タイヨウチョウ
親愛なるフェリクス様
王都ではいかがお過ごしですか?私はお父様と一緒に、ぶじ南方に到着いたしました。本当のところを申しますと、殿下とアガタ様のご結婚式の日取りも決まり、これから忙しくなるでしょうに、こんなところに来ていいのかしらと不安に思う気持ちもありました。
でもね、こちらに来てそんな気持ちは全部吹き飛んでしまいましたわ。だって、そちらとは植物の種類が全然違いますのよ。こちらで見る花は、色鮮やかですし、形もさまざまです。今まで花なんてみんな、色や形がちょっと違うだけで、基本的には同じような構造をしているのだと思っていたのですけれど、こちらの花からは何かよくわからない糸状やひだ状のひらひらが伸びていたり、予想外な形をしています。この間見た植物は花の中に花が三つあって、どういうことかしら、と思ったのですが、お父様が言うには、花を取り囲む苞が花びらのように色づいているのだそうですわ。質感も柔らかくて薄い花びらと違って、てらてらと分厚くて、こちらの強い日差しに負けないような強さです。
よくはかなげな美しさを花にたとえたりしますけれど、こちらの人はそんな比喩はしないと思いますわ!きっと毅然として強く美しい女性のことを、花の様な人、と言うに違いありません。
花に蜜を吸いに来る虫も鳥も全然違いますの。蜜を吸う鳥はくちばしが細く長く湾曲していて、胸元が色鮮やかです。中には背中とおなかと胸元、全部違う色の鳥もいますのよ。そちらでは見かけると幸せになるというくらい、めずらしい青い鳥も、こちらではたくさん見ましたわ! と言っても全身が青いのではなく、頭から背中の中ほどまでが青いのですけれど。光沢のある青色で、光を受けてきらきらする様子は晴れた日の海の様ですわ。私はこれまでもずっと幸せでしたけれど、これからもっと幸せになるに違いありません。フェリクスさまにも幸せが届くと良いと思いますわ。
私もあと1年足らずでデビューの季節を迎えますけれど、そのころフェリクス様は王都にいらっしゃるのかしら?きっと、一曲お相手くださるって信じていますわ。
かしこ
イリス
追伸、この間はきちんとお礼を言えなかったのですけれど、髪飾りをありがとう。
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親愛なるイリス
お手紙をありがとう。
ご結婚を控えて、殿下もアガタ様も忙しくしていらっしゃる。特にアガタ様はいろいろとご心労がおありのようなんだけれど、君からの便りを読むと前向きになれると心待ちにしていらっしゃるようだ。心優しい方だからね、君を王宮に縛り付けるのは嫌だったんだろう。だから君が伸び伸びとしているのがうれしいのだと思うよ。
殿下に南国の話をしてあげようと君からの便りを王宮に持って行ったら、鳥の話が書いてあるのがわかるのか、それとも南国の風のにおいがしたのか、ヨウムのキュイが興味津々だったよ。危うく紙に穴をあけられそうになって、慌てて取り返した。キュイもそちらのようなところから来たのかな。南国の植物を少し持ち帰ってくれるよう、父上にお願いしてくれないか? キュイがあまりに君の便りに興味を示すもんだから、故郷のような南国の景色を王宮の温室に作ってやるって殿下が言ったんだ。それでキュイはおとなしくなったから、約束を果たさなければならないと殿下が意気込んでいるんだけど、どのくらい理解しているんだろうね。
約束と言えば、君との約束はちゃんと覚えているよ。ちゃんと君のデビューより前に帰ってきただろう? それから髪飾り、君が気に入ってくれていると良いんだけれど。
君の帰りを楽しみにしている。
真心こめて,
フェリクス




