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では、行きましょう。
まずは、相手に気付かれないように、こっそり近付くための魔法を使います。
──『ハイド』──
──『サイレンス』──
隠れる、というか、潜むための『ハイド』と、音がしなくなる『サイレンス』の2つの魔法です。
まぁ、絶対に見つからないわけではないですけど、用心のためです。
ちなみに、透明になる魔法もあるのですが、これはどうやらごく短時間しか効果がないようなので、ここは却下しました。
たぶんですけど、覗きには使えないですね。
……マシロも嫌がって、使ってくれないでしょうし。
それはさておき。
こそこそ歩いて行って、目標地点まで到着しました。
レーダーの反応にあった場所には、1体の生物がいます。
緑色をした皮膚に、子供のような体型をした謎の生物です。
うん。
ファンタジーにお馴染みの、ゴブリンというヤツでしょうか。
ソイツは手には棒切れを持っていて、辺りをキョロキョロと見回していました。
……本当に、魔物がいるのですね。
ああいったのがたくさんいるなら、確かに危険な世界のようです。
僕は、無事に生きていけるのでしょうか?
やるしかないとは思いますが、不安になる気持ちは隠せません。
「ぴゅっ!」
ん。
マシロの声に、我に返りました。
……そうですね。
僕は1人ではなく、マシロがいます。
なら、何でもできるはずですよね?
「ぴゅ」
よし!
やりますよ!
さあ、魔法の準備をしましょう。
そして、震える身体を抑えて、あのゴブリンを倒すのです!
まずは、念のために防御を。
──『マギマテリアライズアームズ』──
──『フロートシールド』──
僕の目の前に魔力でできた盾が現れ、浮かび上がりました。
前者の魔法は魔力で武器を作るものです。ちなみに、盾も武器扱いみたいです。
後者の魔法は、見えない第3の腕で盾を操る、というような魔法です。見た目は盾が浮いて見えるので、こんな名称なのだと思います。
僕の場合は、盾の操作をマシロに任せるので、攻撃に専念できるという便利な魔法です。
では、次に、ゴブリンの動きを止める魔法です。
阻害魔法か、状態異常魔法のどちらかですけど……。
まだ、ゴブリンには僕のことが気付かれていないので、ここはいろいろ試すべく、状態異常魔法にしましょう。
──『スリープミスト』──
その名の通り、眠らせる霧を生み出す魔法です。
どの程度、効き目があるでしょうかね?
ゴブリンの眼前に白い霧が現れ、まとわりつきます。
最初は、ゴブリンも鬱陶しそうに手で振り払おうとしていましたが、次第に動きが散漫になり、その場で倒れ眠りました。
ふむ。
もう少し試さないと何とも言えませんが、まあまあな感じです。
無音で霧が出るのが良いですね。
効き目も悪くなさそうですし。
……尤も、ゴブリンだからかもですが。
僕は倒れたゴブリンに、急に目を覚ましても対処できるように、慎重に近付きます。
そして、手にした杖が当たる間合いまで近寄ると、杖を振り上げ、振り下ろしました。
何度も、何度も振り下ろしました。
「ぴゅー」
マシロの声にハッと気付くと、ゴブリンの頭は潰れていて、既に絶命しています。
「……ふぅ」
周囲にゴブリンの血が飛び散っていて、なかなかグロテスクですが、流れたどす黒いその血は、僕の知る生物とほとんど違いありません。
──魔物とはいえ、血を流し過ぎれば、死ぬ。
そんな当たり前のことがわかると、僕の身体から緊張が抜けていきました。
魔物も生物なのだから、過剰に怖がることはないのです。
適正に対処すれば、そう簡単にやられることはなさそうですね。
もちろん、油断はできませんけども。
次は、複数のゴブリンを相手してみたいですね。
今のように、落ち着いて動きを止めていけば、何とかなりそうです。
さあ、行きましょう……か?
「ぴゅっ!」
どうしました、マシロ?
「ぴゅっぴゅー!」
マシロが首をフリフリしています。
なるほど。
勝利のダンスですね!
カワイイ。
「ぴゅー……」
え、違いますか?
マシロは、首を伸ばして鼻先をゴブリンに向けました。
ぐぅ……。
マフラーのように巻き付いている身体が、僕の首を締め付けるので、慌ててしゃがんでゴブリンに近寄ります。
マシロは僕の身体を伝って、地面に降りました。
「ぴゅっ!」
そして、ガバリと大きく口を開けると、死んだゴブリンの腕に噛み付きました。
「え!?」
ぶちりと腕を食い千切り、そのまま丸呑みしたマシロ。
次に、反対側の腕も同様にして、丸呑みします。
生臭いというか、エグい臭いが、周囲に漂い出しました。
「ぴゅー!」
ケプ、と小さくゲップをして満足そうに一鳴きしたマシロは、僕をじっと見つめてきます。
…………。
「……美味しかった?」
「ぴゅっ!」
「……えっと、残りはお持ち帰り?」
「ぴゅぴゅぴゅっぴゅー!」
「……了解です」
そうか。
マシロは、ゴブリンを食べるのか……。
ひとつ、勉強になりました。
そして、もうひとつ、学びました。
……僕は、ゴブリンを絶対に食べません。
たぶん、どんなに美味しかろうが、口にしようとした瞬間、マシロの丸呑みシーンを思い出してしまうでしょうからね……。




