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グレイウルフの存在を確認してから、少しして僕たちは森の中の開けた場所に移動しました。
ここなら少しくらい暴れても、森を傷付けることはなさそうです。
「シータ。
あなたはそこの樹を背にして戦って。
それで、あたしの支援を任せるわ。
もし、あたしが怪我したら、最優先で回復してちょうだい。
余裕があったら、群れの奥にいるグレイウルフに攻撃してくれて構わないから」
「わかりました」
「ぴゅ?」
「マシロちゃんは、シータの側にいてね」
「ぴゅー!」
む?
ヴィッキーさんの指示に返事をしていると、グレイウルフがかなり近付いてきました。
完全に包囲されているわけではないのですけど、半包囲はされているから、相手の方が優位っぽいです。
15頭もいると、なかなかのプレッシャーですね。
そろそろ、支援魔法を使いますか。
何が良いかな?
──『プロテクト』──
──『フィジカルアップ』──
──『シャープエッジ』──
このくらいで十分でしょうか?
『プロテクト』は防御力アップ。
『フィジカルアップ』は身体能力の向上。これは魔法なので、魔術によるものと併用ができます。
『シャープエッジ』は武器、それも刃の切れ味を上げるものです。
あ、それと……。
──『ライティング』──
──『マリオネットアーム』──
──『マギマテリアライズアームズ』──
──『フロートシールド』──
これらも使っておきましょう。
光の球をいくつか作り、明かりにします。
その光球と、僕の大剣、魔力で作られた盾は、空中を舞い、少し離れた場所にいるヴィッキーさんの側まで行きました。
「ちょっと!
盾はともかく、剣はあたしの近くに来ないでよ!」
……怒られました。
僕はさらに手を伸ばすイメージで、大剣をさらに遠くに進めます。
そこで練習のつもりで、ブンブン振り回しました。
うーん?
やっぱり距離があるから、遠近感が掴みづらいなぁ……。
これ、当てられるか?
突く方が良いかな?
「無理して当てなくても良いわ。
牽制になるだけでも、かなり違うから」
んー。
ヴィッキーさんの言う通りではあるけど……。
俯瞰で見られると良いけど、そんな魔法ないですか?
……残念、探す時間はもうないですね。
「ヴィッキーさん、来ました!」
「わかったわ!」
木々の間から、グレイウルフが数頭ずつ姿を見せました。
残りもあと僅かでやって来ることでしょう。
さあ、これから初めての集団戦闘の始まりです。
緊張はしていますが、身体が動けなくなるほどではありません。
重厚な全身鎧を身に纏ったからでしょうか?
頼もしい味方がいるからでしょうか?
なんにせよ……そう簡単にやられはしませんよ!
「ぴゅー!」
マシロもヤル気十分ですからね!
名前 :シータ
種族 :ハイエルフ
レベル:2(+1)
生命力:110(+10)
魔力 :0
精神 :14(+2)
敏捷 :14(+1)
幸運 :5(+1)
攻撃力:8(+1)
防御力:6(+1)
15頭のグレイウルフとの戦闘が終わりました。
もちろん、僕たちの勝利です。
その瞬間、僕の目の前にステータス画面が出てきて、レベルアップを知らせてきました。
何事かと思いましたが、もういちいち驚きません。
この異世界はこんなのばかりなんだ、と諦めましたから。
あーはいはい、レベルアップね。
ステータスが上がるんだ。
生命力は10P、その他はそれぞれ1P上昇する、と。
ほほう……それとは別に、任意に1P上げられる?
むぅ、ならば数字を揃えますか。
精神を上昇させましょう。
次は、防御力を上げましょうかね?
「ふぅ……意外に楽勝だったわね」
「ぴゅっぴゅぴゅっー!」
ヴィッキーさんとマシロが勝利を喜んでいますけど、楽勝は言い過ぎではないですかね?
「そんなことないわよ。
ほとんど無傷だったし。
10頭以上のグレイウルフを相手にしてこれなら、楽勝って言ってもおかしくないわ」
へー。そんなもんですか。
「そんなもんよ。
それだけ群れっていうのは、怖いのよ」
ふむ。
それもそうか。
数の暴力ってありますからね。
だから、でしょうか?
ヴィッキーさんは、グレイウルフを殺すことよりも、脚とかを狙って傷を付けて、相手の動きを鈍らせることを優先させていましたね。
そうして相手の連携させる余地をなくす、という作戦みたいでした。
うん。
これは勉強にしてなりますね。
僕は、もう少し阻害魔法などのレパートリーを増やしましょう。
状態異常魔法は、成功率があまり良くなかったですし。
恐らくですが、戦闘中の興奮とかが何らかの影響を及ぼしている可能性がありそうです──もしくは、種族であるとか。
いずれにせよ、魔法に関してもっと学ばないといけないですね。
「どうかしたの?」
じっと考え込んでいたら、ヴィッキーさんに声をかけられました。
……とと。
同行している人がいるのですから、黙り込んではいけません。
「すみません、ちょっと反省してました」
「そうなの? そんなに悪くなかったわよ。
シータの魔術があったから勝てた、と言っても良いくらいだわ」
うー。
そんな風に言われると、照れますね。
まぁ、魔法を使っているのは実際にはマシロだから、僕が誉められるのは違うのですけど。
「ぴゅぴゅー!」
勝利のダンスを踊っているマシロの頭を撫でます。
もふもふ。
本日の功労者ですからね。
「マシロちゃんはカワイイわねー」
そうでしょう、そうでしょう!
「……食事中以外はね」
……それはノーコメントで。
「ぴゅ?」
「ううん、何でもないわよ。
さ、グレイウルフの死骸を回収して、ここを移動しよう。
血の臭いに釣られて、他の魔物が来ちゃうから」
「ああ、そうですね……うん、まだ大丈夫そうです」
『マップ』には反応してありませんけど、ずっとそうだとも限りませんからね。
グレイウルフの回収は、僕がやりましょう。
僕の〈道具〉になら、大きな物でも入りますから。
『アイテムポーチ』だと解体の必要がありそうですけど、そんな悠長なことはしてられないのです。
そんなわけで、僕はぽんぽんとグレイウルフの死骸を〈道具〉に収納していきました。
……未だに、魔物の死体しか入っていないです。
もっと、外のものが欲しいですよ。
「じゃ、行きましょうか。
そのあとに、食事にしよう。
……もう、お腹ペコペコ」
「ぴゅ〜」
2人(正確には、1人と1匹)の情けない声が聞こえます。
まぁ、僕もお腹が空いているので、その気持ちはわかりますけど。
だから、ですかね?
そのあとに続くヴィッキーさんの言葉を理解するのに、若干の時間が必要になりました。
「あ!
久し振りに、レベルが上がった!
よし、もう少しでクラスチェンジね!」
……え?




