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少し小高い丘の上に出ると、景色が一望できました。
そこからなら、『マップ』に反応があった場所が見えます。
はたして何が起きていますかね……?
んーっと、目を凝らして見ると街道(だと思う)があり、『マップ』で方角を確認すると、東西に延びています。
そこの街道に、何かに襲われている馬車がありました。
……遠くて、詳しくはわかりませんけど。
「ヴィッキーさん、どうしますか?」
ここは、ベテラン(だと思います)のヴィッキーさんに聞いてみましょう。
「……そうね。とりあえず、近付いてみるわ。
何がどうなっているのか、確認する必要があるし」
ふむ。
何が何でも助けよう、というわけではないのですね。
「ええ。
あの馬車に乗っている人たちが、魔物と戦っているだけ、という可能性もあるわ。
その場合、獲物を横取りした、と難癖を付けられることになる。
それは避けたいわね」
……なるほど。
一概には言えないわけだ。
「そういうこと。
さあ、行きましょう。
本当に魔物に襲われてて、ピンチかもしれない。
その場合は、モタモタしていると、間に合わなくなるわよ!」
そう言うや否や、ヴィッキーさんは駆け出しました。
慌てて、僕も追い掛けます。
「ぴゅー!」
ああ、うん。そうだな。
支援魔法を使っておきましょう。
それと、足が速くなる魔法はないかな?
検索、検索っと……。
──『プロテクト』──
──『フィジカルアップ』──
──『シャープエッジ』──
──『スピードアップ』──
──『ストリームコントロール』──
『スピードアップ』の魔法は、その名の通りのようですね。
スピードがアップします。
ただ、そのことで身体の感覚が変になります。
……慣れないとちょっとマズイかもですね。
『ストリームコントロール』は、気流を操作するものです。
なかなかの速度で走っているので、風圧が凄くてマシロが辛そうなので、それを何とかしています。
副次的に、風の抵抗も無くなるので、早く移動できていますね。
僕が支援魔法を使ったことに気付いたヴィッキーさんは、チラリとこちらを見て、親指を立てて、グッジョブポーズをしました。
……誉められたのかな?
どうでも良いけど、そういうポーズはあるんですね。
それとも、全然違う意味だったりして。
……尤も、そうだったらヴィッキーさんも口に出して、そう言うでしょうけど。
見る見るうちに、現場が近付いていきます。
うん。
どうやら、最初に思った通り、襲撃されていたようです。
馬車に繋がれていた馬に矢が刺さり、怪我をして動けなくなっていました。
その前に、護衛であろう人たちが戦っています。
襲っているのは、毛むくじゃらの魔物です。
顔は狼のようですけど、二足歩行で、しかも服を着て、挙げ句延びていて果てには武器を所有していました。
えっと……人狼と言うのでしたっけ?
でも、満月じゃないですよ。
今は、真っ昼間ですよ。
まぁ、ファンタジーなんだし、そんなのがいても良いのですけど。
馬車の護衛が2人しかいないのに対して、ワーウルフ(?)は5人(5匹? 5頭?)います──あ、今、護衛が1人やられました。
これは、ピンチかも。
「助けるわよ!」
「ぴゅっぴゅー!」
ヴィッキーさんはさらに加速して、ワーウルフ(?)の集団の中に飛び込みました。
僕は少し離れた場所で立ち止まり、ワーウルフ(?)に阻害魔法を仕掛けます。
──『バインド』──
魔力の帯のようなもので、対象の身体を拘束する魔法です。
1頭(でも構わないか)が動けなくなりました。
……あまり効き目が良くない。
残りの4頭をヴィッキーさんと、護衛の1人が相手します。
数の上ではまだ不利ですけど、ヴィッキーさんには支援魔法が掛かっているので、1人で3頭を受け持ちました。
倒せなくても、足止めさせられれば十分です。
その間に僕は、回復魔法に使いましょう。
護衛の人は軽い怪我を負っていますけど、それよりも疲労が酷いみたいですね。
それを何とかすれば、ワーウルフ(?)の1頭くらい倒せそうです。
──『キュアオール』──
傷を治すのはもちろん、状態異常や疲労回復効果もありますこの魔法は、かなり上位のものなので、相応に難しいらしいのですけど、チートなマシロにはなんてことない魔法なのでした。
しかし、そんなマシロでも、残念ながら死んだ人は癒せません。
倒れている彼らは、あとで埋葬しましょう。
おっと。
今は、戦闘に集中しなければ。
怪我が治り、疲れも取れた護衛の人は、僕の方に会釈をしてから、ワーウルフ(?)と戦い始めました。
たぶん、彼1人でもあのワーウルフ(?)を倒せそうですが、手早く片して、ヴィッキーさんの方に向かいましょう。
ただ、僕が下手に手を出して邪魔をすることになったらいけないので、ワーウルフ(?)に嫌がらせを仕掛けます。
動きが鈍ったところで、仕留めてもらいたいと思います。
──『スロウダウン』──
『スピードアップ』の逆バージョンの魔法で、減速させるものです。
どうやら、成功率はあまり良くないのですけど、今回はすぐに効いたようです。
あからさまに、ワーウルフ(?)の動きが遅くなりました。
そのことに狼狽して、足が止まります。
そこを護衛の人は、ズバッと切り捨て、ワーウルフ(?)を倒しました。
その勢いのまま、彼はヴィッキーさんの元に向かいます。
これで、2対3です。
護衛の人が参戦したところで、ワーウルフ(?)たちは一旦距離を取るために、後退しようとしました。
しかし、させません。
──『エキサイト』──
この状態異常魔法は、興奮状態にするものです。
戦闘に冷静さは必要なものだと思います。
だから、その冷静さを失わせましょう。
特に、今は戦闘中なので、この魔法の効き目は抜群のようですね。
興奮状態に陥ったワーウルフ(?)たちは後退せずに、ヴィッキーさんと護衛の人に一心不乱に飛び掛かりました。
連携も何もなく、ただ向かっていくだけです。
逆にヴィッキーさんたちは、冷静にワーウルフ(?)たちを迎撃しました。
簡単にカウンターが決まり、アッサリと倒します。
さて、残りは魔法で拘束されて寝転んでいるワーウルフ(?)のみですね。
これは、僕がやりましょう。
──『マリオネットアーム』──
見えない手に大剣を持たせて、その手を伸ばします。
そしてそのまま、身動きの取れないワーウルフ(?)を斬り殺しました。
よし。
ミッションコンプリートです!
僕は、ヴィッキーさんたちの向かうべく歩きます。
途中、怪我をしている2頭の馬に回復魔法を使いました。
これで大丈夫でしょう。
ぶるる、と馬が僕に顔を寄せてきたので、撫でてあげました。
いやー、馬って大きいけど、可愛いなあ。
「ぴゅ!」
あ、もちろん、マシロはもっとカワイイけどね!
「ぴゅー!」
もふもふとマシロと馬を撫でていると、馬車の中から動く気配がありました。
忘れてましたけど、考えてみれば、当然馬車に人が乗っているはずですよね。
それを護るために、護衛の人たちは奮戦していたわけですし。
「あらぁ、ずいぶんと可愛らしい子に助けられたのねぇ……」
そう言って馬車から降りてきたのは、豪奢なドレスを着た若い女性でした。




