第八十二話 風呂、売ってるらしい
今日は81話、82話を更新です。
「こんにちは。ムコーダと申しますが、ランベルトさんはいらっしゃいますか?」
ランベルトさんの店に来たが、今日はあいにくランベルトさんが店先にいなくて従業員の人に声をかけた。
従業員の人は俺の事を覚えていたらしく、すぐにランベルトさんを呼びに行ってくれた。
「ムコーダさん、いらっしゃい」
「この前ランベルトさんが言ってたブラックサーペントの皮が手に入りまして」
「おおっ、それはありがたい。では、こちらへ」
ランベルトさんに案内されて、店の奥にある応接間に入る。
ランベルトさんに勧められて椅子に座ると、すぐにメイドさんがお茶を持ってきてくれた。
お茶は香りも味もウーロン茶っぽかった。
「それで、ブラックサーペントの皮を見せていただいてもよろしいですか?」
ランベルトさんにそう言われて、アイテムボックスからブラックサーペントの皮を取り出して見せる。
「ほうほう、これは傷も少ないようで素晴らしい」
ランベルトさんがブラックサーペントの皮を見分しながら「素晴らしい」と褒めちぎる。
何でもこれだけ傷の少ないものは滅多に手に入らないのだそうだ。
「これだけ良い物ですので、私もがんばらせていただきますよ。金貨50枚ではいかかでしょうか?」
え?か、皮だけで、金貨50枚?
俺が驚いていると、ランベルトさんが説明してくれた。
「先ほども申し上げたとおり、この皮は傷が少ないのです。傷があると、その部分は使えなくなり、多く革を使用する鞄などは作り難いのです。この皮はその点、傷も少なく無駄になる部分がほとんどありませんからね」
なるほど。
それでも金貨50枚か。
思わぬ臨時収入だな。
「その値段でお願いします」
俺がそう言うと、ランベルトさんが奥の部屋から金貨50枚を持ってくる。
「金貨50枚、お確かめください」
さすが商人と言うべきか、10枚を1列に重ねた金貨が5列ある。
「はい、確かに金貨50枚受け取りました」
金貨50枚を、何かもったいなくて使ってなかった、この店で買った(もらった)サンドスネークの財布に入れた。
「おお、それはうちの店の」
「ええ、なんだかもったいなくて使うのをためらってたんですが、ランベルトさんの店で得た収入ですのでこれを機会に使わせてもらうことにしました」
「ええ、ええ、こういうものは使えば使うほどに味が出てくるものですから長く使っていただければ幸いです」
金貨50枚の入ったサンドスネークの財布だなんて、ちょっとした小金持ちだな。
ニマニマしそうになる顔を、ランベルトさんに相談があるんだったと思い出して引き締める。
「あの、少しランベルトさんにご相談があるのですが……」
「私にですか?」
「はい。その前に……ブラッディホーンブルがたくさん手に入ったので、おすそ分けです」
相談の前に、前に手に入れていたブラッディホーンブルの皮をランベルトさんの前に出した。
「いいんですか?」
「もちろんです。先ほども言ったとおりたくさん手に入ったので」
心づけ程度ではあるが、何かしら渡しておいたほうが俺としても相談がしやすい。
ランベルトさんが「それでは」と受け取ってくれたのを見計らって、話を続ける。
「実を言うと私も商人ギルドに登録していまして」
そう言ってアイアンランクのギルドカードを見せた。
「ほう、そうなのですか。商人ギルドと冒険者ギルドに登録とは珍しいですね」
「相談というのは、このような商品が売れるかということと、どのくらいの値段なら適当なのかということをご教示願えればと思ったのです」
俺はそう言いながら、石鹸やリンスインシャンプーやらを出していく。
「この石鹸は……」
安めの方のせっけんを取り出して、ランベルトさんに説明する。
「そして、こちらの石鹸はその優美な香りを嗅いでいただければ分かると思いますが、少し高めに出したいのです」
ランベルトさんは興味深げに石鹸の香りを嗅いでいる。
「こちらは、髪を洗うものなのですが、これで洗うと髪がサラサラになります。特に女性に人気が出ると思うのです」
リンスインシャンプーの入った瓶を手に取り説明すると、ランベルトさんはこちらも興味深げに眺めてコルク栓を抜いて香を確かめていた。
「これも髪を洗うものなのですが、こちらの商品より効果の高いものになります。その分、高めの価格にできればと思っております。こちらで髪を洗った後にこちらを髪につけて少し時間を置いて洗い流すのですが、髪には艶と潤いが戻り誰もがうらやむ美髪になることでしょう」
ランベルトさんが、シャンプーとトリートメントもコルク栓を抜いて香を確かめている。
「最後のこれはとっておきの特別品なのですが、髪を洗った後にこれをつけて少し時間を置いて洗い流していただきますと、どんな髪質の方でも一発で魔法のように髪が美しくなります」
