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「いや、何を言っているんです?」
ちょっと僕の声が低くなってしまいました。
怒る、というのとは違いますけど……。
「もちろん、君が言いたいことはわかる!
だから、ちょっと落ち着いてください」
慌てたように、管理人さんが口を挟みます。
はい。
僕は落ち着いてますよ。
「……目が据わってますから。
こほん。
本当に勝手なことを言っている、という自覚はあります。
ただ、他の神々がちょっと危険だと考えてしまいまして。
この調子なら、エルフを絶滅させてしまうのではないか、と」
いやいや。
絶滅だなんて。
僕1人で、そんなの不可能でしょうよ。
「……残念ながら、そう思われなかったのです。
それと、エルフはなかなか子供が産まれないので人数が少なく、あり得ないことでもありませんので」
そうなのですか。
エルフにも、少子高齢化が進んでいるのですね。
ああ、だから、あんなおバカな連中が蔓延っていたんだ……。
甘やかされて育てられたのが、脳裏に浮かびます。
「何で遠い目をしているのか、わからなくもないけれど……。
話を戻します。
そういうことで、君から魔法使用の権限がなくなります」
えー。
せっかく異世界に来たのだから、もっと魔法を使いたかったです。
……残念ですね。
「次に、君に監視が付きます。
この子が担当です」
そう言って管理人さんが手招きすると、どこからともなく現れたのは──なんだ、これ?
ずざざ、と地面を這って、真っ白な細長い毛むくじゃらの何かがやって来ました。
「これは……モップ?」
2mくらいはありますけどね。
いや、マフラーかも。
どちらにしても、かなりもふもふですが。
「ぴゅーっ!」
うわっ、声が出た!
ナニコレ? 本当になんなの?
それは僕の足元に来ると、先端部分がカパリと開き、細い二股の何かが見えた。
僕はしゃがみこんでよくよく見ると、真っ白な大量の細い毛に覆われていますが、目や口があります。
先ほどの細い何かは、どうやら舌のようでした。
「……もしかして、蛇?」
「そうですよ」
しれっと管理人さんは言いますが、パッと見てこれを蛇だと看破するのは無理です。
蛇がこんなふわっふわっの毛に覆われているなんて、思いもしませんよ。
ちょっと撫でてみると、やっぱりふわっふわっで、手触りはちょー最高です。
しかし、そのふわっふわっの毛の下は、なんというか蛇でしたけど。
……なんだろう、この不思議生物?
それとも、僕が知らないだけで、毛に覆われた蛇って存在しているのでしょうか?
「さっきも言ったけど、その子が君を監視するよ。
仲良くしてあげてね」
「ぴゅー」
んー。
このもふもふは気持ち良いのだけど……。
「申し訳ありませんけど……」
「ぴゅっ!?」
ああ、ごめん。
キミに文句があるわけではありませんよ。
「僕は喘息の気がありまして、その子みたいに毛が多い子とは一緒にいられません……。
なので……」
「いや、何を言っているんですか?
君の身体は以前とは違うのですよ。喘息なんかありません」
「ぴゅー……」
…………。
おお! そうでした!
この身体は、元イー君のでしたっけ。
ふむ、それなら……。
呆れたような声を器用に出した蛇を抱えてみますが、特に問題はなさそうですね。
蛇は僕の首に巻き付くと、顔を近付けてきました。
ふわっふわっの毛が僕の鼻をくすぐってきて、思わず笑みがこぼれそうです。
「ぴゅぴゅっ!」
むぅ。
今までペットを飼ったことがなかったですが、こういう反応をされるととても可愛く思えますね。
親バカな飼い主を何人も知っていますが、今にしてその気持ちがわかります。
みなさん、バカにしててごめんなさい。
今日から僕も、親バカなもふらーにクラスチェンジです!
「名前を付けてあげてください。
そうすれば、契約となります」
契約とかどうでも良いですけど、名前はちゃんと考えて付けてあげたいですね。
むむむ。
「キミは男の子? 女の子?」
僕がそう聞くと、ちゃんと女の子のときに首を縦に振りました。
どうやら言葉を理解しているようです。
うちの子は、ちょー賢いですね。
「では……ヘビ子です!」
「ぴゅっぴゅー!?」
僕の考えた名前に、大慌てで首を振る蛇……じゃなくてヘビ子。
喜んでくれてますか?
「いや、嫌がっているよ。だから、契約が成立していない」
む?
そうなのですか?
