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書簡  作者: いちはつ
23/25

スイレン

親愛なるフェリクス様


お返事ありがとうございます。

南国の植物はきっと持ち帰りますわ。もしかしたら、王都では今まで誰も見たことがないような鮮やかな花を持ち帰れるかもしれません。


実は、先日お父様と遠乗りに出かけましたの。私、馬に一人で乗れるようになりましたのよ。ポニーではありませんわ、アラブ馬です。馬に乗れるようになったのがうれしくて、半日で行けるところまで行きましたの。そろそろ折り返そうかという頃、池のほとりで馬を休ませていたら、スイレンが咲いていました。こちらのスイレンは、茎が長くて、鮮やかな花色をしていますわ。青や紫もありますのよ。王宮のお庭に持ち帰れないかしら、と思って、地元の方に何株か分けていただきました。中には夜咲きのものもあると聞きましたわ。お外で咲く様子は危ないから見に行けませんけれども、お庭に植えたら咲くところを見られてすてきだと思うのです。

今、お父様とこちらの館で栽培条件をいろいろと検討しております。一番の課題は王都までの輸送ですわ。お父様が最近入手なさった、持ち運びできる小型温室を使えば、何とか持って帰れるのではないかと思っておりますの。もしうまくいきましたら、アガタ様にご結婚のお祝いとして差し上げるつもりですので、お二人には秘密にしておいてくださいませね。


そういえば、お姉さまに結婚のお申し込みがあったそうですわ。受けるかどうか、わからないけれど。ずっと先のことだと思っていたのに、びっくりです。

私にもそのうちそういうお申込みがあるのかしら。結婚するってどんなものか、全然想像がつきませんわ。けれども、社交界にデビューするのはそういうことですわよね。もしわがままが言えるなら、お父様のようなお仕事の方が良いですけれど、そうでなくとも、生きもののの話を時々で良いから聞いてくださるお方が良いわ。それから音楽が好きで、優しい声で歌ってくだされば最高! もしそんな方をお見かけになったら、こっそり紹介してくださいませ。いえ、むしろ、お父様に紹介してくださったほうが良いかしら。


王都には、アガタ様の結婚式には間に合うように帰るつもりですわ。近いうちにお会いできること、楽しみにしております。


かしこ

イリス


***************


親愛なるイリス


お手紙ありがとう。

ついに、アラブ馬にも乗れるようになったんだね。少し寂しい気もするけれど、とりあえずおめでとうと伝えておくよ。王都に戻ってきたら、殿下に頼んでまた離宮に遠乗りに行こう。あの離宮の庭は、王宮の庭園よりずっと自然の在り方に近くて、きっと君は気に入っているだろうから。


今、こちらでは、植物園に新しい温室を作るという話が出ているらしい。もし君と君の父上が南国の植物を持ち帰ることに成功したら、そこに植えることになるかもしれないね。スイレンということは、温室の中に池を作る必要があるな。尤もそんなすぐには建てられないから、当面は王宮のオランジェリーに水槽やら鉢やらを並べることになるだろうけれど。そしたらきっと狭苦しくなって、お茶会はできなくなるな。でも、その方がむしろヨウムの故郷に近い雰囲気になって、キュイは喜ぶかもしれない。ヨウムが暮らすような南国の森は、たくさんの植物がぎっしりと、複雑に絡み合ってできているんだろう?


しかし、あんなに小さかったイリスから結婚なんて言葉が出てくる時が来るとは思わなかったな。紹介してくれということは、君はずいぶん私の眼を信頼しているんだね。君に相応しい人間かはわからないけれど、君に心惹かれている人間には一人心当たりがあるよ。一度、君の父上とお話しさせてもらおうとは思っている。

幸せの青い鳥のように、私も君に幸せを届けたいと思っている。何も心配しないで待っていてほしい。


真心こめて、

フェリクス

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