第六百三十六話 フィッシュアンドチップス
お、遅くなり申し訳ございません……(汗)
パチリと目を覚まし起き上がるとゆっくりとベッドから降りる。
俺は朝には強い方なのだ。
というか、誰かさんたちの朝飯を用意しなきゃいけない生活だから朝に強くなるのも当然といえば当然。
まぁ、今日は朝飯の用意のためではないんだけどね。
まだおネムのフェルたちを寝室に残してそっと部屋を出る俺。
そしてキッチンへと向かう。
「よし。作っていきますか」
グッと伸びをした後に気合を入れるようにそう宣言する。
手持ちにない材料は昨日のうちにネットスーパーで購入済だから手筈はバッチリ。
「作るのは、フィッシュアンドチップス! とは言っても使うのはフィッシュじゃないんだけどね~」
一人そんなことをつぶやきながらミスリル包丁を握った。
まずはジャガイモ。
アルバン印のデッカイ極旨ジャガイモをキレイに洗ってから皮のままくし切りにしていく。
揚げやすさとカリカリの仕上がりを考えて今回は細めに。
切ったジャガイモを特大ボウルに入れて水にさらしておく。
そうしたらこいつだ。
「よっと」
アイテムボックスから巨大な白身の肉塊を取り出した。
「リバイアサ~ン」
これでもかってほど有り余っている。
というか、食いしん坊がいるうちですら「これは本当に食い切れるのか?」ってほどの量が残っている。
これでも結構食ったにもかかわらずだ。
まぁ、元があの巨体だからしょうがないっちゃしょうがないんだけど。
フェルもゴン爺も『美味い』っていうしみんな食うっていうからほぼほぼ全部の肉を引き取ったのに、フェルもゴン爺もドラちゃんもスイも『リバイアサンはたまにでいい』なんて言うんだぞ。
ちょっと前まで週一くらいで消費してたんだけど、それでもそう言われてさ。
毎日出してるわけじゃないんだからいいじゃんって思ったのにそれでも『飽きてきた』『やっぱり赤い肉だな』なんて言うんだから。
元が肉大好きなうちの食いしん坊どもは、どっちかというと魚よりのリバイアサンは美味いけど頻繁に食いたいものではなかったってことらしい。
そんなんだから全然減りやしない。
こんなことなら半分くらいは売ればよかったよ。
今からでも売ろうかと考えたこともあるんだけど……。
「絶対に面倒くさいことになるよねぇ」
王都でのことを思い出すとさぁ。
肉だけとはいえ、ようやく落ち着いたのにまた面倒くさいあの人が騒ぎだすこともことも考えられるし。
というか、絶対に騒ぎ出すな。
それを想像してブルリと震える。
そう考えたらアイテムボックスに保管しておくのが一番安全安心だという結論に至った。
まぁ、悪くなるわけじゃないしね。
その分こうして食えるときには食っていく方向でちまちま減らしていくぜ。
ってそんなことは置いておいて作業の続きだ。
このリバイアサンの肉を適当な大きさにざっくり切っていく。
切ったリバイアサンの肉に塩胡椒を振って薄力粉を薄くまぶす。
そうしたら次は衣だ。
ボウルに薄力粉・片栗粉・ベーキングパウダー・塩を入れたら……。
「冷え冷えのこれを入れる!」
アイテムボックスに常備している俺用のビールを取り出してプシュッとプルタブを開けて注いでいく。
そして混ぜ混ぜ混ぜ。
「これで衣OK」
片栗粉なしとかベーキングパウダーじゃなく卵でやってみたりと試してみたことがあったけど、結局は多くのレシピで使われてるこの衣がサクサクで一番美味いんだよね。
子どもたちに食わせるんだから美味くなきゃね。
水にさらしておいたジャガイモの水気もしっかり切ってと。
「よし。あとは油で揚げていく」
まずはジャガイモでフライドポテトだ。
ブクブク泡が出てジャガイモが浮いてきたら、火を強火にして表面がカリッときつね色になるまで揚げていく。
イイ感じに揚がったら、油をよくきって取り出して塩をまぶして完成。
そしてカリッと熱々のままアイテムボックスで保管だ。
揚げては保管を繰り返して大量のフライドポテトを作っていく。
「ふ~。これでフライドポテト終わり」
最後のフライドポテトを揚げ終えて、次はいよいよリバイアサンだ。
リバイアサンの肉を衣につけて~熱した油に投入。
