第六百三十五話 師匠!
初の短編集「とんでもスキルで異世界放浪メシ à la carte 1」をお買い上げくださった皆様、本当にありがとうございます!
引き続き「とんでもスキルで異世界放浪メシ」をどうぞよろしくお願いいたします!
「師匠、なんでいるんですか?!」
「肉ダンジョン祭りはもう少し先ですよ」
メイナードとエンゾが驚いた顔をしてそう言った。
「まぁ、それは後で説明するから。とりあえずはお客さんを先に相手しないと」
なかなかの繁盛店になっている様子でお客さんもたくさん待っているからね。
「あ、はい」
「師匠、ちょっとだけ待っててください」
「ああ」
そして、待っている間にハイエルフさんたちと子どもたちに説明をする。
こちらも知り合いがいることに驚いているみたいだったからね。
ということで以前にこの街に来た時に知り合ったいきさつやらをかくかくしかじかと話して聞かせる。
「ほ~、なるほどな」
「孤児院の子どもたちなのね」
「独り立ちをする手助けをするとは、なかなかやるな」
「本当。しかも繁盛してるなんてね」
ハイエルフさんたちも感心しきり。
まぁ、本人たちがヤル気に満ちていたってこともあったからね。
「自分の店、かぁ……」
「独り立ち……」
「料理人……」
子どもたちも話を聞いて思うところがある様子。
特に彼らと年齢が近いコスティ君やオリバー君、そして料理好きなセリヤちゃんが。
まぁメイナードとエンゾはゆくゆくは孤児院を出ていかないといけないからね。
うちの子どもたちはまぁ言ってみりゃ終身雇用みたいなもんだし、あんまり思いこまないで大丈夫だぞ。
もちろんやりたいことができたら、俺もできる限り協力はするけどね。
「師匠、おひさしぶりです!」
「お久しぶりです!」
「二人とも久しぶり。……ところでその師匠ってのやめてくれない?」
ちょこっと料理教えただけなんだしさぁ。
「いえ師匠は師匠ですから」
「そうです」
なんて問答をしていると、ズズイとデカい顔が割り込んでくる。
『そんなことよりも煮込みはどうなった? お主らの腕が上がっているのか我が味を見てやろうではないか』
「お前なぁ」
また偉そうにして。
前にメイナードとエンゾの煮込みを食ったのをしっかり覚えているようだ。
『俺もお前らの煮込み覚えてるぞ! あん時からどんくらい美味くなってるか確かめてやるぜ』
『スイもー!』
ドラちゃんとスイも顔を出してくる。
『ほ~、主殿直伝か。それは楽しみじゃな』
ゴン爺もデカくてごつい顔を割り込ませてきた。
「「ド、ドラゴンッ?!」」
ゴン爺を見て硬直するメイナードとエンゾ。
その驚く反応が今となっては新鮮だよ。
最近じゃ冒険者や大きい街の兵士さんたちにはフェルとゴン爺の存在は知れ渡っているからね。
街に入る時なんかもガン見はされるけど驚きはされないんだよね~この頃。
ゴン爺の姿がドラゴンにしては小さい(そうなってくれている)のもあるんだろうけど。
あとは王都に行ったことも関係しているのかも。
街に入っても市民の方からびっくりはされるけど「従魔です」って言えばけっこう大丈夫だしさ。
俺たちが普通に街中歩いている時点で、街に入る審査が通ってるってことだからね。
って、そんなことは置いておいて。
「あ、ゴン爺って言うんだけど、俺の新しい従魔だから大丈夫だよ」
二人が「さすが師匠」とかつぶやいているけど、さすがってなんだよ。
そんなことよりも……。
「煮込み、もらえるかな? こいつらが待ちきれないみたいなんだ」
そうだというように食いしん坊カルテットが二人の屋台にかぶりつきだ。
そんな圧の強い食いしん坊カルテットを押しのけてピョコンと顔を出す強者が。
「ズルい! ここが美味しそうって最初に言ったのロッテなんだからね!」
頬を膨らませてプンプン怒るロッテちゃん。
「あー、ごめんごめん。ロッテちゃんが最初だったよね。ちゃんとロッテちゃんたちの分も買うから大丈夫だよ」
