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書簡  作者: いちはつ
6/25

トカゲ

しんあいなるフェリクスさま


ぶじ、テッラ・マリティマにとうちゃくいたしました。ちょうどお父さまが王都にかえっていらしたから、一しょにばしゃで行きましたのよ。ですから何のしんぱいもありませんでした。三日もかかりましたけれど。


こちらのおうちからは海が見えますの!

まちは海に近い高台にあります。海べは岩がちで、場所によってはがけのようになっているから、一人で行ってはいけないよと言われました。ですからこちらに来てから、まだ一度も海のそばへ行っていないの。天気がよければお父さまのおしごとについていこうと思っているのですけれど、ここのところ雨ばかりですの。


お父さまはこちらで海べの植物の調さをしていらっしゃるのよ。海辺の土地はしおけがあるから、ふつうの植物は育たないんですって。海べの植物で、食べられて、たくさんふえるものがないかさがして、海べでも食べものを生産できるようにしたいというのが、王立植物園の園長さまのおかんがえだそうよ。

海はときどき時化ますの。海のお天気がわるいことを時化というんですって。よみかたは“じか”ではなくて“しけ”ですわ。となりのおばあさまに教えていただきましたの。そんなときに、おさかなをとりに出られなくてもだいじょうぶなように、というおはからいで、海べの植物を調べる必要があるらしいのです。


ところで、私、雨の日はいつもハンケチに刺しゅうをしますの。トカゲのしっぽの青色がきれいにできましたから、さしあげますわ!スミレとトカゲって、なかなか気品あるくみ合わせでしょう?


それでは、お元気で。こちらでおもしろい生きものを見つけましたら、おたよりしますわ。


かしこ

イリス


***************


親愛なる小さなレディ


お手紙とハンカチをありがとう。さっそく使っていたら殿下が、お前にもハンカチを贈ってくれるような女性がいるんだな、しみじみおっしゃっていたよ。きっとうらやましいんだろうね。アガタ様にお願いすれば良いのに。


こちらは皆元気です。アガタ様も、イリスからのお手紙を受け取って嬉しそうにしていたよ。

収穫祭の準備が始まって、宮中も、街中もにぎやかです。私もパレードに引っ張り出されることになりそうだ。殿下のお付きとしてね。街中の広場にはテントがたくさん立って、見世物小屋やダンスフロアもできるそうだ。競馬も予定されているよ。乗馬の技術を見せつける良い機会だからと、騎兵隊が張り切っている。

広場の中央に立てられた柱があっただろう?五月祭の時に精霊を呼び寄せるため、春の芽吹きを込めて立てられた柱だ。精霊が地にとどまってくれるようにと夏の間中花や蔦で飾り立てていたのを覚えているかな。収穫祭の最後の夜には、あの柱の周りでかがり火を焚くんだ。柱を燃やして精霊に別れを告げ、来年もまた春が訪れますようにと祈りをささげる。それからそのかがり火の炎が尽きるまでみんなで踊るんだよ。精霊に感謝の踊りを捧げるのが本当の目的だけれど、半分くらいは自分たちの楽しみのために踊っている気もするな。とは言っても私が踊りに混ざったのは、父の領地の祭りだから、王都とは少し違うかもしれない。王都に来てからは、王宮からその様子を眺めるだけだ。


君のお父上が海辺で育つ作物を見つけて、栽培に成功したら、海辺でも収穫祭をするようになるのかな。きっと長い時間がかかるだろうけれど。

それともそちらには、海の恵みに感謝するお祭りがあるのかな。もしあるのだったら、楽しんでおいでね。またの機会があるかは誰にもわからないのだから。


テッラ・マリティマは海岸が切り立った崖になっていて、危ない場所もあるそうだね。眺めはとても良いと聞いたけれど、くれぐれも気を付けて。


では、またね

フェリクス

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