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美女2人との馬車の旅というのは、なかなか乙なものです。
想像していたよりも振動がなく、ほとんど揺れを感じません。
下手な車よりも快適かも……。
それに、乗ってみて驚いたのですが、外見から想定していたよりも、車内がずっと広いのです。
ソファーやテーブルがあり、また、キッチンまで完備されていました。
これは、どういうことですか?
「空間魔術で、内部を拡張しているのぉ……。
この馬車は、魔道具なのよぉ……」
とは、アナスタシアさんの言です。
さらに、奥に扉があって、そちらは寝室なんだとか。
……スイートルームとか、どんな馬車なんだか。
全く、驚くしかありませんね……。
まぁ、そのせいで、ギューギューの座席に美女2人に挟まれて座る、というハッピーな展開はなくなりました。
……残念とか思ってませんからね!
「ぴゅっ!」
マシロは冷やされた果実を食べています。
これは、車内に冷蔵庫(っぽい何か)があり、それで冷やされたものです。
聞くところによると、こんな冷蔵庫のような家電擬きはたくさんあるそうで、それらは魔術を利用した道具──魔道具と呼ばれているのだとか。
魔術を利用することで、誰でも便利に使えるようにするのと同時に、道具化すると魔力のコストが下がったり、普通に魔術を使用するより難易度が下がったりするそうな。
……どうしてかは、ヴィッキーさんもアナスタシアさんもよくわからないみたいですけど。
話を聞いていて思ったのが、電卓でした。
複雑な計算も、電卓を使えばすぐに答えが出ます。手間も労力もかかりません。
でも、使えるけど仕組みはわからない。
魔道具も同じなのでは、と思いました。
こんな高価そうな馬車を所有しているなんてスゴいけど、盗まれたり、壊れたり、といった心配はないのですかね?
「所有者登録してあるし……自動修復されるようになっているから、大丈夫よぉ……」
とのことですが、詳しく聞くと。
所有者登録することで、例え盗まれても、売ったりしたらすぐにバレるそうで。さらに言うと、使用も制限させるらしい。
また、『アイテムボックス』の魔術を使うか、同じ効果の魔道具を使えば収納できるので、窃盗の危険はほとんどないようです。
その所有者登録も、自身の所属する組織にしておくことで、仮に自分が死んでも登録先は変わらないし、その組織がなくなっても、登録先を一時的に国などに委譲させれば良かったりするみたいです。
これは、強盗対策ですね。
また、傷が付いたり、壊れたりしても、自然に修復させるので、よっぽど大破しない限りは問題ない、とのこと。
魔道具は高価なものが多いので、いろいろと対策が考えられているんですね。
話が逸れたので、それはさておきまして。
「……お姉様。それで、一体どういうことなんですか?」
ヴィッキーさんは、冷たい果実酒を飲んで、少し落ち着いたみたいです。
……酔わないように、水も用意しますか。
「えーと、実は……お父様が倒れたのよぉ……」
おや。思ったよりも、大事でした。
なるほど。
この世界では、携帯電話ですぐに連絡が取れたりしなさそうですものね。
……電報っぽいものはあるかな? 「チチキトク スグカエレ」とか、魔術で送れない?
「っ!? お祖父様の具合は!?」
「幸い、命に別状はなかったわぁ……。
でももう良い歳だし、引退することになったの……。
お兄様が跡を継ぐことになったのよぉ……」
「父様が……」
……ああ、この2人は、叔母と姪の関係でしたっけ?
見た目は、普通の姉妹にしか見えないから、謎の会話に聞こえる。
「それでぇ、ヴィッキーちゃんに帰ってきてもらおう、ってことになったの……。
そういう事情だから、巫女様も快く協力してくれたのよぉ……。
わかったぁ?」
「そう……ですか……」
はぁ、とヴィッキーさんは溜息を吐くと、そのまま黙り込んでしまいました。
ふむ。
よくわからないことがあるので、ここで聞いておきますか。
ヴィッキーさんも、考えを纏める時間がいるでしょうし……。
「巫女様とは? その方が、アナスタシアさんがここにいる理由なんですか?」
「そうよぉ……神託を授かったの……」
「神託」
「一応、大体のヴィッキーちゃんの居場所は把握していたの……。
でも、すれ違いがあったりすると時間の無駄になるからねぇ……。
だから、念には念を入れて、巫女様にお願いしたのよぉ……」
「そこが、よくわからないです」
「うーんとぉ、こんな言い方は不敬なんだけど……スゴい占い師、だと思っちゃって良いかなぁ……?