そう言ってロッテちゃんの頭をなでると「それならいいよ」と機嫌も直る。
そんなやり取りをしていたら「あの……」と声をかけられる。
「師匠、実は今日はもう売り切れで……」
メイナードとエンゾから空になった鍋を見せられた。
『『『な、なにーっ?!』』』
大声をあげてガックリするフェルとゴン爺とドラちゃん。
スイはペシャリとつぶれてしまった。
ロッテちゃんは「ないのー?」と口をへの字にしている。
「残念だけど、ないんじゃしょうがないよなぁ。でも、売り切れなんてずいぶん繁盛してるじゃん。すごいな二人とも」
俺がそう言うと二人とも照れ笑い。
「ありがたいことに今頃の時間にはいつも売り切れになるんです」
「うん。でも、俺たちも味には自信あるから。他の屋台には負けないよ」
お~、すごいな二人とも。
『小童が言うではないか。そうなると余計に食いたくなるな』
ぐぬぬと残念そうなフェル。
ゴン爺もドラちゃんもスイも残念そうだ。
するとメイナードとエンゾがコソコソと話し出す。
「明日、屋台は休みにしてみなさんのために用意しますから是非食べてください」
『なぬ? 本当か小童! なかなか話が分かるな。我が思う存分食ってやろう』
『うむ。儂もじゃ』
『俺も食うぞ!』
『スイもー!』
煮込みが食えると喜ぶ食いしん坊カルテット。
「なにが思う存分食ってやろうだよ。屋台を休みにしてって、大丈夫なのか?」
「はい。それに師匠に味をみてもらいたいし」
「あれから俺たちも研究していろいろ改良を重ねているんですよ」
ほ~、それは楽しみだ。
「明日の予定、美味しい煮込みをいただくってのでどうです?」
ヴェルデさんたちハイエルフに話を持っていと皆さんニッコリ。
「美味いものが食えるなら当然行くぞ」
そして子どもたちにも目を向けると……。
「ロッテだって食べるもん!」
ロッテちゃんも食う気満々でフンスと意気込んでいる。
「ハハ、そうだね。ロッテちゃんも行こうな。コスティ君たちもね」
こうして明日の予定はメイナードとエンゾが腕によりをかけて作ったトリッパ風モツのトマト煮込みをいただきに行くことに決まったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
みんなが寝静まった後、広いリビングでカレーリナの街で買ったお気に入りのお茶を飲みながらホッと一息。
「この家が借りられてよかった」
デカい一軒家だけあって部屋には困らない。
ハイエルフさんたちにも夫婦ごとに部屋を割り当てられたし、子どもたちにも男女別に一部屋ずつ。
どこの部屋も十分な広さというか広すぎるくらいだし、ベッドもキングサイズ並みに大きいのが備え付けてあるから窮屈ということはないだろう。
せっかくの慰安旅行なんだから、ゆったり楽しくしてもらわないとね。
俺も寝たいところだけど、寝る前に決めておきたいことがある。
明日は昼頃にみんなで孤児院にお邪魔する予定だ。
だけど、こちらでいただくばっかりじゃあね。
孤児院の院長先生や子どもたちと久しぶりに会うんだし、俺も何か美味いものを食わせたいよなぁ。
ホルモン焼きめっちゃ喜んで食ってたからまた食わせてやりたいけど、今回はまだ肉ダンジョンに潜ってないからさ。
そういやあの時のルイスたち少年少女も元気かな?
会うのが楽しみではあるけど、孤児院にはあの子たち以外にもいるわけだからかなりの量が必要となるわけで。
そうなると、やっぱりあの肉しかないよなぁ。
う~む。
あの肉は肉って言うより魚に近い食感と味だから…………。
いろいろと考えていたところ、ピコンと頭に浮かんだ。
「あれなら材料もそんなに多くはないし、なによりジャンクな感じが子どもたちにも受けそう」
あの肉を使ったサクサクフライにフライドポテト。
それにたっぷりのタルタルソースを添えて。
よし、これに決定。
明日は早めに起きてたくさん作くるぞ!