ヘアマスクの入った瓶を置くと、ランベルトさんはそれも開けて香を確かめる。
ランベルトさんは、しばらく目を瞑って考え込んでいた。
何を言われるのかちょっとドキドキだぜ。
「ムコーダさん。ムコーダさんとお知り合いになれて、本当に良かったですぞ」
ランベルトさんが、しみじみとそんなことを言い出したものだから何事かと思ったよ。
「実はですね、2週間後に私たち夫婦の結婚記念日だったのですが、妻に何を贈ったらよいかとここのところ胃がキリキリしていたのですよ……」
何でも、ランベルトさんは奥さんへのプレゼントと言えば自分のところの女性もののバッグをプレゼントしていたそう。
それでなければ、アクセサリーの類だ。
だけど、今年は奥さんに先手を打たれて、バッグもアクセサリーも十分だから違うものでと遠回しにお達しがあったそうな。
そうお達しがあるのに、今までと同じバッグやアクセサリーをプレゼントした日にゃあね……。
ランベルトさんとしてはプレゼントと言えばバッグかアクセサリーだと思っていたから、何をプレゼントすればいいかずっと悩んでいたそうだ。
「妻は石鹸も愛用しておりますしね、髪のこともいろいろと気にしているようですから、今ムコーダさんに紹介していただいた品々をプレゼントすれば喜ぶこと間違いなしですよっ!」
「これで無視されずにすむ……」なんてランベルトさん呟いてるよ。
夫婦も大変だね。
それよりもランベルトさんの言葉に気になる点があったんだけど。
「石鹸を愛用しておられるということは、風呂があるのですか?」
位の違いはあれど、風呂なんてお貴族様の家くらいにしかないものだと思ってたんだけど。
「ええ、妻のたっての希望でうちには風呂があるんですよ」
へー、あるんだな風呂。
異世界の風呂ってどんなだか見てみたいな。
そんで俺でも買えるようだったら是非とも購入したい。
「あ、あの失礼かもしれませんが、風呂を見せてもらうことはできますか?」
人様の家の風呂をいきなり見せてくれと言うのはアレだが、どうしても気になったのでランベルトさんに言ってみた。
「ええ、いいですよ」
おお、案外簡単に許可もらえたね。
そして案内された風呂場。
そこにあったのはタライを大きくしたような形の陶器で出来た茶色の丸い風呂だった。
この風呂なら俺が入ったとしても十分余裕があるし、いいんじゃね。
「これが、我が家自慢の風呂です」
商人で家で風呂が持てるのは成功した証だと言われているらしく、ランベルトさんとしてもこの風呂は自慢らしい。
「素晴らしい風呂ですね」
俺がそう言うと、ランベルトさんも満更でもないらしくいろいろと教えてくれた。
何でもこの風呂は、特殊な方法で砕いた魔石の粉が練り込まれ焼かれたものらしく、とても高いのだそうだ。
風呂と言えば魔石の粉が練り込まれたこの陶器で出来たもので、魔石が練り込まれていることで硬く保温性のある風呂になるとのこと。
ランベルトさんのこの茶色の風呂は当時金貨350枚したそうだが、華やかな色が付いたものや絵付けしてあるものはもっと高額になるらしい。
き、金貨350枚か……風呂、さすがに高価だな。
ま、まぁ今はフェルのおかげで懐は温かいから考えられなくもない。
ってか、風呂めちゃくちゃ欲しい。
とりあえず見るだけ見てみたいということで、ランベルトさんに風呂が購入できる店を教わった。
この街で風呂を買えるのはイラリオ商会という大店らしい。
この街の店が本店で他の街にもいくつか支店を出しているらしい。
風呂欲しいから、後でちょっと見に行こう。
あ、そうだ、奥さんにプレゼントするにしても、まずはランベルトさんに使い心地を確かめてもらわないと。
「ランベルトさん、これらの品を奥様にプレゼントする前にご自分で使い心地を試してみてください。すべて1つずつ置いていきますので。それでご納得されれば、奥様にプレゼントする分もご用意いたします。それから、どんな使い心地だったかと教えていただくのと値段をどのくらいに設定すればいいか、是非ともご教示願います」
「確かにそうですね。妻にプレゼントする前に自分で使ってみて納得しないとね」
ランベルトさんは「変なもの渡したりしたらどんなに怒られるか分かったものではないしな」などと呟いている。
ランベルトさん、案外苦労してるんだな……。
「それじゃ、よろしくお願いいたします」
こうしてランベルトさんの店を後にした。
あとはこれがどれくらいの値段で売れるかだな。
石鹸やシャンプーやトリートメントなら香りが違うものも豊富にあるし、今流行りのノンシリコンなんかを投入すればいろいろな値段設定が出来ると思うんだ。
それは後々考えるにしても、塩や胡椒以外の有望商品であることは間違いない。
ランベルトさんがどういう風に言ってくるか楽しみだ。
 