絶対にヴィッキーちゃんを連れ戻したい、とお願いしたら、『いついつまでに、どこそこまでに行け』ってことになったのよぉ……」
この瞬間、僕の脳裏に、管理人さんの顔が浮かびました。
そして、この神託というのは、本物なんだな、と不思議と確信できました。
「てっきり言われた場所で出会えると思っていたら、襲撃に遭うとは思わなかったし、それを助けたくれたのがヴィッキーちゃんだなんて、想像だにしてなかったわぁ……」
「神託とは、そこまでハッキリと具体的に起こることは、告げられないのですか?」
「うーん……よくわからないわぁ……。
……そもそも、そんなに利用しないからねぇ……」
まぁ、占いとは言いましたけど、実際はもっとちゃんとした神事みたいですし。
恐らくですが、曖昧に告げることで、不測の事態に備えているのではないでしょうか?
だって、馬車での移動なんだから、何があるかわからないわけで。
天候によって、移動速度も違うでしょうし……。
日本みたいにはいかないと思います。
だから、例えば、アナスタシアさんの移動が速かったり、遅かったりしても、なんやかんやで出会えたのではないでしょうか。
事象を操作するとか、運命を操るとか。
そういう仕事をしていそうです、あの管理人さんは。
「でも、よく巫女様? に協力してもらえましたね。
こういった個人的なことに、いちいち応えていられないと思うのですが……?」
「うふふ。そこは、持ちつ持たれつ、よぉ……」
何故か得意気に胸を張るアナスタシアさん。
その大きなお胸が、たゆんと揺れました。
眼福です。
ふむ。
もしかしたら、ヴィッキーさんは、実は良いところのお嬢さんだったのでしょうか?
少なくとも、言葉遣いなどはしっかりしていますし──僕を相手にしていたときは、普通だったのですけど。
まぁ、叔母であるアナスタシアさんを見ると、上流階級の人だなぁと思えます。
だったら、巫女様ということ神事を司る立場の人にも、それなりのコネがあってもおかしくないですね。
やっぱり、貴族なんですかね?
……あ、でも、森で貴族の男に強姦されかけても、自分は冒険者に過ぎないから、相手は裁かれない、ってとこ言ってましたっけ?
ヴィッキーさんが貴族なら、爵位によるでしょうけど、全く相手にされないってことはなさそうだけど……。
それとも、ヴィッキーさんにとって、自分は貴族ではない、という認識なのかも。
……冒険者に過ぎない自分、という言い方をしていたし。
それを踏まえると、ここでアナスタシアさんが現れた理由もわかります。
当主(だと思う)であるアナスタシアさんの父(ヴィッキーさんの祖父)が病気によって引退。
跡継ぎは、その息子(ヴィッキーさんの父)となる。
で、何らかの理由で、家を出たヴィッキーさんを連れ戻すべくアナスタシアさんに白羽の矢が立った、と。
……テンプレなら政略結婚とかで、将来そうなるのを嫌がったヴィッキーさんは家出した、とかいう筋書きが浮かびますが……?
家出したヴィッキーさんは、もう実家と関わるつもりはないから、自分は貴族ではない、一介の冒険者であると考えていて。
だとすれば、あの男に襲われても、自分が貴族だと明かせば、面倒なことになるんじゃないか、と考えれば、あの対処もわからなくはないですね。
…………。
辻褄が合わなくはないけれど、どれもこれも、推論の上に推論を重ねた妄想ですね。
つか、正解は、目の前にいる人に聞けば良いのだから、こんな妄想をこねくりまわす必要はなかったのだけど……つい考えすぎてしまいました。
……実は、僕はミステリー小説も好きです。
──こほん。
「で、そんなコネまで利用して、どうして、ヴィッキーさんを連れ戻そうと?」
「えー、そんなの決まっているわぁ……」
にっこりと微笑むアナスタシアさん。
「ヴィクトリアちゃんには、結婚して欲しいからよぉ……」
…………。
な、なんだってー!?




