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書簡  作者: いちはつ
11/25

サザンカ

親愛なる小さなレディ


そろそろそちらに落ち着いたころかな。シルウァ伯爵領は温暖な気候だと聞くけれど、いかがお過ごしですか。体調を崩したりはしていないかい?


さて、今回はささやかながらプレゼントを贈ろうと思ってお便りしたんだ。確か冬生まれだったよね。誕生日プレゼントとして、受け取ってくれるかな。

実は、懇意にしている出版社が新しい植物図鑑を出したんだ。ざっと見ただけだけれど、図版がすばらしい出来だ。君なら楽しんでくれると思う。数年前に君の父上が持ち帰った植物も、いくつか図版として掲載されているようだよ。編集者に言わせると、本当は君の父上にも執筆依頼を出したかったけれど、忙しくて捕まらなかったそうだ。


売れ行きが良ければシリーズ化するとのことなので、少しばかり貢献しようと思って購入したんだ。ご笑納ください。ついでに君の父上に紹介して、王立図書館に入れるようそそのかしてくれると嬉しい。続編にはぜひ寄稿してくれとも伝えておいてくれ。


寒い日が続くけれど、おからだお大事に。


フェリクス


***************


親愛なるフェリクス様


すてきなたん生日プレゼント、ありがとう!

うれしくって、夜おそくまでながめていたら侍女のモニカに怒られましたわ。

お父様にもせんでんしておきました。王宮の図書室と、植物園の書庫にも入れるように、園長様にかけ合ってくださるそうよ。


まだ少ししか読んでいないのですけれど、とても役に立つご本だと感じていますわ。

ここのところずっと、サザンカとツバキの違いが気になっていましたの。花びらの落ち方が違うと聞いていたのですけれど、花がない時にはわからないでしょう?そしたら、いただいたご本に書いてありましたの。葉っぱをお日様にすかしたとき、みゃくが黒いのがサザンカなんですって。それから、サザンカのほうが葉のふちがギザギザしているそうですわ。でも、葉のギザギザで見分けていいのかしら。だって、ヒイラギの木ってごぞんじですわよね、冬にまよけとしてかざるあの木の葉のギザギザ、というよりトゲトゲでしょうか、あれは年をとった木にはないのですって。ヒイラギも人間も年をとると丸くなるんだよ、って園丁のおじさまは笑っていらしたけれど、ヒイラギの葉っぱが丸かったら私、ヒイラギだと見分けられる自信がありませんわ!もしサザンカも年をとると丸くなるなら、見分けがつかなくなってしまいますわ。葉っぱのギザギザがなくなったからと言って、サザンカがツバキになるわけではないでしょう?


それからお茶の木もツバキのなかまなんですってね。そういえばお茶をどうやって作るか、私知りませんわ。今度ちょうせんしてみたいです。伯しゃく領の南の方には、チャノキがあるそうなので、春になったら伯父上におねがいしてみるつもりですわ。夏のはじめに若い葉っぱをつんで、そこからお茶を作るそうです。つんだ後、火を通すかどうかで味がかわるのですって。作り方によって、さまざまな色のお茶ができるというのはおもしろいですわ。それから、さん地によって味がちがうのはなぜなのかしら。


ところでツバキの木につくガの幼虫がいるのですけれど、ぜんぜんかわいらしくありませんの!毛虫の毛がふりかかるだけでかぶれることもあるからと、近づいてはいけないことになっています。イモムシも毛虫も、どちらもチョウやガの幼虫ですのに、毛が生えているというだけであんなにもいやなものになるのですね。

かわいらしいイモムシがチョウになって、かわいらしくない毛虫がガになるのかと思っていたのですけれど、園丁のおじさまにきいてみましたら、ガになるイモムシもいるのだそうです。そういえばスズメガというガの幼虫を見たことがあるのですけれど、ぽっちゃりとしたとてもかわいらしいイモムシでした。スズメガは大人になってもあまりガらしくなくて、小鳥のような顔をしているのですけれど。


こちらの冬は海べと違って風が強くないので、それほど寒くありません。お父さまに聞いたら、こちらは気候がおだやかだから、植物の実けんにふさわしいそうよ。ですから、しばらくこちらにいることになりましたの。海べで見つけた植物を育ててみるのですって。


それでは、冬の寒いころ、お風ぜなどおめしになりませぬよう、ご自愛くださいませ(この表現、アガタ様に教えていただいたの)。


かしこ

イリス

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