第六百二十九話 福利厚生ダイジ
皆様、今年もよろしくお願いいたします。
更新が遅れて申し訳ありません(汗)
久しぶりに風邪をひいて寝込んでいました。
ここ一年以上風邪ひいてなかったのに油断するとダメですね。
皆様もお気を付けください。
傭兵のおっさんたちが従業員の中でも酒好きなバルテル、ルーク、アーヴィンたちから勧められたキンキンに冷えたビールをゴッゴッゴッと喉を鳴らしながら飲み干した。
ちなみにだけど、ギガントミノタウロスもダンジョン牛の上位種のステーキには「なんて肉出してくんだよ」ってボヤキながら呆れてはいたけど「出されたものについては文句なく食う主義だ」とかでしっかり食っている。
「おいおい、なんだこの酒は……」
「ウメェ~」
「美味すぎる……」
「これはダメだろぉ~」
「俺たち今まで何を飲んでいたんだ……」
「美味い……」
空になった陶器製のタンブラーを呆けた顔をして見ながらそう口にした。
その様子を見て何故かドヤ顔のバルテル、ルーク、アーヴィン。
そして、奴隷たちやハイエルフさんたちまで一通りステーキが行きわたったと思ったらいつの間にか酒飲んでるし。
ハイエルフさんたちはシレッとワイン飲んでるよ。
まぁ、飲むために出したんだから別に良いけどさ。
もうちょっとステーキを味わってから本格的に飲んで欲しいぞ。
そう思ってももう遅いみたいだけど。
もうみんな完全に飲みに入っちゃってる様子だし。
「わかったじゃろう。ここで出てくる酒は最高に美味いんじゃ」
「ムコーダさんが仕入れてくるもんだから他じゃあ飲めねぇんだぜ」
「しかも、これ以外にも美味い酒があるとくる」
「「「「「「なにっ?!」」」」」」
ビール以外にも美味い酒があると聞いてドヤ顔の三人にギラギラの目を向けるおっさんたち。
この髭面のおっさんたちも相当な酒好きのようだ。
まぁ見た目からしてそんな感じだもんなぁ。
ステーキそっちのけで酒に夢中になっている元冒険者と元傭兵。
しかし、ここは一言言っておかないとね。
家の酒好きドラゴンと一緒で特に元冒険者の三人は前科がある連中だからね。
「酒を飲むなとは言わないけど、ほどほどになぁ。前みたいのは困るぞ。ここには子どももいるんだから」
ベロンベロンに酔った姿は教育に悪いぞ。
「だ、大丈夫だって」
「そ、そうそう。前はちょーっと羽目を外し過ぎただけだし」
「うんむ。大丈夫じゃわい。………………恐らく」
ちょっと怪しいけど、まぁ念押しはしたし無茶はしないか。
この三人よりも危ないのは、やっぱこっちの新参の髭面のおっさんたちだよねぇ。
「“暁の旅団”の皆さんもくれぐれも飲み過ぎないように。そこら辺で寝落ちなんてしないでくださいね」
「「「「「「おうっ」」」」」」
返事だけはいいんだけど、本当に大丈夫か?
眠たくなったらちゃんと部屋に帰ってよ。
俺の一抹の不安をよそに酒を酌み交わす元冒険者と元傭兵の酒好きたち。
でもまぁ、みんなもいい大人だし一応信用するか。
『おい! 我らの分はまだなのか?』
『主殿、約束の肉はまだかのう?』
『そうだぞ。俺たちの特大の分厚い』
『お肉ーっ!』
「うぉっ、はいはい、今すぐ焼くよ!」
フェルたちに急かされて特大の分厚い肉を焼く俺。
焼くのはダンジョン牛の上位種の肉だ。
分厚いだけに焼き上がりはレアだがフェルたちは喜んで食っている。
次に焼きに入ったのは子どもたち用の追加のステーキとリバイアサンの肉。
「はいはい、ロッテちゃんたちももっと食いな」
子どもたちも楽しみにしていたのか、ステーキをガンガン食っていく。
みんなとも少しは仲良くなってきたのか、緊張していたニコライ君とカトリーナちゃんにも笑顔が見られたのでちょっと安心した。
「トニたちもどんどん食って。ヴェルデさんさんたちも」
そう言うとみんな追加の肉を求めてワラワラと寄ってくる。
トニたち(某一部の従業員大人連中を除いた)とハイエルフさんたちは肉を楽しみつつワインもほどほどに楽しむことにした様子。
リバイアサンの人気がないのがちょっと悲しいぞ。
『うむ。やはりこの肉には赤ワインだのう。主殿よ赤ワインを所望するぞ』
「へいへい。って、飲むなとは言わないけど、分かってるよね?」
