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 可愛らしい子?

 ……ああ、マシロですね。

 そうです、うちのマシロはちょーカワイイですからね!


「ぴゅー!」


 うん。

 マシロは誉められて、とても嬉しそうです。

 僕も嬉しい。


「あらあら」


 僕の目の前に立った美女さんは、頬に手を当てて、艶然と微笑みます。


「あなたもよぉ……。とても可愛らしいわねぇ……」


 はて?

 僕は今、全身鎧を身に纏っています。

 当然、顔を完全に覆い隠す兜も、です。

 顔なんかわからないはずですよね……。


「うふふ」


 むう。

 謎の美女が、腕を組んで謎の微笑みを浮かべています。

 そうすると、彼女の大きな胸がますます強調され、やたらと色気が振り撒かれました。

 視線を向けそうになりますけど、鋼鉄の意思で目を逸らします。

 そうしながら、思考を進めました。


 困ったことに、僕のことを可愛らしいと表現することには、さほど間違っていません。

 元々の顔立ちは、エルフのイー君です。

 イー君は不細工だと言われていましたが、それはエルフの中にいたからで、ヒトに混じれば、上位クラスに入れると思います。


 イー君の身体に心を入れ換えられた今の僕は、管理人さんからもらったアイテムで、イー君(♀)の顔7割と、前世の僕(♂)の顔3割が混ぜ合わさり、その上で、性別を男性に変えました。


 結果、少し小柄な中性的な顔立ちの青年の完成です。

 本当は、もっと男っぽい顔が良かったのですけどね!

 ……ちくしょう。


 だから、目の前の美女さんが、僕のことを可愛らしいというのは、間違っていません。

 間違っていないのですが……。


 どうして、兜で覆われている僕の顔がわかるのでしょう?


 あてずっぽうですか?

 あるいは、何らかの方法がありますか?


 ……考えてもわからないですね。

 仕方ないです。

 このまま、流れに身を任せましょう。


 僕は兜を外して、顔を外気に(さら)しました。

 ふぅ。

 エルフ特有の長い耳が解放されて、気持ち良いですね。


「あらあら。やっぱり可愛らしいお顔ねぇ……」


「えと。僕はこの通り兜を被っていましたけど、何故そう思われましたか?」


「うふふ、ナイショ。

 女にはいろんな秘密があるのぉ……」


「はあ、そうですか」


 教えてくれませんか……。

 まぁ、魔法なんかがある世界です。

 少しくらい不思議なことがあっても、おかしくはないです。

 ……ないですよね?


「それよりも、助けてくれてありがとう。

 もう駄目かと思ったわぁ……」


 ……なんというか、こちらの美女さんは、しゃべり方や仕草が独特というか、いちいちエロいです。

 今も、お礼を言いながら嘆息したのですが、その漏れた吐息が……。

 背中がゾクゾクしますね。


 薄紅色のゆるふわな髪は腰の辺りまであり、根本辺りは色が濃いのですが、毛先に向かって段々と色が薄くなる様子は、桜の花びらのようです。

 その長い髪が目にかかるため、頻繁に掻き上げていますが、それがまた色気に溢れていて……。

 その度に見え隠れするのは、若干タレた目尻と泣きボクロがセクシーです。

 高い鼻梁とぽってりとした唇と相俟って、マジにエロいおねーさんという感じがしました。


 背も高く、ボンキュボンのスタイルは抜群です。

 その肢体を豪奢なドレスがますます引き立たせ、こんな昼間に会うよりは、夜中の薄暗い灯りの元で出会いたかったですね。


 うん。

 こんな美女さんを助けることができて、それだけで良かったと思えました。


「ぴゅぴゅー!」


 ん、マシロ、どうしました?


「シータ、ちょっと良い?」


 ああ、ヴィッキーさん、何かありました?

 馬車の後ろからヴィッキーさんがやって来ました。

 1人生き残った護衛の人と話していたようですけど、トラブル?


「いや、そうではなくて……うん? 誰かと話していたの?」


 ちょうど馬車を挟んでいたので、ヴィッキーさんは美女さんには気付かなかったのですね。

 む?

 そういえば、名前を聞いてなかった。


「あらあら。やっぱり、ヴィッキーちゃんだったのねぇ……。

 こんなところで会えるなんて、思ってもみなかったから、ビックリしたわぁ……」


「ぇ?」


 僕の横にやって来たヴィッキーさんは、美女さんの声を聞いて、その顔を二度見しました。

 ……初めてかも。本当に二度見ってする人がいるんですね。


「え? うそ……? 叔母様……ですか?」


 は?

 オバサマ? 叔母様?

 えっと……御親戚ですか?


 ヴィッキーさんの呆然とした呟きに、しかし、美女さんはニコリと微笑むと、そのままヴィッキーさんの顔面を鷲掴みました。

 はい、アイアンクローですね。

 ……痛そう。


「イヤだわぁ……ヴィクトリアちゃんってば。

 わたしのことは、お姉ちゃんって呼んでって、いつも言っているじゃない……。

 叔母だなんてそんな連れない呼び方、イヤよぉ……。

 ヴィクトリアちゃんのおしめも変えてあげるほど、お世話してあげたのにぃ……」


 ギリギリギリ、と恐ろしいほどの力が入っているのがわかります。

 それなのに、美女さんは微笑んだまま。

 ちょーオソロシイですよ。


「痛いイタイ……イタタタタ。

 離して、離してください!

