
詳しく聞くと、その昔(ウン百年前)のこと、この辺り一帯は、エルフの住む森の一部だったそうな。
正確に言うなら、僕がいたあの大きな森は、ここまで拡がっていたらしい。
それが開拓されて、今に至るのだそうだけど。
そんなわけで、エルフは今でもこの国境の町周辺の維持のために、出張って来ることがあるみたいなのでした。
山に異変が起きたときに、エルフ(僕)がやって来た上、そのエルフがヨツデグマという強力な魔物を討ったので、ギルドマスターさんはよっぽどのことが起きたのだろうと考えたらしいです。
……たまたまの偶然なんですけどね。
「そういうことで、この部屋に来てもらったわけだが……」
そう言うと、ギルドマスターさんは腕組みをして黙ってしまいました。
6、70歳くらいの年齢に見えますが、筋肉がものすごくて、とてもご老体には見えません。
威圧感も半端ないですし、なんなのですかね、この人?
まぁ、ギルドマスターさんのことは置いといて。
「貴様のことは考えないとすると、エルフがまだ来ていない以上、山の異変というのは、そこまで喫緊のことではない、ということだな。
ふむ?
となると、やはりこちらから人を出して、確認するしかないか……」
ぶつぶつと独り言を仰っていますけど、こちらを無視しないでもらいたいです。
これ、もう帰っても良いですか?
「いや、待てよ……?」
はて? ギルドマスターさんの目がキランと光ったような……?
ぞくり、と悪寒が走りました。
イヤな予感が……。
ニヤリと獰猛に笑うギルドマスターさんの顔は、獲物を見付けたときの肉食動物のように見えました。
これは……ダメだ、逃げましょう。
「そうはいかん」
踵を返して部屋から出ようとした僕が見たのは、いつの間にか扉の前に移動していたギルドマスターさんでした。
は?
なに、その瞬間移動?
既に回り込まれていましたよ……。
「まぁ、話を聞いていけ」
「イヤです」
「聞け」
「……はい」
逃げられませんでした……。
……怖い、怖いよ。
ちょっと睨まれただけなのに、身体が動かなくなりましたよ?
この人、ヨツデグマなんかよりよっぽど怖いよ……。
「それで、だ。
ちょっくら山まで行って、ちゃっちゃっと様子をみてきてくれや」
すげー軽く言ってますけど、イヤだよ。
絶対危険じゃないですか。
「国境のトンネルが封鎖されたままだと困るだろ。
行ってくれたら、貴様らには特別に国境を越える許可出すからよ。
どうだ? 悪い話じゃないだろう?」
ぐ……。
確かにここでモタモタしているよりは良いかもしれないけど……。
「確認したいことがあります。
山に行くだけですか?
それとも、原因を追求し、解決することまで含まれます?」
「いや、そこまでは求めてない。
俺様の考えだと、恐らくだが、山に何らかの魔物が棲み着いたんだろう。だから、他の追い出された魔物が山から下りてくることになったんだと思っている。
貴様に頼むのは、そんな魔物がいるかいないかを確認してきてほしい」
…………。
いや、簡単に言ってますけど、それ無理じゃない?
山ですよ?
ムチャクチャ広いじゃないですか!
そんなところをアテもなく歩いて見付かるかわからないし、ましてやいないことの証明なんか不可能だし。
「大丈夫だ。
魔物がいれば、ノコノコと縄張りに入ってきた獲物を見逃すことはないから、頑張って戦ってくれ。
いるとわかれば、対処を考えるから、倒せなくても逃げてきてくれ。
それならそれで、全く構わん」
「いや、それってオトリみたいなものじゃないですか!?」
「そうとも言うな。
大丈夫だ、あのヨツデグマを倒した貴様なら、問題ない……はずだ」
せめて断言して!
あと、その根拠だと薄弱ですし!
ヨツデグマも山から下りてきた以上、縄張り争いに負けてるわけで、山にいるであろう魔物はヨツデグマより強い、ということになりますよ!
よしんば、山に魔物なんかいなかった場合、原因のわからないけど何やら異変のある山を歩き回らないといけないなんて、イヤすぎる。
「1日くらい適当に歩き回っても魔物がいないなら、その段階で戻って来れば良い。
魔物がいない、ということがわかるなら、それで良いからな」
そりゃそうでしょうけど……。
もっと適任者がいるんじゃないです?
山に詳しい人とか?
「エルフである貴様が行くから、周りも納得させやすい。
さっきも話しただろう?
そういうことだ」
うー。理解はできますけど……。
何も絶対に僕が行かなければならない、というわけじゃない。
だから、断っても問題ないはず。
でも、僕が行かなかった場合、ここで足止めをさせられる。
それも、いつまでかわからないのだ。
それなら、僕が山に2、3日行きさえすれば、国境を越えることができるなら、その方が手っ取り早いような気がする。
その場合の懸念は、僕の身の安全だ。
ただそれも、マシロの魔法があればなんとでもなる気はしています。
んー、でもなぁ……。
チラリと横にいる護衛さんに視線を向けます。
この人、さっきからずっと気配を隠して、存在感を消して黙ってますけど、こういう交渉をするためにいるんじゃなかったのですか?
そんなに、ギルドマスターが怖いのか? ……いや、確かに怖いけども。
あとで、アナスタシアさんにチクってやりましょう。
「とりあえず、同行者がいますので、相談してから返事します」
「うむ、早めにしてくれ」
今は、そう言うしかなかったのでした。




