第六百三十話 目が、目が、目が全然笑ってないからぁぁぁ!
お久しぶりの更新です。
次回はもう少し早めに更新できるようがんばります。
後日、慰安旅行の件を奴隷&ハイエルフのみなさん集めて話をすると……。
元冒険者と元傭兵連中には「突拍子もないことを……」って呆れた顔をされた。
「ムコーダさん、ローセンダールの街までどれくらいかかると思っているんだい……」
「冗談きついぜ」
実際に街から街へ移動したことのあるというか護衛の仕事をしたこともあるからそういう考えになるんだろうね。
「俺たちのご主人様はとんでもないアホなのか?」(小声)
そこっ、髭面おっさんの代表格アンドレイ!
小声で俺に聞こえないようにボソボソしゃべっているつもりでもこっちはしっかり聞こえているんだからな。
その他の髭面おっさんどもも「これだから金持ちは」なんて言って首を横に振ってんじゃないよっ。
「ゴホンッ。冗談でも何でもないぞ。移動はまったく問題ない。なにせうちにはゴン爺、ドラゴンがいるからな」
そう言ってニッコリしたら、ロッテちゃんをはじめとする子どもたちとハイエルフさんたち以外が顔を引き攣らせて固まってしまったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「わ、わ、私たちは辞退させてただきたいと思います」
顔を引き攣らせながらそう言うトニとそのトニの腕をつかみながら何度も頷くアイヤ。
「う、うちも同じくっ」
同様に顔を引き攣らせてそう言うアルバンに同意するように深く何度も頷いているテレーザ。
「えーっ、ロッテ行きたい~」
両親が慰安旅行を辞退したことにありありと不満の色が見える表情でロッテちゃんがテレーザのスカートをつかんで駄々をこねている。
そんなロッテちゃんにテレーザが「お黙りっ」とピシャリと叱る。
「ア、アタシらも辞退させてもらうよ」
「そ、そうだな、その方がいいな。姉貴」
「う、うん。こ、ここの警備の仕事があるもんな」
「……誰かが、護らないといけない」
「そ、そうじゃな。儂らは留守番じゃな」
元冒険者連中も行かないのかよ。
いつもは無口なペーターまでしゃべっているし。
なんだよ~、そんなに嫌なのか?
せっかくの慰安旅行なのに。
ローセンダールの街、治安も割といいうえに美味い物もあってなかなかに良い街で楽しいぞ。
「お、俺たちゃ新参者だからよ。まずは仕事覚える方が先だぜ」
「そ、そうだよな」
「あ、ああ。新参者だもんな」
「さ、さっきの説明で“日頃の労をねぎらうために”って聞いたけどよ、俺ら、そもそもここに来たばっかだしな」
「そ、それな」
「ろ、労をねぎらうもなにも、なんもしてねぇもんな」
元傭兵連中の言葉に同じく新規のヴィクトルさん一家も同意するように高速で頷いていた。
なんだよ~。
みんな行かないのか?
ちゃんとみんなには説明したんだけどなぁ。
みんなが頑張ってくれてるからその労をねぎらうための慰安旅行なんだって。
もちろん新しい奴隷だって参加OK。
というか楽しんでもらってこれからの仕事にヤル気を持ってがんばって従事してもらえればそれでいいし。
今回のことはうちの福利厚生を充実させる目的もあるわけだからさ。
行先のローセンダールの街は治安も悪くないし、肉ダンジョンがあるだけに美味い物がたくさんあるからみんなも十分に楽しめるだろうし旅行先としては最適の街だと思うんだけどなぁ。
行き帰りだって大きくなったゴン爺に乗って行くからなんの問題もない。
うちの奴隷&ハイエルフのみなさん+俺たちが乗ってもまだまだ余裕。
時間だってローセンダールの街までだったら半日くらいで行けるだろうってゴン爺が言ってたし。
……あ、それがマズかったのか。
ゴン爺に乗って行くっていうことは当然に空の旅。
あ~、そうか~。
俺自身何回も乗らされていい加減もう慣れたけど、そういや最初の頃はめちゃくちゃ怖くてビビってたもんなぁ。
腕を組んで辞退してきた面子をチラリと見る。
