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書簡  作者: いちはつ
15/25

リンゴ

親愛なる小さなレディ


少し風が冷える季節になったね。最近便りがないけれど、元気にしているかい?

今年も、収穫祭の準備が始まったよ。殿下ともども忙しくしている。特に殿下は、まもなく立太子の儀を迎えられる。そのための作法であったり、王太子としての役割を果たすための公務であったり、さまざまな予習が必要なんだ。大変そうだけれど、殿下にしかできないことだからね。私はその傍らで控えていることしかできない。まあ、そばで見ているだけでいろいろなことが学べて、お得な役回りだと思っている。地理の勉強なんかもかなり大変そうなんだけれど、各地の名産品を聞いているのは楽しいね。北の名産はリンゴだという話になって、イリスのことを思い出したよ。もしかしたら近いうちに視察に行くことになるかもしれない。そしたら、イリスにもお土産を届けるね。


君の健康を祈って、

フェリクス




拝啓

清涼の候いかがお過ごしでしょうか。シルウァ伯爵領を訪れました折に賜りました心よりの歓待、まことに嬉しく拝受いたしました。御礼申し上げます。

さて、そちらの地方で子供の肺炎が流行していると伺いました。ここのところ、ご令嬢より便りがなく、体調を崩されているのではないかと案じております。ご令嬢への手紙を同封します。何かに夢中になって、私のことを忘れているだけだと良いのですが。

多忙の季節にご連絡いたしますこと、不躾かと存じますがお返事いただければ幸いです。

敬具


フェリクス・アルゲイフォンテス

アルブスクラ卿 御机下


***************


前略

心よりのお気遣い、まことにありがたく存じます。

御懸念の通り、イリスは今肺炎に罹患しています。こちらで仲良くしていた子供が肺炎で亡くなり、それでずいぶんと気落ちしたのもよくなかったのでしょう。数日ふさぎ込んだかと思っていたら、起き上がれない状態になってしまいました。咳で夜も眠れず、食事もほとんどとれていない状態です。なぜこのように小さな子が苦しまなければならないのか、できることなら代わってやりたいと胸が痛むばかりです。

ただ、病床にあっても貴殿からの御手紙には喜びの色を示しておりました。筆をとれる状態ではないのですが、本人からも感謝の気持ちをお伝えしたいとのことです。差し支えなければ、またお便りいただけますと光栄に存じます。


草々

アルブスクラ

フェリクス卿


***************


親愛なる小さなレディ


君のお父上から、病気で苦しんでいると聞いたよ。少しでも良くなることを祈って、北方からのお見舞いを届けます。

この間、北の方に視察に行ってきたんだ。あちらはちょうどリンゴの収穫シーズンだった。イリスの真似をして私も何か自分の手を動かしてみようと思ってね、手伝いに行ってみたんだ。けれど、あの大騒ぎの時に素人は邪魔だったみたいだ。何個かもがせてもらったんだけど、ツルの部分を付けたままもぐのが意外と難しい。私が一個もぐ間に、農家の人たちは三個も四個ももいでいるんだ。全然戦力にならなかった。あとはひたすらリンゴを洗わされたよ。それからリンゴの皮むきだけは褒められた。野営ができるようにと、昔ナイフの使い方をしごかれたんだけど、こんなところで役立つとは思わなかった。

今回送ったお見舞いのうち、リンゴジュースはそのときに労働報酬としてもらったもの、ショールはむこうの伝統的な民芸品だそうだ。このショールをまけば寒さなんて気にならない、と北方の人たちのお墨付きだ。

暖かくして、少しでも栄養を取るんだよ。元気な君にまた会えるのを楽しみにしている。


フェリクス



前略

ご多忙の折、返信感謝いたします。ご令嬢がご病気とのこと、さぞやご心配でしょう。ささやかながらお見舞いの品を送付いたします。少しでも彼女の心を慰めることができると良いのですが。卿におかれましても、日々の看病に心を削っておられることでしょう。遠い地で何もできない自分が歯がゆいばかりですが、一刻も早い快癒を、心よりお祈り申し上げます。

草々


フェリクス・アルゲイフォンテス

アルブスクラ卿

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