確かに、首を横に振っていましたか。
「では……スネークのスネ子? それか、蛇からジャイ……」
「ぴゅぴゅっぴゅー!?」
言わせねぇよ、と言わんばかりに首を横に大きく振られました。
……これもダメですか?
意外に贅沢ですね……。
「贅沢なのかなぁ……?」
管理人さんが何やら呟いていますが、雑念はカットします。
ふむ……?
そうですね……。
「じゃあ、白いから……マシロで!」
これならどうだ!
じっと見つめると、はぁと溜め息を吐いてから、頷いてくれました。
良かった。
気に入ってくれたみたいです。
すると、蛇──マシロがピカーと輝き出しました。
まぶしっ!?
うちのマシロは、可愛すぎて光り輝くのですか!?
「……違うよ。それが契約完了の光なんだよ」
そうでしたか。
うん、まぁ、可愛いから何でもアリですけどね。
管理人さんの声音に呆れが混じっているようですけど、何故でしょうね?
「ぴゅー!」
少しすると、光は収まりました。
そこにはマシロがいます。
契約が成立したからなのか、3割増しに可愛く思えます。
その背を撫でると、相変わらずもふもふの毛が気持ち良いですね。
「ウインドウを出して、確認してみて」
と、管理人さんに言われたので、見てみましょう。
どれどれ。
名前 :マシロ
種族 :神白蛇
年齢 :1
契約者:???
レベル:∞
生命力:∞
魔力 :∞
精神 :∞
敏捷 :∞
幸運 :∞
攻撃力:∞
防御力:∞
スキル
不老不滅
魔法(全)[攻撃魔法封印中]
全ダメージ無効
全状態異常無効
おや?
いろいろ疑問があるのですが……。
「……なんだ、このチート?」
「それはそうです。
監視をする者に何かあっては困りますからね」
僕の呟きに答える管理人さん。
そういう問題ですかね?
まぁ良いか。
僕のマシロ、ちょーつよいです。
「それと、契約者の名前が『???』になってますけど?」
「それは、君の名前が確定していないから、ですね。
あとで決めてください。
名前は大切、ですよ」
……何か意味ありげに言いますね。
っていうか、僕は今、名無しでしたか。
まぁ、イー君でもなければ、奏汰でもないですからね。
おいおい考えますか。
「この【魔法(全)】は?
それに、攻撃魔法封印中、とありますけど」
「それは……」
管理人さんがすすっと近付いてきて、こそこそ耳打ちしてきました。
……こしょばいです。
(君の魔法は使えなくしましたが、代わりにこの子──マシロが使えます。
先ほどまでと同じく、〈魔法〉の一覧から使えますよ)
その囁きに僕は驚きましたが、何とか顔には出さずにいられました。
(良いのですか?)
(はい。裏技です。
ちゃんと上の方には許可を得ています。
ただ、あくまで使用するのはマシロなので、この子が嫌がると使えません。
キチンと良い関係でいてくださいね)
ああ、なるほど。
つまり、僕がマシロに嫌われるような行為をすると、魔法が使えなくなるので、それが安全弁代わりになる、ということですか。
そうすることで、神様たちは妥協してくれたのですね。
(神々も、君には同情しています。
だからといって、何でも許してしまっては、神として示しがつきません。
これが、ギリギリのラインですね。
尤も、今後の君の行動次第では、これすらも駄目になるでしょう。
気を付けてください)
(はい。了解しました。
マシロもよろしく)
(ぴゅー!)
マシロは僕の首に巻き付き、パッと見るとマフラーのようになりました。
もふもふの感触が、最高ですね、やっぱり。
「では、これでお別れです。
次に会うことはないと思いたいね。
もし、そうなったら、君は私の敵ということになるだろうから」
──ぶるり。
背筋に冷たいものが走ります。
それまで管理人さんは気さくな方でしたけど、今の一瞬は、とても恐ろしい気配がしました。
恐らく、釘を刺したのでしょう。
一度は許すが、もう二度と、不幸を理由に他者を害するな、と。
あくまで管理人さんは神の一員なんだ、と理解させられました。
ざあっと強い風が吹き、周囲の木々を揺らします。
僅かな忘我の合間に、管理人さんの姿は僕の前から消えました。
「……ぴゅ?」
マシロなので声に意識を取り戻した僕は、大きく息を吐きます。
「じゃあ、行こう」
僕はマシロの背を一撫でしてから、森の中に入るのでした。




