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ガチャガチャと全身鎧を身に付けました。
これには、『リペア』と『アジャスト』、『エアコンディション』、『クリーン』の4つの刻印魔法が刻まれています。
『リペア』は、傷が付いたり凹んだりしたら勝手に直るように。
『アジャスト』はサイズがちょうど良くなるように。僕の身体、そんなに大きくないですから。
『エアコンディション』は優れものです。簡単に言うと、クーラー&ヒーターです。暑いときには冷たく、寒いときには暖かくなるので、あら不思議、全身鎧なのに快適に。
『クリーン』は言わずもがな、清潔になるんですよ。身体を動かせば汗をかきますしね。女性に言われたくない台詞ナンバーワンは「臭い」なのですから、気を付けたい所存です。
以上の4点を全身鎧に刻印魔法によって、付与しました。
できたら、もっと硬く、軽くしたかったですけど、無理なので諦めます。
これは、次の機会に期待したいと思っています。
ガバッと兜をかぶれば、完了です。
……うーん。
やっぱり、視界はあまり良くないですね。
まぁ、ずんずんと前衛に位置するつもりはさほどないので、構わないと言えば構わないけど……。
攻撃魔法が使えれば、完全に後衛にいるつもりですが、ない以上仕方ありません。
なるべく、阻害魔法か状態異状魔法で相手を無力化してから、仕留めることを心掛けたいと思います。
大剣を背負って、と。
……うん、抜けません。
ゲームのキャラクターは背負った剣を簡単に抜き放っていますが、どうやっているんでしょうね?
「……なにやっているの?」
「抜けない……」
「ぴゅー……」
四苦八苦していると、ヴィッキーさんに呆れられました。
まぁ、端から見たら、不思議な踊りをしているようにしか見えないかもですね……。
むう……。
これは、自力で抜くのは諦めましょう。
いつものように、ここは……助けて、マシロえもん!
「ぴゅぴゅっ!」
──『マリオネットアーム』──
シャラン、と大剣が鞘から抜かれました。
そして、自在に動き回ります。
ブンブンと音を立てて振ってみますが、それほど違和感はないですね。
「……え?
剣が独りでに動いている?」
そうなんです。
この魔法は、使い手の思考に合わせて、遠隔操作で武器を操ることができるのです。
僕は混乱しそうなので、見えない手を使って大剣を振っている、というイメージで使用しているわけですが。
便宜上、手といっていますが、実際の手とは違うので、関節などのことを考えず、かなり自由に振り回すことができるのが、有利なところです。
似たような魔法で、『フロートシールド』があります。
これも、見えない手を使って盾を操ることができるのですが、『マリオネットアーム』との違いは、防御魔法か、支援魔法か、です。
具体的には、『フロートシールド』は術者が自身で盾を操り、敵の攻撃から防御する魔法。
『マリオネットアーム』は、魔法を対象に使うことで、その対象が武器を操り敵を攻撃する、支援魔法なのです。
僕らの場合、実際に魔法を使うのはマシロです。
だから、『フロートシールド』はマシロが自身に魔法を使い、マシロが盾を操るのですが、『マリオネットアーム』はマシロが魔法を僕に使い、僕が武器を操ることになるのです。
攻撃と防御を分担できるので、とても助かる魔法です。
欠点は、『マリオネットアーム』は僕が武器を操るのですが、僕は剣の扱い方を知らないので、ただただ振り回すことしかできないことと、そのために狭い場所では使いにくいことがあげられます。
まぁ、突いたりするなど、工夫すればなんとかなるかもしれませんけど、慣れが必要になりそうです。
「ふーん。
そんな魔術があるのね……。
あたしが前に出るときに、間違って当てないでよ?」
「大丈夫です。当たったらすぐに回復しますから」
「ぴゅ」
「ありがと……って、違うわよ!
