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「では、話を続けましょう。
ところで、君は小説を読みますか?
特に、所謂ファンタジー小説の類いは?」
「えと、自分ではほとんど買いませんけど、図書館で新刊として購入されていると、借りて読むことはあります。
ついでに言うと、RPGは多少やります」
そうなんです。
本は、買うと場所をとるから買いません。
最近は電子書籍というのがありますけど、僕は携帯電話などを持っていませんから、購入不可ですね。
そんなわけで、本を読むなら基本的に図書館で借りて、ということになります。
ファンタジー小説は、YAのコーナーに充実していますので、借りるのに事欠きません。
特に最近は、WEB小説というものが書籍化されたのが増えて、図書館でも新刊として購入されているので、ちょこちょこ借りています。
だから……でしょうか。
こういう状況なら、ゲームのことも聞いてくるのでは? と思って、先に言ってみました。
こういうのは、テンプレ……って言うのでしたっけ?
案の定、管理人さんはニヤリ、と笑ってくれます。
「話が早くて、助かります。
……それでは、エルフについてはわかりますよね」
「エルフ……ですか?
なんとなく、ですけど、知識としてはあります」
森に住んでいて、弓と魔法が得意で、老化が遅く長寿で、容姿端麗で華奢な身体付きで、プライドが高く排他的……とか。
「たぶん、一番最初に知ったのは、とある小説の、ディ……ディー……なんとかさん、だった、と思うのですが、名前を失念しました」
何でしたっけ? もうかなり前に読んだので、ド忘れしました。いやはや、僕も年ですね。
「いや、わかりますよ。大丈夫です。
うん。
そのくらいで十分です」
僕の回答に、満足そうに頷く管理人さん。
赤点は回避されました。
良かったです。
「そのエルフなのですが、私の管理している世界に暮らしています。大体、イメージ通りの種族なのですが……。
あるとき、一人のエルフが産まれました」
それまで、柔和だった管理人さんの表情が変わって、真剣なものになりました。
ここからが、本題……ということになりますね。
僕も姿勢を正して、聞きましょう。
「両親もエルフらしいエルフで、先に産まれていた彼らの子供もやはりエルフらしいエルフです。
だから、産まれてきた赤子もそうだろう、と期待されていました。
ところが……」
その言い方だと、違ったのでしょうか。
「その赤子には、魔力が感じられなかったのです。
──ああ、魔力というのは、魔術を使うための燃料だと思ってください」
RPGならMPですね、わかります。
「しかも、産まれてきたその赤子は……何と言うか、その、可愛くなかったようで……」
……?
赤ん坊なら、そういうものでは?
「いや、そこはエルフなので、産まれて間もなくとも、可愛いのですよ。
ほら、よく『玉のような赤ん坊』というでしょう?
あれのお手本のような感じです」
へー。
産まれてきた瞬間から、可愛いのですか……。
人生……ではなく、エルフ生勝ち組ですね。
いや、皆がそうなら、それが普通なのですかね、もしかして?
「成長すれば変わるかもしれない……そう思われて、その赤子──いちいち面倒なので、イー君と仮称します──はスクスクと育ちましたが……変わらず、イー君は、その、可愛くならなかったのです」
イー君というのは、エルフのEでしょうか?
『君』だから、男の子ですか?
なんか、戯言ばかり言いそうですね。
それと、『可愛くない』という言い回しは、通常、性格を表す場合に言いますけど……まぁ、管理人さんもわかっていて、敢えてそう表現したのでしょう。
しかし、そのあとの話の展開は、多少想像がつきます。
恐らく……。
「そう。苛め……です」
「やっぱり……。
でも、可愛くない、と言っても、それはエルフの中だけなのではないでしょうか?
管理人さんの評価はどうなのです?」
「確かに、エルフの中にいると目立つかもね──悪い方で。
でも、一般的なヒトの中だと……まずまずなんだ」
まずまず、ですか。
どうも、管理人さんはあまり悪口を言いそうなタイプではないので、今の言い方もだいぶ苦心していた印象です。
もしかしたら、顔面偏差値は相当、下の方なのかも……?
「いや、問題はそこではなく……それも無視は出来ないけど。
とにかく、何が良くないって、イー君はエルフなのに魔術が使えない、ということなんです」
ふむ。
確かに、エルフといえば魔法。
そんなイメージはあります。
「そのことでイー君は、産まれてからずっと苦労してきました。これは口で説明しても、エルフではない我々にはわからないので想像するしかないですね。
敢えて言うなら……スクールカーストの最底辺にずっといた。
そんな感じでしょう」
それも、生まれつきのハンディによって、ですか。
イー君はしたら、たまったものではありませんね。
「成人したイー君は、家を追い出されます。
そして、森の集落の端にある掘っ立て小屋に住まわされ、木こりの仕事が与えられました」
仕事があるなら良い、と現代日本に住む僕なら考えるけど。
話の展開からして、そうでもないのでしょうね、きっと。
「エルフは通常、間伐する際に魔術で木を伐ります。
しかし、イー君は魔術が使えないので、斧で伐るしかありません。
時間がかかり、そのことで周囲からは無能扱いをされます。
また、斧を振るうのに筋力が必要ですので、エルフらしからぬ体型になってしまって、それがさらに苛めを助長させ」
ムキムキのマッチョになったのですか……。
「そして、イー君に与えられる賃金は最低限となり、食うにも困る。
狩りをするにも、魔術が出来ないので、一苦労です」
「エルフなんだし、弓とか……?」
「ああ、言い忘れました。
エルフが弓が得意というのは、魔術で補っているからです。
つまり……」
……魔術の使えないイー君は、そこでも苦労する、と。
「そもそも、森の奥深くで暮らしますからね、彼らは。
魔術のようなものがないと、快適には暮らせません。
日本人に例えると、周囲が電化製品を使っている最中、一人だけ何もなくサバイバルをしろ、と言われているようなものです」
んー。
それも何の知識もなく、ですか……。
僕には、とても出来ません。
「さて。
そんな虐げられているイー君ですが……更なる絶望が襲い掛かります」