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コトが済んで、僕はベッドの上でみんなに土下座をしています。
その、まさか、ルナだと思っていたら──ローズマリーさんだったなんて……いろいろと最低です。
寝惚けていたから、なんて、理由にもなりません。
うあぁ……死にたい……。
なんてことをしてしまったんでしょう……切腹するしかありませんけど、僕の身体は自傷行為をしても、すぐに回復してしまいます。
もはや僕にできることは、こうやって黙って土下座するだけです。
「あー、その、頭を上げてくれ」
そうはいきません。
むしろ、頭を蹴るとか踏むとかしてくれませんか?
……いや、性癖ではないですが。
「その、なんだ……妾も嫌だったら拒絶しているわけで、そうではなかったのだから……なにを言っているんだ、妾は。
うぅ……貴女たちには本当に申し訳ないことをした……」
と言うや否や、ローズマリーさんはヴィッキーとシア、ルナに向かって頭を下げました。
3人は顔を見合わせて、
「あー、うん。気にしなくて良い……かな?」
「そうよぉ……ここで文句を貴女に言っちゃうと、自分たちに戻ってきそうだわぁ……わたしたちもお酒をムリヤリ飲ませて、させちゃったものね……」
「悪いのは全部、シータです」
はい、言い訳のしようもありません。
特にルナには、本当に申し訳ないことをしました。
「しかし……」
シアに身体を起こされて、ローズマリーさんはどうして良いのかわからなそうにしています。
「ほら、シータも頭を上げて。
気にするな、とは言わないけれど……済んでしまったことをアレコレ言っても仕方ないわ。
それよりも、お腹が空いたの。なにか食べるものを出してちょうだい」
それよりも……って、ヴィッキー。そんなので良いのですか?
「良いのよぉ……。
まずは食べながら、いろいろと話を聞くからぁ……」
「仕方ないからこれくらいで勘弁してやる、です」
「ぴゅっ!」
サー、イエス、サー!
ただいま準備致します!
僕は急いで〈道具〉から食べ物を出しました。
ベッドの上なので、簡単につまみやすいもの──サンドイッチやお握りなどをたくさん用意します。
そして、ヴィッキーたちと離れている間のことを、詳しく説明しました。
ちなみに、彼女たちは先ほどまでずっと意識がなかったそうで、悪魔に操られそうだったと聞いて、憤慨しています。
そして、異常がないか不安に思ったので、僕が診断の魔法を使い、さらに念のために回復魔法をかけました。
これで、問題ないでしょう。
閑話休題。
食事しながら、かくがくしかじかと一通り話を聞いていた3人は、悪魔という存在について初めて知ったようで、ローズマリーさんの身に起きたことにとても驚いています。
だからというわけではないでしょうけど、彼女たちがローズマリーさんのことを見る目はとても優しげでした。
「それで?
貴女はこれからどうするつもりなの……ううん、どうしたい?」
「……いや、なにも考えていない」
「本当に? 落ち着いて考えてみて?」
「…………。
妾は、諦めていたから。未来なんて」
ぽつりぽつりと言葉を紡ぐローズマリーさん。
ヴィッキーたちはそれを促すことはなく、じっと聞いています。
「このまま悪魔に好き勝手され、死んだように生きていくのだと思っていた。
ところが、そんなときにシータがここにやって来た」
俯いたまま、彼女は話し続けました。
「別に、シータになにかできると思ったわけではない。ただ、こんな場所に来れるような者なら、なにかしら停滞していたこの状況が動かせるのではないか、と漠然と考えた」
うん、僕たちがここに来たのは事故でたまたまだと思うので、なんか申し訳ないです。
「そこで、利用してみようと画策してみた。
成功しても失敗しても、どちらにせよ妾は死ぬだろうと思っていたからな」
自嘲するように、ローズマリーさんは口の端を歪めます。
「ところが、妾にとって最良の結果が出た──出てしまった。
だから、欲が出てきた」
「欲?」
「シータは妾のことよりも、貴女たちを救うために必死だったよ。それを表に出すと、悪魔に付け込まれるから、隠そうとはしていたけれど……妾はそれが羨ましかった」
むぅ……なんか恥ずかしいです。
「妾にはそんな存在はいなかったから……欲しくなったんだ。浅ましくも、な」
溜息が虚空に零れました。
「全てが終わって、気が緩んで……そうしたらシータが横にいて、いつの間にか妾はその腕の中にいて、でもシータの目に妾ではない別の誰かが映っていたことに気が付いて、妾はいつでも離れることができたはずなのに、それができずにいた……。そして、卑怯にも意地汚く縋ることにした」
…………。
「は、はは……。
妾は本当になにをしたかったのだろうな……?
これからしたいことなんて、わからない」
ポタリと雫が流れて、ローズマリーさんの服を濡らします。
僕は思わずその頭に手を伸ばし──ゆっくりと撫でました。
「まぁ、その、あれです。
バカで最低な僕ですけど……手が届く範囲にいるなら、協力することはできます。
その手も2本しかなくて、そんなに長いわけでもないけれど」
──『マリオネットアーム』──
「このように、魔法であと2本の腕の追加も可能ですし、こっちは少々遠くまで伸ばせます」
そう言って、ヴィッキーとシアの頭を魔力の腕で撫でました。
ルナがグリグリと頭を擦り付けて来るので、残りの腕でガードしているのを、キョトンとした顔でローズマリーさんが見ています。
「えと、なにが言いたいのかというと……あと1人ならなんとか責任を取れますよ、ということで……だから、一緒に来ませんか?
したいことがわからないなら、これから見付ければ良いんじゃないですかね?」
というか、責任を取らせてください、どうかお願いします。
「まぁ……そうね。
そんなに自分を卑下することはないわ。ヒトなんてそんなものだと思うし」
「苦しいこと、辛いことがあっても、いずれは良いことがあるわぁ……。
貴女はそうなる権利があるのぉ……」
「そんなに難しく考えることはない、と思うです。
適当に稼いで、シータに貢げば良いです。そうしたら、お腹一杯ご飯が食べられるです」
「ぴゅっ!」
……その言い方は人聞きが悪いですよ、ルナ!
「こほん。
もちろん、僕なんかの顔が見たくないのであれば、ローズマリーさんが生きていけるように陰ながら応援できます」
「いや、そんなことは……。だが、良いのか?」
「はい」
というか、繰り返しになって申し訳ないけど、僕に責任を取らせてください。
「……すまない」
俯いたまま、小さく震える声で言うローズマリーさん。
ふむ。
その言葉ではないですね。
ほらほら、顔を上げて。口角を持ち上げて。
「…………。
ありがとう……」
うん、そうそう。
そうやって、綺麗な顔で微笑えば良いと思いますよ──