当てないでって言ってるの!」
冗談ですよ。
そんなことを言っている間も、僕は身体を動かして全身鎧を慣らしていきます。
相応に重い鎧ですが、常時発動の魔術『身体強化』のお陰か、それなりに動けていました。
重さによる疲労は、同様に『自動治癒』ですぐに治りますし。
戦闘になったら、支援魔法をかければ十分かな、と思われます。
「そろそろ行きましょうか?」
「ぴゅぴゅー」
マシロが鎧の上からですが、僕の首に巻き付きます。
……もふもふが感じられず、かなり悲しいです。
「森を抜けるのに、ちょっと時間がかかるわ。
油断しないでね?」
「はい」
「ぴゅっ!」
マシロの返事に、ヴィッキーさんは相好を崩しますが、すぐにその表情を引き締めて、歩き始めます。
僕はマシロと顔を見合わせて、気合いを入れるように頷き、あとに続くのでした。
ときどき休憩を挟みながら、僕たちは森の中を歩いていきます。
当然、魔物との戦闘は避けることにしていました。
索敵はヴィッキーさんは苦手のようなので、僕の担当です。
魔法を駆使して、サクサクと進みました。
そろそろ午後6時です。
元々暗い森の中でしたが、日が暮れるとなお一層暗く感じられます。
「そろそろ夕食にしようか?」
ヴィッキーさんが立ち止まり、そう聞いてきました。
「ぴゅっ!」
マシロはお腹が空いたのか、すぐに返答します。
「そうですね……。
あ、でも、僕は食べ物持ってないです」
まぁ、まだ水のみでも我慢できますが。
しかし、ヴィッキーさんは首を横に振り、
「あたしのを分けるわ。
この先、食べないでいたら保たないよ」
「すみません。ありがとうございます……?」
ん?
今、チラッと『マップ』に反応が……?
見間違いかな?
「どうかしたの……?」
「ぴゅ?」
「……しっ」
いや、見間違いなんかじゃない……。
徐々に近付いて来ている。
しかも、これは……?
「……囲まれています」
「……何に? 数は?」
種類はわかりませんが、10……15か。反応があります。
半包囲されていることから、どうやら少しずつ近付いていたようです。
「すみません、気付きませんでした」
「ううん。今の段階で気付けたのだから、十分よ。
このやり方は、グレイウルフね。
あのとき遭遇したのは、斥候だったのかも」
あのとき、というのは……あの貴族の男がいたときか。
そういえば、何かの粉みたいなのをぶつけて、追い返しただけでしたね。
あれ……やっぱり狼だったんだ……。
「もう! あいつが倒していれば、こんなことにならなかったのに!
……群れのグレイウルフからは逃げられないと思うわ。
既に捕捉されているし、戦うしかない」
覚悟を決めたような表情で、ヴィッキーさんは言いました。
そして周囲を見渡し、歩いていきます。
「え? どうしたんですか?」
戦うんじゃないんですか?
「ここは場所が悪い。
あなたが剣を振り回しづらいし、あたしも動きにくいから。
もうちょっと、開けたところに向かう」
ああ、なるほど。
「ぴゅー……」
マシロが心細そうな声を出しました。
大丈夫というように僕はマシロの頭を撫でますが、その僕自身不安があるので、それが伝わってしまったみたいです。
さすがに魔物の数が多いと思います。
狼は群れで狩りをするのですし、この状況はちょっとマズイですね。
「大丈夫よ」
そんな僕とマシロの不安を吹き飛ばすように、明るい声でヴィッキーさんは言います。
「シータ。あなたはあまり動かないで、樹を背にして戦って。
ああ、あたしに支援魔術を使うのを忘れないでね。
それと、その大剣を振るなら、あたしから離れた場所にして。できたら、離れた場所にいるグレイウルフを狙えるなら、そうして欲しい」
話しながらヴィッキーさんは、クルリと振り返って、
「とにかく、慌てないで。
焦らずにしていれば、絶対に勝てるから!」
そう言って、ニコリと微笑んだのでした。