うーむ、企画としては“慰安”旅行だもんなぁ。
それなのにこれじゃあね。
企画倒れかなぁ。
ってかお前ら元冒険者に元傭兵だろ~、ちょっとは根性見せろよ~。
今回は中止かななんて考えていると……。
「俺たちは行くぞ」
「ああ。ローセンダールの街とは肉ダンジョンがある街だろ? 美味い物にありつけそうだ」
「私たちまだ行ったことないから是非行ってみたいわ」
「すごく楽しみ~」
旅行に行くと手を挙げたのはハイエルフさんたちだ。
そういやこの人たちはこの街に来るときにゴン爺に乗ってきたんだった。
あの時も楽しんでさえいたからビビるなんてことはないわな。
「ハイハイハイハイッ! ロッテも行きたいです!」
そう言って両手を挙げてアピールするロッテちゃん。
「ロ、ロッテ?!」
「ちょっ、ロッテ!」
そんなロッテちゃんを焦りながら止めるアルバンとテレーザ。
「だって行ってみたいー! ムコーダのお兄ちゃんもいるしヴェルデお兄ちゃんとセルマお姉ちゃん、ラドミールお兄ちゃんとラウラお姉ちゃんもいるんだから大丈夫ー」
「そんなこと言ったって。ねぇ、アンタ……」
「う、うむ」
こちらをチラチラと窺うアルバンとテレーザ。
親としたら心配だしダメって言って欲しいんだろうけど、俺もいるしハイエルフさんたちもいるんだぞ。
大人が五人もいるし、戦力として(過剰すぎるくらいの)フェルたちだっている。
なにより子どもの時の思い出ってすごく大事だと思うんだ。
だから楽しんでもらいたい。
「よし、ロッテちゃんも行こう」
「ヤッター!」
ロッテちゃんがキャッキャッと嬉しそうにジャンプして喜ぶ。
「ム、ムコーダさん?!」
「アルバンもテレーザもそんな心配すんなって。大人が五人も付いていくんだぞ。そもそもローセンダールは治安も良い街だ。その上で護衛にはフェルたちもいるし、ヴェルデさんたちだってかなり強いんだぞ」
俺がそう言うとウンウンと頷くヴェルデさんたちハイエルフ。
この戦力でなにかある方が不思議なくらいだよ。
あ、そうだ……。
「コスティ君、セリヤちゃん、オリバー君、エーリク君はどうする?」
そう聞くと四人は目配せし合いながら考えている様子。
「あとニコライ君とカトリーナちゃんは……」
ニコライ君とカトリーナちゃんは両親のヴィクトルさんとネリーナさんに必死にしがみついて首をブンブン振っている。
この二人はまだここに来たばかりだしそういう気にはならないか。
「あ、あの僕たちも行きたいです!」
コスティ君がそう言うと他の三人も大きく頷いた。
「よし。じゃあ俺、ヴェルデさんたち、ロッテちゃんたちでローセンダールに行こう!」
考えていたみんなで行く慰安旅行とはちょっと違うかもしれないけど、がんばってくれていた子どもたちが楽しんでくれればいいな。
しかし、ハイエルフのみなさんはロッテちゃんからお兄ちゃんお姉ちゃんって呼ばれているのか。
年齢ウン百歳のみなさんなのに。
見た目は若いけど、俺よりうんとう~んと年上なのに。
解せぬ。
そんなことを考えていると強い視線を感じた。
視線の方に目をやるとセルマさんとラウラさんがニッコリ笑っていた。
も、もしかして、お、俺の考えてること察知してる?
「ヒッ……」
ちょっちょちょちょちょ、目が、目が、目が全然笑ってないからぁぁぁ!
こ、怖いってばーっ!
「じゃ、じゃあ、しゅ、出発は、一週間後くらいでいいかな? そ、そのくらいあれば、しっかり準備できるし、ヴェ、ヴェルデたちも冒険者ギルドの予定もつくだろ?」
「ああ。最近は大物の解体も落ち着いてきたし、それだけあれば急ぎの仕事をこなせば休みに入れるな」
「ロ、ロッテちゃんたちも、滞在は二週間くらいを予定しているから、そのつもりで準備してな」
「ハーイ!」
ロッテちゃんたちが「なに持っていこうかな」とか「なにを持っていけばいいだろう」なんてワイワイやっているうちにそそくさとその場を離れる俺だった。
あー、怖かった…………。




