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馬車に乗って移動すること1時間ほど。
アナスタシアさんとお話ししていたら、特に何事もなく街に到着しました。
街道なので、そんなに魔物が現れることはないのだそうです。
……まぁ、全くいないわけでもないのだけど。
そんなことを話しながら、馬車は街の中に入っていきます。
注意しながら外の様子を見ていましたが、ヴィッキーさんに注目が集まっているようなことはなさそうてす。
ヴィッキーさんは、アナスタシアさんからフード付きのローブを借りて、それを着ているので顔が見えないということもあるだろうけど、そもそも、まだ貴族殺害の件には気付かれてないっぽいです。
指名手配の人を探しているような雰囲気ではない、と思います、恐らくですけど。
あの貴族の男が暮らしていた街というわけではないので、まだ情報が届いていないだけ、という可能性もありますが、ここは近隣には違いないので、安心するのは早いかもです。
予定ではここで1泊するだけなので、とっとと移動したいところです。
肝が小さい僕としては、ビクビクしながら過ごすのは避けたいのですよ。
……いや、僕が捕まるわけではないけど、同行者に何かあるというだけでこんなにストレスになるのだから、本当に僕はダメだなぁ。
「そんなに警戒しなくても、大丈夫よぉ……」
「ぴゅー……」
呆れたように、アナスタシアさんは言います。
マシロも同様ですけど……そんな『ぴゅ』だけで、感情を表現できるなんて、相変わらずカワイイヤツめ。
白い目をする(全身白いけど)マシロを撫でながら、僕は気を落ち着かせます。
……少し情緒不安定になっている自覚があります。
疲れているのかも?
「あらあら……。
今日はもう宿屋に泊まって、休みましょう……。
ゆっくりフカフカのベッドで寝れば、疲れも取れるわよぉ……」
そうですね。
それで、そのあとの予定は?
「えっとぉ……。
ここから半日くらい馬車で進めば、国境に到着するわぁ……。
正確には山が国境になっていて……」
え?
じゃあ、山越えですかね?
「ううん。
トンネルがあるから、そこを通るだけなのぉ……。
そのトンネルの出入り口に、それぞれ街ができているから、そこで1泊するわぁ……」
へぇ。
トンネルを掘るなんて、スゴいな。
……いや、魔術なんてものがあるから、もしかしたらボーリングマシンより簡単なのかもしれない。
意外と、この異世界、侮ってはいけませんからね。
何てことを話しながら、石畳の道を馬車はゴトゴトと進んでいます。
周囲の建築物は石造りのものが多く、木造はたまにしか見かけません。
日本みたいに、多湿ではないのかな?
それなら、長持ちする石造りの建物の方が良さそうですね。
僕の目に映る風景は、どことなくテレビでしか見たことがないようなヨーロッパの国を思い出させますが、道を歩く人々をよく見ると、それは裏切られます。
頭に獣耳、お尻には尻尾を生やした、いわゆるファンタジーの定番である獣人がいたり、ドワーフっぽい人がいたり、槍を持って鎧を身に付けていたりと、ああ、ここは異世界なんだな……と感じられる光景が多々あります。
まぁ、僕自身エルフだし、全身鎧を身に纏い背中には大剣を背負っているのだから、今更ではあるのですが……。
そんなことをつらつらと考えていると、馬車が停まりました。
宿屋に到着したのでしょうか?
すると、かちゃりと扉が開き、護衛さんが顔を見せて、
「アナスタシア様、到着いたしました」
と言いました。
僕は一応護衛の1人として雇われているので、先に馬車から降ります。
キョロキョロと周囲の様子を伺いますけど……何もわかりません。
まぁ、『マップ』と『サーチエネミー』の魔法があるので、何かあれば反応する……いや、過信はいけませんよ。
でも、ヴィッキーさんと護衛さんはそこまで警戒してないようなので、とりあえずは安心しても良いのでしょう。
あまり気を張っていても仕方ないか、と肩の力を抜いて、深呼吸していると、馬車から降りたアナスタシアさんとヴィッキーさんに手招きされたので、付いていきましょう。
護衛さんは、馬を厩舎に連れていくので遅れるそうです。
その間に、僕らはチェックインします。
女将らしき人が出迎えに立っていたりするので、ここは高級な宿のようです。
内装もなかなかの高級感があるし。
受付の女性と、手続きをしているヴィッキーさんの会話から1泊の値段が聞こえますけど、物価がわからないので、高いか安いかちっともわかりませんね。
まぁ、無一文の身としては、なんら言えることはないのですが……。
僕は不安一杯の表情を兜で覆い隠して、女将と談笑するアナスタシアさんの背後に控えていました。
なんせ、こちとら小市民オブ小市民です。
下手に身動ぎして、高価そうな備品を壊さないか、戦々恐々としているのですから。
ああ、全く……。
こういうときに、【鑑定】みたいなスキルが欲しいですよ。
物の価値がわかれば、壊して良いかどうか判断できるのに……。
管理人さんも、気が利かないなぁ、もう……。
……いや、待てよ?
