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「え? 鎧を身に付けるって、なんで?」
「ぴゅぴゅっ?」
ヴィッキーさんとマシロは首を傾げますが、そんなにおかしなことは言ってませんよ?
一応、理由はあるのです。
「剣を背負って、全身鎧を纏う。
これって、ロマンじゃないですか!」
男の子の好きな英雄譚って、大抵そうじゃありません?
「はぁ……」
「ぴゅう……」
僕の言葉に、ヴィッキーさんとマシロは揃って、溜め息を吐きました。
なんですか、その反応は?
まぁ、冗談半分なんですけどね。
「半分は本気なのね?」
こほん、と目を逸らして咳払い。
「えと、僕はエルフということで見た目からして目立つから、それを隠すのが1つ。
それと魔術を使うのだけど、鎧を纏っていることで初見では見破られないようにすることが1つ。
ついでに、防御力のためなのが1つ。
以上ですね」
3番目のは特に必要ないけど、1番目と2番目が重要です。
まぁ、エルフなのを誤魔化すためなら、帽子をかぶるとかでも良いのだけど、それだけだと戦闘で頭を怪我しやすいかな、と思ったのだ。
いくら『自動治癒』があるからといっても、頭部の怪我は怖いのです。
それなら兜にすれば安心だ(過信はしないけど)し、いっそ全身鎧にしちゃえば良いじゃない、というのが頭に閃いたのでした。
「うーん?
それなら、理解できる……かしら?」
もちろん、何も起こらないかもしれない。
でも、起きるかもしれないのです。
ならば、何らかの対策はしておくべきでしょう。
「姿を隠すだけでトラブルを回避できるなら、やった方が良いかな、と思います。
もちろん、それだけが目的ではないですけど」
大剣を背負った全身鎧。
絶対に剣士だと思うだろう。
けど、実は遠距離から魔法を使います、というのは、フェイントにならないかな?
顔を隠すために全身鎧を纏ってトラブルを避け、万が一トラブルが起きても、初見では魔法使いだとは見抜けまい。
その隙に、動きを魔法で封じて、逃げるのです。
ふふふ。完璧ですね。
己れの閃きが恐ろしいですよ。
「ぴゅぴゅぴゅっー!」
マシロよ、もっと誉めるのです、ふはははは!
「いや、まぁ、そんなに言うなら、好きにしたら?
でも、金属の鎧は重いわよ。ましてや、全身鎧だなんて……」
それに、暑いし寒いし臭いしね、とヴィッキーさんは言いました。
そうですね。
その問題があります。
全身鎧は身体全体を覆うため、自身の体温が籠ります。それで汗をかき、そのときに汗が鎧の中に籠り、汗臭くなるのです。
また、周囲の環境の影響をモロに受けます。
太陽の熱で金属はすぐに熱くなり、冬の冷気で金属は冷たくなるだけでなく、それが肌に付くと剥がせなくなるのです。
あと、とにかく重い。
頑丈なため、防御力なら文句はないのだけれど、それ以外では使い勝手の良くない、というのが、全身鎧の評価です。
でも、これらの問題を解決する術が、僕にはあります。
そう。
魔法です。
付与魔法、という魔法があります。
これは、あらかじめ対象に使うことで、継続して効果を発揮する、というものです。
継続して、というのがポイントですね。
1回使えば、時間が来るまで魔法の効果が続きます(その時間は、魔法の種類と込められた魔力などによって変わります)から、戦闘中にいちいち魔法を使わなくても済むのですよ。
「ああ、魔術を使うのね。
そうか、そもそもあの男が、なんでこんな森の中に全身鎧を身に付けていられたのかって……魔術が付与されていたのね!」
たぶん、そうなのでしょう。
魔術は魔法よりも使い勝手が悪いそうなので、この鎧にどこまでの効果があったのかはわかりませんが。
少なくとも、それなりに動けるようにはなっていたようですね。
ヴィッキーさんの後を追うことができる程度には。
「大金が必要だから普通はしないけど……あいつなら貴族のボンボンだし、それくらいのことはしそうね」
ヴィッキーさんによると、魔術の付与は効果が切れる度にかけ直す必要があるため、お金がその都度かかる、とのこと。
お金がある人にしかできないですが、それだけの効果は見込めるので、一流の冒険者はよく利用しているのだそうです。
まぁ、僕は魔法が使える(正確にはマシロが)ので、お金の心配はありませんし、恐らくですが、永続的に効果が発揮するのではないか、と考えています。
何故ならば、使うのは付与魔法だけではないからです。
もう1つ使うのは、刻印魔法といいます。
これはその名の通り、刻印──印を刻むことで魔法の効果を発揮させる魔法です。
利点は、刻むことで効果が永続的に続くことです。
欠点は、1度刻むと変えられなくなることと、延々と効果が発揮することです。
どういうことかというと、例えば、剣に『明かり』の刻印を刻んだとします。
するとその剣は、以後、明かりを灯し続けることになります。
途中で消したり点けたり、といった使い方はできません。
使い方を間違えると、ゴミができてしまいそうですが、有用な魔法であるといえるでしょう。
まぁ、マシロがやるので、間違いなんてないでしょうけど!
「ぴゅっぴゅー!」
任せて、というふうに鳴くマシロ。
カワイイなぁ。
ではでは、早速やりましょう。
全身鎧のパーツがありますけど、刻印は一番大きなパーツ──胸甲に刻めば良いはずです。
けど、その前に。
──『クリーン』──
汚れその他諸々を除去する魔法を使います。
……なんか嫌だったんです。
新品同様にピカピカにしてから、刻印を刻んでいきます。
──『リペア』──
──『アジャスト』──
──『エアコンディション』──
──『クリーン』──
ガリガリと胸甲に刻印が刻まれ──
……む?
この4つまでしかできないようですね。
材質によって変わるみたいです……。
この鎧は鋼なので4つまで、ということなのでしょう。
ファンタジー御用達のミスリルとかだったら、もっといけるかもしれませんね。
硬くして、軽くしたかったけど……仕方ないですね。
「え? できたの?」
「ぴゅー!」
ヴィッキーさんが驚いています。
……けど、これは失敗したかもしれません。
もしかしたら、魔術による付与はもっと時間までかかるものなのかも……?
「実は、これはエルフの秘術なので、できれば黙っていてもらえると……」
「はー、さすがエルフ。
スゴいわ。
了解。これは簡単には人に話せないわ……」
……はふぅ。
良かった、誤魔化せた。
あ、そうだ、口止め料を払おう。
「なんなら、ヴィッキーさんの剣も付与します?
切れ味を良くするとか、壊れにくくするとか……」
「本当!?
是非、お願いするわ!
レイピアだから、ちゃんと使わないと、すぐにダメになっちゃうのよね、これ」
よし。
共犯者ゲットです。
くくく、これで誰にも話せまい。
話してしまえば、今後一切、付与しませんからね!