『わ、分かっておるわい。儂だってもうあんな目で見られたくないからのう』
「ならいいけど」
そう言いながらゴン爺に注いでやったのは、事前に用意していたワインの中でもコスパ重視で用意した一番安いチリ産ワイン。
なにせ大量に飲むからね。
『う~む。なかなかに美味いワインじゃのう』
口に合って良かったね。
それ実は1本銅貨5枚(500円)なんだけどさ。
ゴン爺が酒については舌が肥えてなくてホント良かった。
そんなことを考えながらステーキを焼くことに徹した俺だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ルーク兄ちゃんとねーアーヴィン兄ちゃんとバルテルおじちゃん、あと新しく来たおじちゃんたちがお外で寝てたんだよ。グゴーグゴーって大きいイビキかいてた! ね、セリヤ姉ちゃん」
「うん。起こしてもなかなか起きてくれなくて大変だった」
「そうなの? あれほどほどほどにしとけって言ったのに……」
「ああいう大酒飲みの奴らにはほどほどになんて言ったって聞きゃあしないよ、ムコーダさん」
「子どもたちもいるんだからそういうのはダメだって言ったんですけどね~」
今日は朝からアイヤ、テレーザ、セリヤちゃん、ロッテちゃんが母屋の掃除の仕事に来ていた。
俺はちょこっとだけ掃除に参加しつつみんなとおしゃべりだ。
アイヤやテレーザからは「そんなことしないで、ゆっくりしててください」っていつも言われるんだけど、手持無沙汰になるしこれも性分だからしょうがない。
そんなことでいつもやり過ぎないようにちょこっと手伝うくらいにしながらおしゃべりを楽しんでいる。
フェルたちは邪魔にされるから庭に避難してるよ。
朝飯を食った後だったから掃除が始まると分かったらすぐに退散していったわ。
ちなみに朝飯は昨日のダンジョン牛の肉の残りとモヤシで牛肉モヤシ炒め。
味付けも困った時の焼き肉のタレでサッと済ませた。
俺も昨日ちょっと飲んだから起きるのが少し遅くなっちゃったからさ。
それを丼にして温泉卵と白ゴマをトッピングすれば立派な一品。
超簡単だけど美味いからみんな喜んで食ってくれたよ。
まぁそんなことはいいとして、あの酒好き共も困ったもんだねぇ。
もう冒険者や傭兵じゃないんだし、ここには子どもいるんだからその辺はきちんとしてもらわないとな。
あとで注意しておくかと思っていると……。
「まぁアタシとアイヤで十分言い聞かせておいたからもう大丈夫だとは思うけどねぇ」
「そうですねぇ」
「そ、そっか」
ちょっ、テレーザ? アイヤ?
二人ともうっすら笑った顔が怖いよっ。
酒飲みどもよ、どんなお小言を食らったのかわからんが、今後は気を付けなよ。
「あ、そうだ! ムコーダのお兄ちゃん、またダンジョンに行くんでしょ?」
「うん。今度行くのは前にも行った肉がいっぱい獲れるダンジョンがあるローセンダールだ」
「いいな~。ロッテも行ってみたい」
「ダンジョンに?」
「ううん。ロッテ、前にいた村とこの街しか見たことないから他の街にも行ってみたいな~って」
あ~、そういうことか。
「コラッ、ロッテ! わがまま言うんじゃないよ!」
「だって~」
テレーザに怒られてふくれっ面のロッテちゃん。
しかし、ローセンダールならなくはないか?
しばし考える。
ここでは街から街へなんて、それこそ貴族以外の一般人だと冒険者か商人でもない限りはほとんどない。
住んでいる村や街で一生を過ごす人も多いというか大多数はそうだ。
なにせ魔物はいるし盗賊なんてものもいるから移動自体が命懸けだからな。
そうなると他の街へ行くのは一大イベントとなるわけだ。
ここは従業員の福利厚生を考えて慰安旅行っていうのはどうだろうか。
移動だって俺たちの場合はゴン爺がいるから楽々だ。
ローゼンタールの街は治安もそこまで悪くはなかったし、肉ダンジョンがあるだけに美味い物もたくさんある。
慰安旅行の先としてはうってつけの場所な気がしてきたぞ。
うちはブラックじゃない。
福利厚生の充実は大事なことだよね。
よし、そうしよう。
「みんなで行こうか。ローゼンタールの街へ!」




