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若干の脱線がありましたが、それはさておくことにしまして。
「と、とにかく、助けてくれて……いただいて、ありがとう……ございます」
ふむ。
「話し慣れている口調で、構いませんよ」
変に敬語を使われても、アレですしね。
僕がそう言うと、女性はホッとしたような顔で、
「そう言ってもらえると、助かるわ」
と、言いました。
うん。
取り繕った態度より、自然な笑顔の方が、見ていて良いですからね。
「ぴゅっ!」
マシロも鎌首をもたげて、女性に挨拶をします。
「あれ? マフラーかと思ったら……生き物なのかしら?」
「はい。マシロといいます。種族は……ちょっとわからないですが」
ステータスには載っていたけど、ここは黙っておくことにします。
だって、『神白蛇』って珍しそうなんですもの。
面倒なトラブルになりそうですなので、わからないことにしましょう。
「へー。ふわふわで可愛いわね。
触っても?」
「マシロ、良い?」
「ぴゅー!」
元気良く頷くマシロ。
人懐っこくて、カワイイ。
でも、こんなにカワイイのだから、誘拐とかあるかも?
うむ。
僕が気を付けなければ!
そんなことを考えているうちに、女性はマシロを撫でていました。
双方ともに、気持ち良さそうです。
今、気が付きましたけど、この女性。結構、背が高いですね。
僕より僅かに高いです。
……羨ましい。
「ぴゅっ」
「ふふ。よろしく、マシロちゃん。
あ! ごめんなさい、名乗り忘れてたわ。
あたしは、ヴィッキー。
改めて、よろしくね」
マシロから手を離して、女性──ヴィッキーさんは名乗ると、頭を下げました。
おっと。
そういえば、僕も名乗ってないですね。
「これはご丁寧に。
僕は──」
と、ここで名前のことを忘れていました。
管理人さんには、考えておくように言われてたのに……。
もう、僕は四宮奏汰でなく、イー君でもありません。
そのどちらも、名乗れないのです。
くっ……しまった。
ここで名乗らないとか、怪しまれてしまいますよ。
……仕方ない。
以前に、ゲームで使った名前を流用するしかないですね。
「僕はシータ、といいます。
よろしくお願いいたします」
しのみやかなた、の最初と最後の文字を使ったものです。
……単純で悪かったですね。
すると、突然、目の前にステータス画面が飛び出してきました。
名前 :シータ
種族 :ハイエルフ
年齢 :21
レベル:1
生命力:100
魔力 :0
精神 :12
敏捷 :13
幸運 :4
攻撃力:7
防御力:5
スキル
自動治癒
身体強化
何事!?
……もしかして、名前が決まったからですか?
そういえば、管理人さんも、名前は大事だとか言っていたような……。
「どうかした?」
少し黙っていたからか、ヴィッキーさんが怪訝そうな顔で聞いてきました。
……疑問はありますが、後回しにしましょう。
「いえ、それより、どうしてヴィッキーさんはこんなところにいたのですか?
それと、あの男は……」
「あ! そうだった!」
話を逸らすつもりで、ヴィッキーさんのことを聞こうとしたら、急に彼女は大声を出して、辺りをキョロキョロと何かを探すように見回しました。
「ぴゅっ!?」
マシロもビックリしてますよ。
何かありました?
「あれ、あたしの剣はどこいったかな?
……シータ、知らない?」
剣?
それなら、貴女の後ろにありますが……。
「あったあった」
ヴィッキーさんは自分の剣を拾うと、二、三度振りました。
細身の刀身(レイピアかな?)とはいえ、軽々と扱うのは、さすがですねぇ。
と、感心しながら見ていたら、ヴィッキーさんは拘束されて動けない強姦(未遂)男の元へ向かいます。
そして──一息に心臓に剣を突き刺しました。
男は軽く痙攣し、また動かなくなりました。
恐らく、これから二度と動くことはないだろうと思われます。
え?
「ふう。これで良し、と」
「あ……えと、ヴィッキーさん?」
「ぴゅ……」
躊躇うことなく人を殺害した彼女は、しかし、その表情に変わりはありません。
慣れている?
いえ、そうならなくては生きてこれなかった。
ヴィッキーさんからは、そう思わせる何かがあるように見えます。
そして、それは他人の僕が軽々しく聞いてはならないと思います。
「ごめんなさい。
これは犯罪者だから街に連れていけば、あなたが報奨金を受け取ることができるのだけど……。
あたしはそれが嫌だったから、ここで殺したの。
本当に、ごめんなさい」
「……それは良いですけど。
何か理由があるのですか?」
まぁ、話したくなかったら、それでも構いませんが。
お金は欲しくないとは言いませんが、あの男を連れて行く労力を考えるなら、ここで放置しても良かったのですし。
ヴィッキーさんは少し黙って考えていましたが、一つ頷くと、話し始めました。
「そうね。
シータには聞いてもらいたいわ。
実は、あたしはこの男に以前にも襲われかけたの。
そのときは反撃して、憲兵に突き出したわ」
それを聞いて、僕は思わず顔をしかめてしまいました。
二度目だったのか……。
「ただ、あいつは貴族の一人息子だから、罰金だけ払って、すぐに釈放されたの。
それを知ったあたしは、文句を言ったのだけど……」
まぁ、無駄でしょうね。
この世界の法律は知りませんけど、罰金を払って出てきた以上、問題はないと思います。
だから、罰金というのですし。
「相手は貴族だし、冒険者に過ぎないあたしは、何もできない。
だから、街から離れたのだけど……」
「ここまで追い掛けられた?」
こくりと頷くヴィッキーさん。
「街道を通るとすぐに見付かると思って、森の中に来たけど……。
こんなに簡単に追い付かれるとは、思ってもいなかった。
あんな鎧を身に付けていたけど、冒険者であるあたしに敵うわけないと思って、あたしからあいつに近付いて、文句を言ってやったの」
ふむ。
そこからは、僕も見ていたな。
「今回は運良くあなたに助けられた。
けど、次もそうだとは限らないし、何度もこいつに付き纏われるのは、もうイヤなの。
どうして、あたしの居場所がわかったのかも不明で気持ち悪いし。
だから──」
だから、殺した……か。
んー。
まぁ、わからなくもないですね。
日本でなら、さすがに警察に連れて行くところですが、あいにくここは異世界。
新参者である僕には、何が正しいことかわからないですし、ね。
なら、現地に住む人に判断を任せましょう。
まぁ、面倒なので棚上げにした、とも言えますが……。




