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書簡  作者: いちはつ
8/25

ガンガゼ

しんあいなるフェリクスさま


お手紙ありがとう。昔の人がお魚についてたくさん調べていたなんて、知りませんでした。てつ学というのは世界の成り立ちとか、しくみとか、そういうむずかしいことばかり考えている学問だと思っていましたの。お父さまにおたずねしましたら、ちゃあんと知っていらっしゃったわ。世界に生きている生きものを知ることも、世界のしくみを理解するのに大切なんだ、とおっしゃっていました。ともあれ、でんかの教育のお役に立てたようでうれしいですわ。

ヨウムという鳥は見たことがありません。次に王宮にうかがうのがとても楽しみになりました。でんかがかってらっしゃるということは、お名前もあるのかしら。どんなお名前で、どなたがつけたのか、きょうみがあります。


海に行くとき、ひとりではありませんわ。海にはたくさんこわい生きものがいるから、ゆだんできませんもの。となりのおばあさまとご一しょしていただいているの。

おばあさまは海の生きものにとてもおくわしくて、いつもおもしろいお話してくださるのよ。むかし海にもぐってはたらいていたんですって。海にいるこわい生きもののお話も、おばあさまからうかがったのよ。ですから、今の私は海のこわさをたくさん知っています。


たとえば、ウニという生きものご存じ?こちらでは、めずらしい食べものとしておいわいの席に使われることもあります。食べるときはオレンジ色で、ふわふわしているのですけれど、海の中にいるときはとげとげです。とげとげのからをうまくわると、食べられるようになるのですって。

とげとげはさわると痛そうですけれど、おばあさまはふつうのウニなら平気だよ、と言って素手でさわっていました。私もさわってみたのですけれど、とげが動きますの。ウニが動くなんて、考えたこともなかったのですけれど、よくよく見ていますと一本一本のとげをじょうずに動かして歩いているのよ。


とげとげがないウニもいますのよ。ですけれど、とげがなくてもあぶないウニもいるのですって。

こわいウニを2しゅるい、教えていただきました。ひとつめは、ラッパウニというウニです。とげとげのないウニで、さいしょはイソギンチャクのなかまが丸い石にたくさんついているのかと思いましたわ。貝がらやサンゴのきれはしを頭にかぶせてかくれているので、とてもかわいらしいのですけれど、どくがあるのですって。

ラッパウニにはとげの代わりにらっぱのようなものがたくさんありますの。アサガオのような形で、開いたり閉じたりしています。いじめたり、おどろかしたりすると、このらっぱからどくのある針を出すのですって!ですから、素手でさわらないようにと言われています。


もうひとつは、ガンガゼというウニです。黒と白のもようがあったり、青い五角形があったり、とてもきれいなウニです。けれども見るからにこわいのよ。とげが長くて、あぶなそうなのが一目でわかります。ほかのウニのとげはもっさりとして、短くて太いのですけれど、ガンガゼのとげは細くて長いです。少し弱そうに見えるわ。だけれど、弱そうなのはわざとなんですって。わざともろいとげにして、こうげきする相手にささったらぽきっと折れるのですって。そして折れたかけらは相手の体にささったままになって、とてもいたいのですって。こちらも、さわらないように気を付けていますわ。

でも、むずかしいのよ。ウニって岩のすき間とかあなとかに入りこんでいるので、しおだまりの上からですと見つかりにくいのです。ですから、うっかりさされないように、しおだまりに手を入れるときはとてもしんちょうにしていますわ。


ところで、すてきなお知らせか、さみしいお知らせかわからないのですが、あとひと月で王都にかえることになりましたの。そちらにいらっしゃる園長さまのご命令ですから、もしかしたらご存じでしたかしら。

ヨウムと、それからフェリクスさまにもに会えると思うとすてきな気がしますし、海べをはなれるのはさみしい気もいたしますわ。


かしこ

イリス


***************


親愛なる小さなレディ


お手紙ありがとう。元気そうで何より。

今頃は引越しの準備で忙しくしているかな。


ヨウムはキュイという名前だ。殿下にはヨウムの鳴き声がキュイキュイという感じに聞こえるみたい。殿下がご機嫌斜めの時にキュイキュイうるさいと何回も言ったもんだから、ヨウムは自分の名前がキュイだと思い込んじゃったんだ。そのあとに、もっとかっこいい名前を付けるはずだったのにとへこんでいたけれど、自業自得だと思う。あ、これ、本人には秘密だよ。


ウニは食べたことあるけれど、生きているところを見たことはないな。そんなにたくさんの種類があるということは、知らなかった。殿下も、とげとげしているのは知っていたんだけど、あれで歩くのかってびっくりしていたよ。そして例の哲学書を開いていた。魚だけじゃなくて、海の生物は結構載っているんだ。フジツボとかイソギンチャクとかカイメンとかね。そこに書いてあったんだけれど、フジツボに腕があるって本当かな。もしテッラ・マリティマにフジツボがいるなら、見てきてくれると嬉しい。


このごろ、食卓に上がるもので、知らないものって意外と多いな、と思う。毎日食べるパンだって、小麦という草からできると思うと不思議だよね。そういえば前にバターを作ったこともあるって言っていたね。もしかしたらパンも作ったことがあるのかな。イリスは私の半分くらいの歳なのに、私よりずっとたくさんのことを知っている気がするよ。


君が帰ってくるのは、私にとっても、殿下やアガタ様にとってもすてきなお知らせだ。会えるのを楽しみにしているよ。ぜひ、スケッチブックをお忘れなく。


では、近いうちに。

フェリクス

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