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プロローグ
「大人になったらね。」
あんたの口癖だった。たくさん約束した。たくさん夢を見た。たくさん、未来へと想いを馳せた。
結局、約束は何一つ果たせなかった。
「俺さ、今年で20になるよ。」
大学が夏季休暇に入り、お盆ということで帰省してきた。そして、1人で墓参り。5年の間、俺は毎年のように彼女の命日には墓参りに来ていた。
たく、お盆と命日が被るだなんて、縁起でもねえなぁ。
強がりのようにそうつぶやいた。
「あんたと、酒、飲んでみたかったな。」
小さい頃約束した中の一つだった。自分より1つだけ年上の彼女は、俺にたくさんのことを教えてくれた。勉強だけじゃなく、人間関係のことだとか、処世術だとか、遊びだとか、本当にたくさんのことを教えてくれた。 1つしか違わないはずなのに、ずっと年上のように思えていた。
「香織…。」
ふわっと、後ろから首に手が回された。
「大地。」
柔らかな少し擦れた声に、柔らかな白のワンピース。ふっと香る石鹸の匂い。
5年前に見た姿と何も変わらない香織が、そこに立っていた。