ジュワッ―――。
途中に何度かひっくり返しながら全体にこんがりと色がつくまで揚げていく。
「うん、こんなもんかな」
油をきってバットに並べていく。
「美味そう。ここはひとつ味見だな。昨日作っておいたこれを付けて」
フィッシュアンドチップスに必須のタルタルソース。
昨日のうちに作っておいた。
と言ってもほぼ混ぜるだけのタルタルソースなんだけどね。
ゆで卵のみじん切りとネットスーパーで仕入れた瓶詰のきざみピクルスとマヨネーズを混ぜるだけ。
これがまた美味いんだ。
このタルタルソースをたっぷりつけて~、かぶりつく。
「あっふ」
ホフホフと熱を逃しながら味わう。
「熱いけど、うま~」
俺も思わずニッコリ。
サクッとした衣の食感に中のリバイアサンはふわふわホロリな食感でクセのない白身魚に似た味わい。
そこに程よい酸味とまろやかさのタルタルソース、相性抜群どころじゃないよこれ。
無敵だね、この組み合わせ。
「ク~、ビールと合うだろうなぁこれは。それに子どもも絶対好きなヤツだ」
フィッシュアンドチップスにして(中身はフィッシュじゃないけどね)大正解だったと確信した。
子どもたちが美味そうに食う姿を想像して鼻歌を歌いながらどんどんとリバイアサンの肉に衣をつけてテンポよく揚げていく。
『おい、腹が減ったぞ』
『お~、朝から揚げ物とは幸先がいいのう』
『ホントだぜ!』
『スイ、揚げ物好きー!』
起きてきた食いしん坊たちがキッチンに押し入ってきた。
「おはよ~、みんな。残念だけど、これは朝飯じゃないぞ~」
『なぬ?!』
『違うのか?』
『なんでだよ!』
『揚げ物朝ごはんじゃないの~?』
「これは孤児院の子どもたちへのお土産だよ」
『なっ、それじゃわれらの朝飯はどうなるのだ?!』
「それは昨日屋台で買っただろ」
『む、確かに。それならいいか』
『そうじゃのう。まぁ悪くはないものが多かったしのう』
『だな』
『昨日食べたの美味しかったからいいよ~』
昨日買いだめした屋台飯。
お前らが気に入ったのたっぷりと買ったもんね。
肉ばっかりだけど、肉大好きなうちのみんななら文句ないでしょ。
ハイエルフさんたちと子どもたちには申し訳ないけど。
あ、でも、アイヤとテレーザから聞いた話によるとこっちの人たちわりと朝からガッツリめでも平気っぽいから大丈夫かな。
朝から肉があるとみんな喜ぶって言ってたし。
「あ、ヴェルデさんたちと子どもたちは起きた?」
『ハイエルフどもも小童も我らの少し後に起きてきているぞ』
『うむ。広い部屋におるわい』
みんな起きてリビングにいるのか。
それなら、みんなで朝飯にするか。
いったん作業を中断してフェルたちとリビングに向かう。
「みなさんおはようございます」
そう声をかけると次々と「おはよう」という声が。
「昨日屋台で買ったもので朝飯にしましょう」
そう言ってテーブルの上に次々と並べていく。
「食い切れないようなら保管しますんで」
ハイエルフさんたちはけっこう買ってたからな。
主に酒に合いそうなのを次々とね。
「えーと、酒などは……」
チラチラとこちらを見ながらヴェルデさんがそう言う。
「ダメに決まってるでしょ。朝から酒なんて。しかも、子どもたちもいるのに」
すかさずそういう俺にヴェルデさんが残念そうな顔をする。
そんなヴェルデさんを肘でつつきながら小声で「だから言っただろうが」と呆れるラドミールさん。
「あら、夜ならいいのかしら?」
「まぁ夜ならいいですよ。ただし、飲みつぶれるような飲み方はダメですよ」
「やぁね、そんな私たちそんな飲み方はしないわ」
「「ね~」」
そう言ってキャッキャとはしゃぐセルマさんとラウラさん。
ちゃっかりしてるなぁ。
子どもたちもグッスリ眠れたみたいで朝から元気いっぱい。
昨日自分たちで選んだ屋台飯を朝からモリモリ食っている。
俺もホットドッグを一ついただいた。
朝飯後はみんなで食後のお茶を飲んで一休み。
ハイエルフのみなさんと子どもたちには孤児院へ向かうまでは自由にしてもらう。
俺はそれまでもう一仕事だ。
「よし、残りを揚げてこう」
子どもたちが美味そうに食う姿を想像しながらもうひとがんばりする俺だった。




