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「もしかしたら、強姦しようとしていますか、あの男は?」
「ぴゅぴゅっ!?」
これは、いけません。
止めなければ!
男はガチャガチャと忙しなく全身鎧を脱ぎました。
その顔は、期待と興奮で鼻息が荒く、見てられません。
……マジ、キモい。
つか、鎧の下には身体にピッタリとしたタイツみたいな服を着ていますが、下半身が大きくなっているのがハッキリとわかりました。
……マジ、勘弁。
急いで止めたいですけど、がさがさと物音を立てて行くと、いくらなんでもあの男に気付かれて、彼女を人質にされてしまうかもしれません。
一応、『サイレンス』の魔法があるのですが、過信して下手を打ちたくありません。
なので、慎重に物事を運ぶ必要があります。
阻害魔法や状態異常魔法が絶対に効けばやるのですが、その確信はないです。なにせゴブリンでさえ、効かないときがあったのですから。
賭けをするつもりはないので、確実に仕留めることを優先します。
気付かれても構わない位置に着いたら、魔法を仕掛けます。
失敗しても、すぐに行動に移せるようにするべきだと考えます。
そろそろと近付いていくと、声が聞こえてきました。
女性の意識はあるようです。
身体の自由が利かないだけですね。
麻痺、かな?
……致命的なやつとも言えますが。
「ひはは! お前が悪いんだ!」
「やだ! やめて! 近付かないで!」
「これで……これで一緒になれるんだ! 一緒になって……ひはははは!」
……こわいですね。
股間を大きくさせて近付いて来る男には、恐怖しかないです。
何を言っているのか全くわからないところも、同様ですし。
男はタイツみたいな服も脱いで、全裸になりました。
大剣を背負って、全身鎧を身に纏っているから、剣士かなと思っていましたけど……その身体は弛んでいて、鍛えている様子はありません。
何であんな装備をしていたのでしょう?
……男の汚い身体を見せられて、思考が逃避し出しました。
このままなにもかも放り出して、逃げたいです。
「ぴゅー……」
むう。
マシロの怯えた声が聞こえました。
その声に、現実逃避していた僕は我に返ります。
……あの男、マシロにあんなものを見せるなんて、万死に値します。
後悔させてやりますよ!
男は女性の足元にしゃがみこみ、履いているブーツを脱がし始めました。
もう、一刻の猶予もなさそうです。
僕は所定の位置に、ようやく到着しました。
さっさとやりましょう。
もう、あんなものを見ていたくないのですから!
では、マシロ。
カウントダウンです。
「ぴゅ」
3……2……1……0!
ゴーゴーゴー!
──『スタン』──
バチィッ!
電撃を発して痺れさせる魔法──いわゆるスタンガンですね──を、最大出力で発動しました。
同時に、僕は2人の元へ走りました。
持っていた杖で、男の無防備な背中を思いきり突きます。
魔法でビクンと男の身体が痙攣したところを、僕の全力の突きが直撃しました。
覆い被さっていた女性の身体を飛び越え、男は吹き飛びます。
そこに僕は勢いのまま駆け寄り、追撃のサッカーボールキックを喰らわせました。
……あ、やり過ぎたかも?
あまりの蹴りの感触に良さにちょっとビビりますが、反撃されたくないので、仕方ありません。
未だにこの身体に慣れていないのですよ……。
ピクピクと白目を剥いている男を見遣り、しかし、油断せずに構えは解きません。
気絶しているよう……ですね。
でも、まだです。
仰向けになっているので、未だに大きく屹立しているアレが目に入ります。
マシロには有害なので、是非とも潰しましょう。
えい!
「ぎゃあっ!?」
そして、もう見たくないので、爪先で男の身体を裏返しました。
これで良し!
あとは、念のために拘束をしましょう。
何か、魔法はありませんか?
……これが良いですね。
──『バインド』──
魔力でできた帯で、男をぐるぐる巻きにしてやりました。
これで恐らく、動けないでしょう。
ふむ。
猿轡もしておきますかね。
これで安心です。
完全勝利ですね!
「ぴゅっぴゅぴゅー!」
マシロも今回は勝利のダンスを踊っていますね。
カワイイですよ。
「あ、あの……?」
ひとしきり喜んでから、ふー、と額に浮かぶ汗を拭うと、声をかけられました。
ん?
おっと、忘れていました。
「大丈夫ですか?」
縛られて寝転がっている女性にかける言葉ではないですが、しかし何も話さずに近寄られても怖いかな、と思いまして。
「通りがかりの旅の者です。
どのような具合ですか?
喋れるみたいですけど」
僕はしゃがみこんで、話しかけました。
なるべく目線は同じにした方が良いですからね。
「あの、痺れて動けません」
「それ以外は、どうです?
気分が悪いとか、痛いところがあるとか?」
「そういった症状はありません」
ふむ。
まぁ、異世界だし、振りかけるだけで麻痺させる毒とかあるのかな?
「わかりました。
まずはその紐を解くので、背後に行きますが、よろしいですか」
「すみません、お願いします」
僕はゆっくりと歩いて、女性の後ろ手を結んでいるロープを外しに向かいます。
あ、状態異常を回復する魔法はないですかね?
…………。
うん。なんとか解けました。
女性の腕には痕が残っていますね。
全くあの腐れ外道が……。
──『ヒーリング』──
回復魔術の『ヒール』は傷を癒すだけのようですけど、この『ヒーリング』はさらに毒物にも効果があるようです。
どの程度の毒物にまで効き目があるかはちょっとわかりませんけど、麻痺なら治るかな?
ついでに、ロープの痕が消えれば、満点ですね。
じわじわと腕に残る赤い痕が消えていき、麻痺も消えたようで、女性はゆっくりと身を起こしました。
──『アクアクリエイト』──
喉が渇いているかな、と思って、水を出しました。
毒味ではないですが、怪しまれないように、まずは僕が先に水を飲みます。
コップが欲しいところですけど、ないので手で掬いました。
一口飲んだところで、視線で女性に促します。
女性は腰の小さなポーチに手を遣ると、中から木でできたコップを取り出し、それで水を飲みました。
「ふう。ありがとうございます」
んっと。
水はどうでも良いけど、そのコップ、どこに入っていたのです?
明らかに、腰のポーチには入らなそうなサイズなんですけど!
「え?
その疑問の方が、どうでも良くありません?」
「ぴゅー……」
マシロの呆れた視線が突き刺さりますけど……気になったのだから、仕方ないです!
……仕方ない、ですよね?