本当に物の値段がわかって、ここにあるものが全て高価な物だと知ったら、僕はここで1泊できる自信はない。
だとしたら、曖昧なままの方が良かったのかもしれません。
管理人さん、詰ってしまって、ごめんなさい!
と、下らないことを考えて現実逃避していたら、手続きが済んだようなので、部屋に行くようです。
階段を上り、最上階の5階へ。
……エレベーターが欲しいよぅ。
建築法(消防法だっけ?)は、どうなっているんだ、全く……。
最上階は、いわゆるVIP用の一室しかないようですね。
そこに案内されましたが……?
あれ?
僕はどこに泊まれば良いのです?
まさか、女性と同室ということはないですよね?
そんなファンタジーは、ゲームだけで十分ですよ?
護衛として雇われていますけど、さすがに同室には泊まらないですよね。
よしんば、その必要があったとしても、同姓で親戚のヴィッキーさんがいるから、問題ないはず。
あ、スイートルームだから、異性の護衛も一緒にいても大丈夫なのでしょうか?
「ううん。
護衛の彼は、別室よぉ……。
いくらなんでも、それはムリかなぁ……」
…………。
いやいや。
じゃあ、何で僕はここに連れられたのです?
僕も別室ですよね?
「え、何でぇ……?」
…………。
いやいや。
いやいやいやいや。
まさか……ね?
もしかしたら……だけど?
……何か勘違いしてます?
ヴィッキーさん、ちゃんと説明しました……って、何でここで着替えているんですか!?
寝室に行ってくださいよ!?
「うん?
何を慌てているの?」
……はっ?
待てよ?
もしかして、ヴィッキーさんも勘違いしている?
「女同士なんだから、別に良いじゃない?」
やっぱりぃーーー!?
そういえば、ヴィッキーさんとの自己紹介のときに性別については触れなかったけども!
それでも普通、「自分は男です」とか言う自己紹介なんてないよね!
確かに、この顔はちょっと女顔だけど!
それにしたって!
「ぴゅぴゅぴゅっ?」
──マシロよ、お前もか……orz。
「えっとぉ……。
シータちゃんって、男の子なのぉ……?」
「……はい」
「そうなんだぁ……。
見えないわねぇ……」
ぐっさり。
ぼくのハートはブレイクしてルルルー。
「へぇ。
あたしも女の子だとばかり……なんかごめんね?」
……謝られると、余計にツラたんです。ルルルー……。
それよりも、ヴィッキーさんは下着姿でいないで、早く服を着ていただきたいのですが。
目を逸らしたところで、そこでもアナスタシアさんが着替え出したので、目の遣り場にとても困るのです……。
今は、ぎゅっと目を瞑っています。
「んー。
なんか、シータって、男の子って感じがないから、あまり気にならないわ」
ぐはぁっ!?
もう……ダメです。
僕の生命力は1しか残っていません。
ちくしょう!
こんなところにいられるか!
部屋から急いで飛び出して、階下の護衛さんの部屋に向かう。
どこかわからないので、受付まで駆け降りて、部屋の場所を聞いたら、再びダッシュで4階まで駆け上がる。
そして、聞いた護衛さんの部屋にノックしてから入って、キョトンとしている護衛さんに、開口一番に言います。
「この部屋に泊めてください!」
「何、言ってるんだ?
女の子と一緒に寝られるわけないだろ?
もっと自分の身体は、大事にしなさい」
──護衛さんよ、あなたもか……orz。
僕の生命力は0になったのでした……バタリ。