 わかりました、お姉様。

 お願いですから、離してください、お姉様!」


「うーん……。お姉ちゃんの方が良いんだけどぉ……まぁ、ヴィクトリアちゃんの立場もあるから、それでガマンするわぁ……」


 ヴィッキーさんの涙ながらの懇願に、美女さんは不服ながら、指を外します。

 ……うわぁ、顔に指の痕が残ってる。

 どれだけの力が籠められていたの?


「ぐす……」


 ……なんか可哀想なので、回復魔法を使いましょう。


──『ヒーリング』──


 このくらい……かな?

 よし。

 コントはそれくらいにして、話を聞かせてくださいな。


「あらあら。

 ごめんなさいねぇ……。

 久し振りに会ったから、ついはしゃいじゃったの……」


 そう言って肩を竦める美女さんですけど、ついはしゃいじゃった、で身内にアイアンクローを仕掛けるのですか?

 いや、まぁ、良いですけど。


「あらぁ……ごめんなさい。

 名乗るのが遅れたわねぇ……。

 わたしは、アナスタシア・エマーソン。

 ここにいる、ヴィクトリアの父親の妹なの。

 よろしくねぇ……」


 ニコリと微笑むと、カーテシー(で良いのでしたっけ?)で挨拶をしてくれました。

 しかし、父親の妹……ですか。叔母のことですよね?

 ……そんなに叔母さん、と呼ばれたくないのかな?

 まぁ、見た目はスゴく若いので、その気持ちはわからないわけではないですけども……。


「あらあら、見た目だけじゃなくて、実際に若いのよぉ……。

 まだ、23なんだからぁ……」


 うわぁ。

 僕の心を読みましたか?

 ご、ごめんなさい!


「いえ、叔母……じゃなくて、お姉様。

 世間一般では、もう年増……」


 何かを言いかけたヴィッキーさんの口を、僕は人生で最速といっても過言ではないほどの速度で塞ぎました。

 だって、アナスタシアさんの目からハイライトが消えかけているんですもの。

 スゲー怖いです。


(そこまでです、ヴィッキーさん。

 口は災いの元と言いますよ)


 コクコク、と頷くヴィッキーさんから、手を離しました。


「まぁ、良いわ。

 ……次はないわよ」


 語尾を伸ばす口調ではなくなったアナスタシアさんのマジな警告に、ヴィッキーさんはコクコクコクコク頷く。

 ……それしかできないオモチャみたいになってしまった。

 しばらく、放っておきましょう。


「えーと。

 申し訳ありません、名乗り遅れました。

 自分は、シータと申します。

 ヴィッキーさんには、大変お世話になっています」


 まだ数日だけですけど、それは言うまい。


「それと、この子はマシロです」


「ぴゅぴゅぴゅっー!」


「あらあら。

 これはご丁寧に。

 それから、改めて。助けてくれて、ありがとうございます。

 シータちゃんに、マシロちゃんね。

 よろしくねぇ」


 シータちゃん……。

 うん、まぁ、良いか……。


 アナスタシアさんがマシロの頭を撫でているのを見ていると、護衛の人が近付いてきました。


「アナスタシア様。

 死んでしまった者たちの埋葬は済みました。

 こちらが彼らのカードです」


 そう言うと、彼はアナスタシアさんに数枚のカードを渡しました。

 ……?

 ああ、ギルドカードって言うのでしたっけ?

 確か、身分証になるんだったか。


「そう……ありがとう。

 これはわたしが預かります」


「はっ!」


 護衛の人はビシッと敬礼すると、クルリと僕らの方に身体を向けて、頭を下げました。


「それから、あなたたちのお陰で助かった。

 本当にありがとう!」


「いえ。

 ……もう少し早ければ、他の方々も助かったかもしれないと思うと、その……」


「いや。彼らも仕事だった。こうなる覚悟はできていたんだ。

 気にしないでほしい」


「そうよぉ……。

 こういう言い方はしたくないけど、わたしが無事に生きているのぉ……。

 それができたのは、彼らがいたから。

 これは名誉なこと。

 あなたが気に病むと、彼らのその名誉まで汚されてしまうわぁ……。

 だから、あなたは胸を張っていてちょうだい。

 そうしてくれたら、彼らも救われるのだからぁ……」


 むう。

 そんな風に言われてしまうと……。


「わかりました。

 彼らがいたから、僕らは間に合った。

 だから、アナスタシアさんが助かった。

 そういうことですね」


「はい。よくできましたぁ……」


 わあっ!?

 急に何か柔らかい感触が顔面を襲いました。

 ふわぁ……。もしかして、抱き締められていますか?

 僕よりもアナスタシアさんの方が身長が高い(踵の高い靴のせいでもある)ので、僕の頭は彼女のお胸さまに包まれてしまっています。


 フワフワで最高の感触が……ここは天国ですか?

 ……ただ、呼吸ができませんけどね!


「……お姉様。

 そのままでは、シータは呼吸ができずに死んでしまいますよ……」


「あらあら、それは困るわねぇ」


 ヴィッキーさんに止められたアナスタシアさんはそう言って、艶然と微笑みながら、僕の頭を離してくれました。

 ……残念とか、思ってませんからね。


「それよりも……アナスタシア様。

 報告があります」


 空気を読んで黙っていた護衛の人が、話し掛けてきました。

 それにヴィッキーさんも思い出したように、僕に言います。


「そうだった!

 シータ、聞いてほしいの」


 はぁ、なんでしょう?


「あたしたちが倒したあのワーウルフ。

 ワーウルフではなかったの!」


 はい?






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