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「貴様らがそのヨツデグマを倒したのかっ!?」


 ドスンドスンと床を鳴らして僕たちに近付いてくるハゲでヒゲのおじいさんは、正直に言ってクマと相対したときよりも怖いです。


 身長2mはあろうかという背の高さに加え、みっしりと詰まった筋肉が、スゴい威圧感を持って迫って来て、知らず知らずのうちに僕は後退りしていました。


 つか、顔が怖い。

 視線だけでゴブリンくらいなら殺せるのではないでしょうか?


 倒したヨツデグマを見せるために、受付のお姉さんに倉庫のような広い部屋に連れられてきたのですが、唐突に現れたこのおじいさん、なんなの、一体全体?


「急にどうしたのですか、ギルドマスター?」


 蛇に睨まれたカエルの如く、身動きが取れなくなった僕は、その声が救いの女神のように聞こえました。

 ……って、ギルドマスター?

 誰が?

 このおじいさんのことなの、もしかして?

 嘘でしょ?

 嘘だと言って、受付のお姉さん!


「ヨツデグマが倒されたと聞いた。事実か?」


「ええ、この通りです」


「それをコイツらが、か?」


「はい」


 受付のお姉さんとギルドマスター(?)さんが普通に話していますけど、よく怖くないな……?

 もうその視線は僕の方を向いていないけど、未だに威圧感が感じられます。

 逃げてもすぐに回り込まれそう……。

 いや、逃げないですけどね。


「ちっ」


 え?

 なに、その舌打ち。

 もうやだ……。いちいち怖いよ、この人。


 ギルドマスター(?)さんがまた、僕の方に視線を向けます。

 その眼差しはものすごい不機嫌そうで、自然と僕の背筋が伸ばされました。

 うう……泣きたくなってきた。


「貴様が殺ったんだな?」


 フルフェイスの兜を被っているのでわからないかもしれませんけど、僕の顔は引きつっています。

 急いで、コクコクと頷きました。

 ……声なんて出ないし。


「貴様が、殺ったんだな……?」


 肩にグローブみたいな分厚い掌が置かれました。

 鎧越しにですが、その熱が伝わってくる気がします。


「は、はい……」


 あ、なんとか声が出た。

 ……震えてるけど。


「どうやった?」


 ……どうやった、とは手段を聞いているのかな?

 ゴクンと生唾を飲み込み、もつれそうになる舌を動かしました。


「……えと、魔術で足止めをしてから、剣で突き殺しました、けど……」


 ギルドマスター(?)さんの顔がみるみる険しくなってきました。

 えー、何かいけなかったですか?


「……そうか」


 そう言うと、クルリと後ろを向いて……肩を震わせています。

 なんなの、本当に?

 もしかして、これから大爆発するの?


「くっくっくっ」


 え?


「はっはっは!! よくやった! よくやってくれた!」


 急に破顔一笑するなり、僕の肩をバンバンと叩き出しました。

 イタイイタイ。

 鎧の上からなのに、スゴい痛い!


「くっくっくっ。

 こんなに愉快なのは、久し振りだ。

 できれば、俺様の手で仕留めたかったが……贅沢は言えんな」


 なんなの、この人?

 怖い雰囲気が雲散霧消してしまいましたよ。


「ギルドマスター?

 そちらの方が訳がわからず、戸惑っています。

 事情を説明されてはいかがですか?」


「おお! そうだった!

 すまんな。

 実はな、このヨツデグマは、俺様がこの地に来た十数年前から狙っていた相手なんだ」


 ギルドマスター(?)さんはそう言って、ヨツデグマの側にしゃがみこみました。


「ここ。この胸のところに、傷があるんだが、これが俺様の付けた傷なんだよな。

 そのときは止めを刺せずに逃げられてな。以来、コイツを倒す機会を探していたんだ……。

 たまに目撃情報がある度に追いかけるんだが、いつも逃げられる。

 全く……不愉快なヤツだった」


 はあ……それが、僕に横取りされて、怒り心頭に発した……と?


「いや、まあ……俺様が殺りたかったが、こういうのは早い者勝ちだからな。

 俺様の運がなかっただけだ、気にすんな」


 それでも、どこか寂しそうにヨツデグマの死骸を見詰めるギルドマスター(?)さん。

 因縁の決着は、自分の手で付けたかったのでしょうね。

 そういう感覚は僕にはわからないので、何とも言えませんけど……。


 気を取り直すようにスパンと自らの膝を叩いて立ち上がったギルドマスター(?)さんは、


「よし! おい、お前ら!

 先にこのヨツデグマを解体してやってくれ!

 終わったら、俺様に報告しろ、良いな?」


 と、仕事中の職員さんたちに声をかけてから、僕と護衛さんに顔を向けて、顎をしゃくります。


「ちょっと、もう少し話が聞きたい。

 俺様の部屋に来てくれや」


 そう言うなり、一人で歩き始めました。

 僕と護衛さんは顔を見合わせ(そういえば、さっきまでこの護衛さん、気配がなかったけど……もしかして逃げてた?)、慌てて付いていきます。


 デカイ背中なので見失うことはなく、追い付きました。

 ポケットに手を入れてブラブラと歩いている後ろ姿は、なんというか、ファンキーなおじいさんにしか見えないのだけど、本当にこの人、ギルドマスターなのかな?

 未だに疑っている僕がいます。


 階段を上り、奥にある扉を開けて部屋に入るギルドマスター(?)さんに、僕たちも続きました。


 その中にある大量の書類の乗った執務机を迂回して、ギルドマスター(?)さんは大きな椅子に腰掛けます。

 ぎしり、と音をさせ、机に肘を置き指を顎の下で組むと、ギルドマスター(?)さんは僕たちを眼光鋭く睨み付けます。


 なるほど。

 そうしていると、確かに彼はギルドマスターなんだな、と納得できました。

 ……デカイ筋肉の身体が見えなくなっただけ、なんですけどね。

 不思議だなぁ……。


「それで……この国境の町に、何の用なんだ?

 ……いや、言い直そう。

 エルフ(・・・)が森から出てきて、何をするつもりだ?」


 …………。

 あれ?

 何故、僕がエルフだとバレたんだろう?

 全身鎧で顔まで隠してあるはずなんだけど……?






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