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「ふはぁ……。疲れた……」
僕は大きく息を吐き、声も出してしまいました。
思わず、地面に座り込みます。
なんとか無事に悪魔を倒せました。
全く……糞虫なのに、ここまで駆除に時間をかけさせるとは……地獄に落ちると良いです。
そして、2度と僕の目の前に出てくるな。
名前 :シータ
種族 :ハイエルフ
年齢 :21
レベル:22(+1)
クラス:冒険者LV.18(+1) 操蛇者LV.16(+1)
生命力:630(290+10)【+30】【+300】
魔力 :0
精神 :69(32+1)【+3】【+33】
敏捷 :105(48+2)【+5】【+50】
幸運 :50(23+1)【+2】【+24】
攻撃力:56(26+1)【+2】【+27】
防御力:56(26+1)【+2】【+27】
スキル:自動治癒
身体強化
劣悪環境耐性
全ダメージ軽減
全状態異常耐性
必中
投擲
弓術
斧術
称号 :フォレストドラゴンの祝福
悪魔殲滅者(NEW)
装備 :魔鉄の弓矢 魔鉄の鉈 魔鉄の巨剣×2 魔鉄のナイフ
ミスリルの小盾
魔鉄の全身鎧
ミスリルの鎖帷子
フード付きの外套
レベルが上がりました。
立て続けに上がったのは、大物を倒したからでしょうか?
多少は僕も、強くなりましたかね?
謎の称号が増えていますが……検証などはあとにします。
どうせわからないでしょうけど。
ステータスの確認が終わったので、もう1つ深呼吸をしてから顔を上げました。
そして、悪魔が死んだ場所にじっと立っているローズマリーさんを見遣ります。
その顔は、晴れやか──ではなく、全くの無表情です。
恨みを晴らしたのだから、喜べば良いと思いますが……もしかして?
僕の視線に気付いたのか、ローズマリーさんはこちらに顔を向けました。
「こうなることを期待して事を起こしたわけだが……妾の心にはなんら変化が起きないのだ。
嬉しい、とか、満足だ、とか、ざまをみろ、とか……いろいろ考えるのだが、なにもない」
某アニメのヒロインの有名な台詞である、こんなときどんな顔をしたら良いかわからないの、が脳裏にリフレインしました。
感情を知らないあのヒロインとは違って、ローズマリーさんは悪魔の力を取り込むために、記憶や感情を捨て去ったのです。
これでは、笑えば良い、と言っても無駄でしょう。
「まぁ、良い。
悪魔は滅んだ。
妾の本懐は遂げたのだ。
あとはどうでもよい」
そう言って、無表情のままローズマリーさんは手に持っていた魔鉄の鉈を自分の首に当てて──
「では、世話になった。さらばだ」
「いや、やめてください」
──僕は彼女から鉈を奪い取りました。
「なにをする?」
ローズマリーさんはなにも映していない目を僕に向けて、淡々と言いますけど……普通は目の前で自殺を決行されたら、止めるのですよ。
あー、それもわからなくなったのか?
「もう妾にはなにもない。
いや、あの悪魔に対する恨みや憎しみはある。それだけは捨てなかった。捨てられなかった──アレを殺すために。
だが、それもアレが死んでしまった以上、無用のものなのだ。
だから、妾にはなにも残っていない」
ローズマリーさんはふっと僕から目を逸らして、ぽつぽつと呟きました。
小さかった身体は殊更に小さく見えて、消えてしまいそうです。
だから僕は──
「諦めたらそこで、終了ですよ?」
そう言って、僕は超有名なバスケ漫画の名台詞をパクると、ずん、とクリスタルを〈道具〉から取り出しました。
中にローズマリーさんの成長した姿の、悪魔のスペアが埋まっています。
「記憶や感情なんて、簡単に捨てられるものではないと思います。
……いや、あの悪魔がするみたいに、データを消去するようにしたらどうなのかなんてわからないけど。
でも、わからないからこそ、いろいろ試すべきです」
僕は記憶や感情は、身体や行動などに同期していると思っています。
例えば、美味しいものを食べた。でも、そのあとに悲しいことが起きた。そうすると、同じものを食べたときに、美味しくて喜ぶべきなのに、その悲しいことが思い起こされる。
あるいは、柱の角に足の指をぶつけた。メチャメチャ痛い。その柱に八つ当たりした。それを人に見られ笑われた。さんざんからかわれて恥ずかしい。柱に指をぶつける度に、その恥ずかしさを思い出す。
などなど、こんなのは一部だけれど、いくらでも実例は挙げられます。
だから、記憶や感情は、身体や行動、さらに五感が覚えています。
いくら捨てたくても、捨てられない。
そういうものだと思います。
「ここに、貴方の身体があります。
悪魔に造られた身体だけど、それでも貴方の身体です。
それには、貴方の生きてきた様々な記憶や感情が残っている。
だから、それを取り戻せば良いです」
元々、同じものだったのです。
なんとかなります、きっと。
「ムリだ、そんなことはできない」
ローズマリーさんは力なく首を振りますけど、そんなことはありません。
「さっきだって、ムリだと思ったことができたでしょう?」
悪魔の力を無理矢理に詰め込んだのです。
それと同じことをすれば良いのでしょう。
「だが、あの身体は悪魔の残滓だ。それを取り込んだら、なにが起こるかわからないだろう」
「そのときは、僕が貴方を殺します。
死にたいのでしょう? ならば、その前に足掻きましょう。そのあとからでも遅くはありません」
どうせ死ぬなら、やることをやってみましょう。
無駄にはなりません。
仮に無駄になったら、僕が責任を持って殺します。
「でも、そんな後ろ向きなことを考えることはありません。
上手くいって記憶や感情を取り戻したら、なにがしたいですか?
今までできなかったことを、取り返してやりましょう。
それは、あの悪魔に対する大いなる復讐になりますよ」
僕の言葉にローズマリーさんはしばらく黙っていましたが、やがてコクリと頷きました。
と言っても、恐らく未来のことを思い浮かべたのではなく、復讐という単語に反応したのだと思います。
悪魔のことだけが、今のローズマリーさんを突き動かすのだから。
しかし、それでも構いません。
それが原動力となれば、ローズマリーさんはなんでもできるのではないでしょうか。
無理なことでも、無茶なことでも、無謀なことでも。
あの悪魔が嫌がることならば、ローズマリーさんは絶対に成功させると僕は信じています。
現に──
ゆっくりとクリスタルに近付いた彼女がそれに掌を当てると。
パァッとクリスタル全体が白く発光し出して。
その光は彼女をも包み込み。
次第に光が収まってきて。
クリスタルに埋まっていた身体はなくなり。
彼女はその目から涙をぽたぽたと落として立っていて。
──ただただ、声もなく立ち竦み、慟哭するのでした。




