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「それで、用事とはなんでしょう?」
僕は、管理人さんに尋ねます。
あまり長居したくないので、手早くしましょうね。
「うん、それなのですが……」
と、管理人さんはどこか歯切れが悪く、赤々と燃えている小屋をチラリと見ました。
……?
どうしました?
「あくまで確認ですが、あれ、どうしたのです?」
「……? ああ、襲われたので、正当防衛です」
「もうちょっと詳しく」
「はあ。えっと……。
イー君の兄だというエルフとその他数名が、訳のわからないことを言いながら襲ってきたので、正当防衛で返り討ちにしました。
それで、イー君が死んだことにしようと考えて、兄だというエルフのの死体をイー君だと偽装し、ついでに燃やせばバレないだろうと思い、実行しました」
僕の話を聞きながら、額を押さえる管理人さんですけど、頭痛ですか?
ああ、杜撰な計画に呆れていますね。
そうなんです。
兄エルフをイー君に見せ掛ける偽装工作をしたんですけど、思いの外、難航しまして。
結局、燃やせば一緒かという結論が出ましたが、それも解剖もDNA検査もしないのだから、誰だかわからなくなっちゃうな、と気付いた瞬間、水泡と化しました。
何をやっていたんでしょうかね、僕は。
「……今の計画は、いろいろと穴があると思わなかった?」
「それは思いましたよ。急遽、決めましたからね。
それでも、唐突に連中が来るから、こんな羽目になったわけで」
最初から来るとわかっていれば、もう少しマシな計画を立てられたのですが……言っても詮ないことですね。
「……言っても仕方ないのだけれど、殺すことはなかったと思うけど。
君なら、魔法を使えば拘束するなり何なりできたはず……」
「ええ、そうかもしれませんね。
けど、許すことはできませんでした。
連中がイー君をあそこまで追い込んだから、僕は今ここにいる。
そう思ったら、僕は……」
最初は僕だって、こんなことしようとは思っていませんでした。
許すとか、許さないとか、考えもしなかったのですよ。
連中が何もしないで、自分の目の前に映らなければ、それで良かったのです。
でも、そうではなかった。
僕の目の前にやって来た連中は、さらにイー君を、ひいては僕を傷付けようとした。
それは僕に、選択肢を突き付けてきたようなものです。
許せますか?
許せませんか?
だから、僕は決めたのです。
これ以上の狼藉は許せない、と。
「その結果が、これです」
「そうか……」
あ、小屋が崩れましたね。
類焼しないように気を付けましたけど、どうやら大丈夫のようです。
森が延焼したら、大変ですからね。
僕が逃げられなくなってしまいますし。
「それなら、他のエルフはどうしますか?」
管理人さんは真剣な目をして僕にそう問いかけますが、僕の答えは決まっています。
「まだ、イー君を傷付けようとするなら、対処します。
この火事の件について僕に問うなら、逃げます」
「……そうか」
管理人さんはゆっくりと目を閉じ、しばし考え込みました。
……ここに誰かやって来ると面倒だから、早く立ち去りたいのですけど、僕はどうしたら良いですか、管理人さん?
「……今回の件に関して、他の世界を管理している神々は気にしていまして」
うん?
急に何の話です?
「神の知らないところで、魂が入れ換わるとか、本来はあってはならないことなのです。
やるなら、自分の手でやるべきことなんだ」
まぁ、そうでしょうね。
例えるなら。
コンシューマーゲームで自分の育てたキャラクターが、勝手に他のゲームのキャラクターと変わっていたら?
自分でしたことだったり、百歩譲って他人のしたことだったら、まだ許せると思うけど、そうでなく、そのゲームのキャラクターがしたことだったら……とてもゲームなどしていられない。
「神々はこの件について、並々ならぬ関心を持っています。
だから、君の行動について監視をしていた」
それって、日本の僕の身体にいるイー君のことではなく?
「ここにいる君のことも、だ。
今の『君』は、イー君の影響がどうしても付いて回る。
その結果、前と同じように、君がどこかの誰かと魂が入れ換わるだけなら、まだ良い。対策はしてあるから。
しかし、予測も付かないことが起きてしまい、後手に回るのだけは避けたかった。
だから、監視をしていたというわけです」
んー。
アフターケアがされている、と思えば良いのか?
……そんなんじゃなさそうですね。
「それで、いきなりあんな行為に及んだから、皆が驚いてね」
「過激、でしたか?」
「いや、躊躇がなかったことに、かな?
異世界に送られて、最初にすることが殺人というのは、あまりないことなんです」
「正当防衛ですし、情状酌量の余地は……?」
「あるんだけど、君の様子を見ていると、ちょっと……」
うーん?
僕の様子がなんでしょう?
あ、過剰防衛なのか?
「いや、そういうことではないのだけど……まぁ良いか。
えっと、そんなわけで、神々の間でちょっと意見が分かれていたんだけど。
君のことを何をするかわからないから消そう、という意見と。
力を取り上げて、さらに監視を付けておこう、という意見と。
君のしたことは正しい、このままで構わない、という意見と。
今あげた強硬派と容認派、中立派が大部分かな。
場は荒れに荒れて、恒星がいくつか破壊されたほどですよ」
……恒星破壊とか意味わからないし。
「何をやっていた、というのはよくわかる。
でも、彼らにとって他人事ではないから、真剣にならざるを得ないんだ」
「で、結果は?」
途中経過はいりません。
「うん。
強硬派はすぐに消えた。さすがに、事情を考慮するとね。
かと言って、容認派も認められなかった。申し訳ないけど、エルフは数が少なくて……。死んでなければ、まだ良かったのだけど」
ということは……?
「与えたばかりであれだけど、魔法の力を返してもらう。
その上で、監視が付くというのが、結論です」




